腕時計
懐中時計を腕時計で楽しむという選択。
2024.02.14
ビジネスシーンでもスマートウォッチは珍しくないどころか、もはや主役といっていいだろう。確かに着信メールやスケジュールの確認や対応が即座にでき、操作性も格段に向上し、その進化には舌を巻く。とはいえ便利な実用ツールとして使いこなすのはいいが、これをオフタイムにまで持ち込みたくはない。そこでまったくの対極としてお薦めするのがUDEMACI(ウデマキ)だ。
ヴィンテージの懐中時計を専用アタッチメントで腕に巻けるようにカスタマイズする。ベースの時計にはまず分解掃除と修理、必要であればパーツ交換の上、調整を施し、精度や機能、美観を整える。特許を取得したアタッチメントは、異なるケース径でも確実に固定し、本体を傷つけることもない。しかも違和感なく腕にも馴染む。通常の腕時計との違いはリュウズが天頂にくることぐらいだ。
写真の2本は、オメガ(右)とロンジン。前者は1923年製造で針の形状や数字のタイポグラフィもエレガントだ。後者は1928年製造でやや大振りのケース(44.1㎜径)は視認性も優れ、質実剛健が宿る。いずれもホーロー文字盤に青焼きの針が美しい。まさに名門ブランドの1世紀近い歴史を掘り起こす醍醐味と、アンティークの一点モノという誰とも被らない密やかな優越感も味わえるのだ。
UDEMACIは、懐中時計に魅せられた愛好家の趣味が高じて2019年にスタートした。近年、懐中時計はフリマサービスなどで一般にも流通されるようになったが、信頼性やメンテナンスへのハードルも高く、これを解決し、現代のライフスタイルに沿った形でその魅力を次世代に伝えようという取り組みだ。さらなる事業化に向けてキックスターターも導入したところ、海外からの反響も大きく、香港から日本旅行の記念として購入したいという問い合わせもあったそうだ。訪れたのは若いご夫婦で、こんな時計は初めて見るととても喜んで購入されたとか。時計のインバウンドは円安下の高級ブランドだけではない。
1930年代頃には腕時計に取って代わられた懐中時計だが、機械技術や装飾技法はすでに完成の粋にあったといえるだろう。むしろ熟練の技が注がれ、現代では再現が難しい仕様もある。
もちろん機能や実用性では現代の時計にはかなわない。1日に1度はゼンマイを巻き、周囲のパソコンやスマホ、イヤホーンなどが発生する磁気も避けなければいけない。防水性もそうだ。ただUDEMACIは専用アタッチメントに装着し肌に直接触れないので、発汗の影響はほとんどないそうだ。
そうした不便ささえも唯一無二の魅力は補ってくれる。休日の朝、ゼンマイを巻くことで1日が始まる。メールやスケジュールからも解放された自由な時間だ。腕に巻くもよし、アタッチメントから外せば懐中時計としても二通りで楽しめる。こんな時計と過ごせば、普段よりもゆったり時が進むことを実感できることだろう。
Text:Mitsuru Shibata