お酒
もしも香港出張が入ったら? 最新香港街歩き。
2024.02.28
海外出張、それはビジネスパーソンの醍醐味(だいごみ)。空港独特の匂いに始まり、車窓からの異国の街並み、ミーティング前の緊張感……どれもが非日常的で、そして仕事終わりに待ち受ける一杯は最高にエキサイティングだ。こちらの「もしも○○出張が入ったら?」では、元・地球の歩き方のトラベルエディターが海外出張の隙間時間に役立つ遊び方を紹介。vol.2の舞台は香港へ。
伝説的ホテルのロビーラウンジ&広東料理へ
香港に来たならば、それが旅行だろうと出張だろうと見逃せないのがビクトリア・ハーバーの夜景である。ガイドブックのモデルプランでは、香港島のビクトリアピークから、もしくは尖沙咀(チムサーチョイ)のアベニュー・オブ・スターズから眺めるのが定番だが、ひと仕事終えたビジネスマンにおすすめしたいのは2023年11月にグランドオープンしたばかりのホテル、リージェントホテル香港の「The Lobby Lounge(ザ・ロビー・ラウンジ)」だ。
そこはまさに、ハーバーフロントの特等席。香港島の眺めでここに勝るホテルはないと断言できるが、私が推す理由は立地だけではない。この場所に最初のリージェントが誕生したのは、実は1980年のこと。ペニンシュラやマンダリンオリエンタルと並び、香港を代表するラグジュアリーホテルとして多くのファンに愛されてきた。その後、惜しまれながらブランド名を変え、2001年からは「インターコンチネンタル香港」の名で営業。そして2020年から3年間にも及ぶ大規模改装を経て、再びリージェントの看板を引っ提げて復活を果たしたため、いま香港では「あのリージェントが帰ってきた!」と大きな話題になっているのである。
そんな伝説的ホテル、リージェントホテル香港のザ・ロビー・ラウンジへは、アプローチからじっくりと楽しみたい。ドアマンのエスコートで扉が開き、リノベーションで一新されたロビーを抜けると、一気に天井が高くなり圧巻の夜景が飛び込んでくる。観光客でにぎわうアベニュー・オブ・スターズは目と鼻の先だが、ロビーが2階に位置しているため喧騒はまったく気にならない。出張で自由時間が取れるかわからないという方でも、ここは朝食、ランチ、アフタヌーンティー、ディナーとオールデイで営業しているので使い勝手抜群。少しでも時間が空いたら真っ先に足を運び、香港一ぜいたくなピクチャーウインドーを堪能してほしい。
リージェントホテル香港には、もうひとつの復活劇がある。それは、ミシュラン二つ星を獲得する広東料理店「麗晶軒(ライチンヒン)」だ。同レストランはインターコンチネンタル香港の頃、そしてホテル改装中も「欣図軒 (ヤントウヒン)」の名前で営業を続け、ホテルがリージェントに名前を戻すのをきっかけに、レストランも1984年にオープン当時の名前、つまり麗晶軒へと店名を変更した。ここをおすすめするのは王道中の王道ではあるが、広東料理の神髄に触れるためには外すことはできないし、高級感ある内装や翡翠(ひすい)のカトラリーは接待にも最適。香港に出張するすべての方に、ブックマークを推奨したい。
エグゼクティブシェフの劉耀輝(ラウ・イウ・ファイ)氏はリージェント時代に入社してから、旧麗晶軒、欣図軒、そして今の麗晶軒と、30年間以上勤めている大ベテランだ。店名復活のエピソードはノスタルジックだが、劉氏の広東料理は未来志向。常に新しい食材や調理法が模索され、現代的なエッセンスが加えられている。キャビアが添えられた点心や、かわいらしい蟹の姿を模した甲羅揚げはその一例。挑戦的な試みはお茶にも反映されており、Mindful Sparksとコラボした「龍眼はちみつ入りスパークリング烏龍茶」はまったく新しいペアリングの可能性を提案してくれている。ランチ、ディナーとも、メニューかアラカルトから選択可能。人気店なので、予約は必須(WEBから可能)だ。
香港の夜は、中環(セントラル)でバーホッピング
夜もまだまだ飲み足りないという方は、香港島の中環へ足を運ぼう。このエリアは徒歩圏内にバーが密集。香港は治安がいいので、私も行くたびについつい遅くまでハシゴ酒をしてしまう。近年、香港のバーシーンは盛り上がりを見せており、毎年発表される「Asia's 50 Best Bars」でも8軒のバーがランクイン(2023年版ランキング。ちなみに東京からは5軒が選出)。個性豊かな実力派バーがしのぎを削っている。
香港のバーで最注目なのが、前述した「Asia's 50 Best Bars」で目下3年連続アジアNo.1に君臨する「COA(コア)」だ。雰囲気はカジュアル。店内にはラテン音楽が流れ、壁には神話の女神マヤウェルが描かれている。テキーラやメスカルを主材料にしたオリジナルカクテルには、平均して5~6種の副材料がミックスされており、何層にも重なる複雑なテイストが飲むたびに口の中で調和していく。メニューを見てもどんなカクテルか皆目見当が付かないのがCOAの面白いところ。上から下に行くに連れアルコール度数が高くなることだけ覚えておき、あとは直感に任せてオーダーするのもいいだろう。
あいにく予約は受け付けておらず、連日開店前から長蛇の列ができているが、18時以降はウェイティングリスト制。名前と連絡先を登録すると、席が空き次第通知をもらえるシステムになっている。ただし、週末は22時ごろに行っても閉店までに順番が回ってこない可能性があるので、早めの時間帯に足を運ぶのが吉だろう(1名であればカウンターにすっと入れることもある)。またCOAから徒歩5分ほど行った先にある「The Savory Project」は、2023年5月にオープンしたばかりの姉妹店。近年トレンドのセイボリーカクテル(甘さや果実味を抑え、うま味が感じられるカクテル)に特化したバーで、ぜひこちらもチェックしてみてほしい。
香港のバーといえば、ルーフトップも欠かせない。夜風に当たりながら、夜景をつまみに飲む1杯は至福のひとときだ。これまで私のお気に入りはSEVVAだったが、2024年5月で閉店すると聞き、大変残念に思っている。しかし、次から次へニュースポットが誕生するのが香港の面白さ。今、同じ中環エリアで話題なのは、2023年夏にオープンしたばかりの「Cardinal Point(カーディナル・ポイント)」だ。ランドマーク内のグロセスタータワーのエレベーターで43階まで行き、また別のエレベーターに乗り換えて最上階へと上がっていく。この少々わかりづらいアクセスが、逆に隠れ家感を演出。いざ扉が開いて夜景を目の前にしたときの高揚感はなかなかのものである。
前述したSEVVAは、実はすぐ隣のブロック。高さのある分、Cardinal Pointのほうがハーバー側も山側も遠くまで見渡すことができ、テラスも広々している。メニューにはサラダやタコス、ピザ、ステーキなどフードもひと通りそろう。ディナーも楽しみたければ、事前にテーブルを予約しておこう。
ここからは上級者編、スピークイージーの紹介だ。スピークイージーとは禁酒法の時代に密造酒を提供していた酒場のこと。今では看板のない隠れ家バーのことを指す。
威靈頓街(ウェリントンストリート)にある「The Green Door(ザ・グリーン・ドア)」は、まわりに青果市場の屋台が並ぶ一角にあり、「こんなところにおしゃれなバーなどあるはずがない!」と誰もが思うだろう。恐る恐る緑色のドアを開けると、白塗りの壁に囲まれた階段が姿を現す。アーチ状の天井に囲まれた店内は、照明も控えめでムード抜群。ドリンクはオリジナルカクテルを中心にグラスワインやビールが、フードは自家製ジャーキー(HK$60)やステーキ(HK$620)など種類は少ないがつまみからメインまでそろっている。
中環エリアはこうしたスピークイージーの宝庫。例えば、現在The Green Doorが営業している場所で、長年店を構えていた「001」は、現在は歴史的建造物でアートスペースに生まれ変わった「大館」の中でまたもや看板を出さずに営業している。001は香港にスピークイージー文化を根付かせたとも言われる老舗。興味が湧いた方は、「C HALL」をヒントにそちらも訪れてみてほしい。
時間が許せば、最新美術館「M+」へ
飲んで食べてばかりのおすすめが続いたが、アート鑑賞も香港滞在の大きな楽しみだ。ビクトリア・ハーバーのウォーターフロントに2021年11月にオープンした「M+」は、20世紀以降の絵画・写真・映像・建築・デザイン・大衆文化といった広範囲に及ぶ「視覚芸術」をテーマにした美術館。展示空間やギャラリー数はアジア最大級の規模を誇り、世界中から著名なキュレーターを集めた展示方法やコレクションは非常にユニークで必見だ。
M+の開館時間は10〜18時まで(月曜は休み)だが、金曜は22時まで開いているので、仕事後に訪れることも十分可能だろう。ただし、隅々まで鑑賞しようとしたら2日はかかる規模なので、ある程度ポイントは絞る必要がある。個人的には、アジアを中心としたデザインや建築の変遷をテーマ別・年代別に紹介した「East Galleries」と、元駐中国スイス大使で中国現代美術コレクターのウリ・シグ氏が寄贈した作品が並ぶ「Sigg Galleries」の2つがイチオシだ。
例えば「East Galleries」では、日本のダイハツが生産していた三輪自動車ミゼットを展示。日本では1950〜60年代に庶民の足として活躍し、1972年に生産終了しているが、タイやインドではミゼットのデザインを参考にしてトゥクトゥクやオートリキシャが誕生したと言われている。アジアでの交通革命にひも付けて紹介することで、改めてプロダクトが脚光を浴びる手法は非常に興味深い。
また1960年代から活躍した日本人デザイナー、倉俣史朗氏がデザインしたすし店「きよ友」が、M+にまるごと移築されて展示されているのも見逃せない。しばらく廃業状態だったすし店をなんとM+がまるごと買い取り、解体して香港で組み直した作品。その過程を紹介した約7分半のドキュメンタリー映像もあるので、ぜひご覧いただきたい。倉俣のデザイン家具は世界中の美術館に展示されているが、空間自体を所有し公開するという試みは非常に珍しく、M+のスケールの大きさを物語っている。
香港みやげは、中環街市であれこれ選ぶ
家族や友人へ贈る香港みやげを選ぶなら、中環街市が面白い。ここには、かつて香港市民が生鮮食品を買い求めた歴史あるウェットマーケット(街市)があった場所。現在の建物が建てられた1939年当時は、バウハウスやストリームライン・モダンを取り入れた近代的なデザインだったが、老朽化や市民のライフスタイルの変容により2003年に閉鎖。そして2021年8月、ランプシェードや赤レンガの壁、大時計など、以前の面影を残しながら、現代の街市としてリニューアルオープンした。
1、2階には洗練されたショップがずらりと並び、「香港トラムストア」や「香港淳記」ではレトロなデザインの香港雑貨が手に入る。男性向けのおみやげであれば香港版トミカと呼ばれる「Tiny」、女性向けであればメイドイン香港のお洒落なコスメや食品が揃うライフスタイルショップ「Slowood」あたりで探すのもいいだろう。また2階のフードコート「中街食街」では、麺料理や牛バラの煮込み、雞蛋仔、ミルクティーといった香港のストリートフードも楽しめるので、小腹が空いたら立ち寄ってみよう。館内にはかつての中環街市の写真も展示されていて、買い物や食事だけでなく、歴史的建築物としても楽しめる。
ちなみにこのあたりには「ifc」や「ランドマーク」などのショッピングモールのほか、少し歩けば大行列のできるクッキー屋「Jenny Bakery」、さらに麺や魚介類の乾物、お茶などが買える上環の海味街も近い。徒歩圏内なので、みやげ探しがてら散策してみるのもおすすめだ。
疲れを癒やす、おすすめの足ツボマッサージ
最後に、疲れた体をリフレッシュしてくれる足ツボマッサージのお店を紹介しよう。香港の街なかにはマッサージ店が数多くあり(特に尖沙咀や佐敦、中環、銅鑼湾あたり)、金額的には日本より少し安いところがほとんど。満足できるかどうかは施術者の力量によるところが多いので運・不運が付き物ではあるが、私が通っているなかで「やっぱりここだよな」と思わせてくれるのが、尖沙咀にある「Tai Pan Reflexology Parlour」だ。
店内は薄暗いが、清潔でリラックスできる空間。荷物を入れるロッカーが全員分あったり、足湯とマッサージのスペースが分かれていたり、随所に高級感が感じられる。フットマッサージは50分でHK$288と相場よりも高めだが、過去担当してくれたセラピストは全員上手だったので、尖沙咀以外のホテルに滞在していてもわざわざこちらに足を運ぶことが多い。フットマッサージでもフルフラットになって施術を受けられるのでいつも途中で爆睡してしまう(だいたいのマッサージ屋は椅子に腰掛けた状態で施術を受ける)。平日は30分HK$180のお手軽フットマッサージコースもあるので、さくっと立ち寄るのもいいだろう。
金融関係からメーカー、アート、ファッション、音楽まで、さまざまな領域の出張者が多い香港。もちろんプライベートの香港旅行だったり、また香港が経由地だったりする場合でも、ここで紹介したスポットはどれも自信をもっておすすめできるものばかり。非日常が詰まった街なので、1分1秒も無駄にすることなくエキサイティングな香港を堪能してみてほしい。
取材協力:香港政府観光局
https://www.discoverhongkong.com/jp/