腕時計
SHOWCASE
私の一部になった時計。
2024.04.17
各界のプロの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。
腕時計をつける習慣は元々なかった。ハワイ大学の入学が決まったとき、母ヤマザキマリから贈られたお祝いはスイス製の腕時計だったが、時刻確認はもっぱらスマホに任せきりで、大学が始まってからも母にもらった腕時計を使うことはなかった。
大学を卒業し、東南アジアへの旅行の準備を進めていたある日、イタリアに暮らす父ベッピから突然G‒SHOCKが送られてきた。彼はどこかでカシオの歴史を知ったのをきっかけに、この日本の高度成長期の象徴ともいえる時計のとりこになっていた。腕時計をつけ慣れていない私だが、父からの熱心な説得に加え、旅には役立ってくれそうだと思い、その贈り物を使ってみることにした。
高い耐久性能、手首になじむ軽量設計、1時間おきに小さく鳴る時報、便利な機能の数々。身につけるものが自然に自分の一部として溶け込む感覚というのは、こういうことなのだろう。G‒SHOCKは今も私に寄り添ってくれている。
昨年、東京を訪れていた父から、樫尾俊雄発明記念館に行かないかと誘われた。カシオ計算機創業者のひとりである樫尾俊雄氏の成城にある私邸が、現在は記念館となっていることを調べてきたのだ。喜々としている父と一緒に記念館を訪れるも、内覧するには予約が必要だったと知って見学は諦めた。しかし父はがっかりするどころか、樫尾氏が暮らしていた家を見られただけでも感激だったらしく、まるで子どものようにはしゃいでいた。私たちは徒歩で1時間かかる家までの道のりを、途切れることもなくG‒SHOCKの魅力について語り合った。
文・山崎デルス
Derusu Yamazaki
写真家・文筆家。19年に米・ハワイ大学マノア校機械工学部を卒業後、フリーランスカメラマンとして活動。『猫がいれば、そこが我が家』『CARPE DIEM 今この瞬間を生きて』などに写真を提供。
Photograph: Yuki Saito
Styling: Hidetoshi Nakato (TABLE ROCK.STUDIO)
Text: Eisuke Yamashita