腕時計
スーツと腕時計の選び方。
2024.05.07
洋のものであったスーツと腕時計。いまの時代、日本人はいかにして装うか。先駆者、白洲次郎の旧邸宅「武相荘」を訪ねて、現代の紳士像に思いを巡らせた。
いま、働き方も暮らし方も大きく変化している。150年ほどの時間をさかのぼって、明治時代に洋装になって以来の大転換と言っても過言ではない。会社に行くのか行かないのか、街に暮らすのか田園に蟄居(ちっきょ)するのか。どんな選択も、ありだ。
最近、「どんなスーツを着ればいいか」を問われることが増えた。2008年にアエラスタイルマガジンを創刊したときに、私はスーツの着こなしルールを明示した。例えば、「肩の芯が薄いスーツを選ぶ」とか「Ⅴゾーンは同系色でまとめる」とか。ルールを守れば、ファッションを諦めかけたビジネスパーソンもお洒落(し ゃれ)になれると伝えてきた。
これに対して、「もっと自由にスーツを着てよいのでは」と投書をいただいたことがある。そのときは、ルールの明示こそがスーツの民主化につながると信じて、「もっと自由に」といった意見にもくみせずやってきた。
創刊から15年の時間がたった。いまこそ、「スーツは自由でよい」と宣言したいと思う。あるいは着ないという選択肢もある。それでも、スーツの選び方をサジェストするならば、「自分の気持ちが上がるものを着る」とか「季節感を大切にする」といったところだろうか。春の木漏れ日が感じられる日には、ジャケットの下にニットやカットソーを合わせるのもいい。四季だけでなく、二十四節気や七十二候までにも気を配れば、選ぶ色や素材も幅が広がってくる。
では、腕時計はいかに選べばよいのだろうか。私自身は、その日の着こなしとコーディネートして、複数の腕時計を使い分ける。スーツの色と同系色のストラップの腕時計を選んだり、スポーティーな文字盤の腕時計で快活なイメージにしたり。
新しい腕時計を購入するときには、スペックや機能も気にしないわけではないが、それよりも、ストーリー性があって、そこに共感できるブランドを選ぶ。
政府から洋装にしろと言われ、ネクタイを外せと言われ、ファッション雑誌から着こなしルールを守れと言われ。そんな時代は過ぎ去ったのだ。2024年。自分の着こなしは、自分で決めようではないか。自分の時間は、自分で動かそうではないか。
文・山本晃弘(服飾ジャーナリスト)
「アエラスタイルマガジンVOL.56 SPRING/SUMMER 2024」より転載
ここには載せきれなかった写真は、アエラススタイルマガジン VOL.56にてお楽しみください!
Photograph: Masanori Akao(whiteSTOUT)
Text: Teruhiro Yamamoto(YAMAMOTO COMPANY)