週末の過ごし方
知られざるベトナムのリゾート。
自然保護地域で過ごす、アマノイの休日。
2024.10.10
安近短の海外旅行先として人気を誇るベトナム。日本人にとっては、ホーチミンやハノイでの食べ歩きや雑貨ショッピング、フエやホイアンでの古都巡りが定番の遊び方だが、実は欧米や中華圏の富裕層たちは「世界屈指のビーチリゾート先」として熱い視線を注いでいる。
なかでも人気なのが、ニャチャン周辺。南北に細長い形をしたベトナムの中南部に位置し、エメラルドグリーンに輝く透明度の高い海と、採れたての海鮮料理が評判だ。玄関口となるカムラン国際空港へは日本からの直行便はないものの、ベトナム国内で乗り継いだあとは40分〜1時間半ほど。フライト数も多いため実はアクセスしやすいリゾートと言えるだろう。
今年の私の夏休みは、円安・物価高の影響も加味しつつ、かねてから興味があったこのベトナムのリゾートで過ごすことにした。ニャチャン近郊でステイ先として選んだのは、2013年に開業したベトナム初のアマン、アマノイだ。
日常と隔離された圧倒的なロケーションと、
おこもりに最高な私的空間。
正直に言うと、ベトナムでのリゾートステイは初めてだったので、一抹の不安もあった。だが、結論から言うと、過去に泊まったリゾートホテルと比べても1、2位を争うほど、アマノイでの滞在は素晴らしいものだった。
そう強く感じることができた一番の理由は、アマノイのロケーションのおかげだろう。サンスクリット語で「平和なる場所」を意味するアマノイは、ヌイチュア国立公園という自然保護地域内に位置している。カムラン国際空港から専用送迎車で向かう道中は東南アジア特有の喧騒が見られたが、70分ほど走るとまるでベトナムから違う国に入国したのでは、と思うほど人里離れた楽園が広がっていた。
アマノイの客室は全部で4タイプ。眺めのよい木製のサンデッキを有した「パビリオン」、デッキにプライベートプールも備わった「ヴィラ」、スパ施設を兼ね備えた「ウェルネスプールヴィラ」、そして専属バトラー付きの「レジデンス」に分かれている。
パビリオンとヴィラの間取りは共通で、リビングスペースを中心に、片側にバスタブとシャワールームが分かれたバスルーム、反対側には上質な眠りをかなえてくれるベッドが置かれ、シームレスにつながっている。今回滞在した「オーシャンプールヴィラ」はプールが備わり、インフィニティエッジになった先から、ヴィンヒー湾と南シナ海の素晴らしいパノラマを同時に堪能することができた。デッキの一番奥がシャワールームと直結する機能的なデザインになっており、プールから上がったらすぐにシャワーを浴びるもよいし、サンデッキに置かれたベッドチェアに腰掛けて、体が自然に乾くまで読書を楽しむのもよい。
このプライベート空間の居心地が良すぎるため、食事の何度かはインルームダイニングでいただいた。なかには滞在中、一歩も外に出てこないゲストもいるそうで、その気持ちも十分にわかる気がした。
もちろん、部屋の外に出てもアマノイは楽園である。より積極的に心と体を解きほぐしたければ、湖畔沿いのアマン・スパへ足を運ぶとよい。ここには充実のフィットネス施設やスタジオがそろっており、心身のメンテナンスの拠点となる。専門のセラピストにお願いすれば、一人ひとりのゲストに合わせたウェルネスプログラムも準備してくれる。ここからの眺めは動的なオーシャンビューではなく、静的なレイクビュー。この穏やかな眺望も、一度自身の健康状態を見つめ直すのにはぴったりだと個人的に感じた。
セラピストによるトリートメントでは、シグネチャーメニューの「アマノイスパ」を受けさせてもらった。到着してすぐだったのでとにかくリラックスしたく、おすすめされたロータスとペパーミントのオイルを選択。その効果もあってか、開始数分で寝落ちしてしまうほどの心地よさだった。スパにはプライベートハイドロセラピースイートが2部屋あり、それぞれに温石トリートメントテーブル、スチームルーム、ジャグジー、冷水のプランジプールが備わっている。こちらはトリートメントの有無にかかわらず利用(有料・要予約)できるそうだ。
アクティブに過ごしたいときの選択肢の多さもアマノイの魅力。
脳内スイッチが完全にリゾートモードに切り替わったところで、カートを呼んで海岸沿いにあるビーチクラブへ連れて行ってもらった。ダイニングエリアとプールを備えたクラブの目の前には、透明度の高いプライベートビーチが広がり、モーターを使わないSUPやカヤック、ウィンドサーフィンなどのマリンアクティビティが無料で遊び放題となっている。
さらにビーチクラブの横にはバレーコートやビーチサッカーコート、アーチェリーなども備え、ボールの貸し出しやアーチェリーのフリーレッスンも行っている。こうしたサービスもあってか、アマノイは決しておこもり専門のリゾートではなく、アクティブに過ごしたいカップルや、小さな子連れのファミリーの姿も多く見られる。
またアマノイに隣接するヌイチュア国立公園は、2021年にユネスコの世界自然遺産にも登録され、豊かな生態系を維持している。海の次に山側の魅力を堪能するのであれば、まずは敷地内にあるゴガ・ピーク・トレッキングコースをおすすめしたい。登り始めてからわずか15分ほどで、展望台までたどり着くので、初心者でも気軽に登頂可能。できればまだ暗いうちに出発し、タイミングを計って展望台で日の出が見られたらベストだ。日中明るいうちであれば個人で登ることも簡単だが、このようにサンライズ目的の場合は、アクティビティとして申し込みスタッフにガイドしてもらうのが良いだろう。
ちなみにもっとハードなトレッキングを楽しみたいという方は、最長20kmにも及ぶキングマウンテンへのトレッキングコース(約9時間)や、「三層の滝」を意味するバタン滝での水遊びやピクニック(約5時間)といったコースもおすすめ。実際、こうした本格的なネイチャーアクティビティへの参加を楽しみに、アマノイに泊まりに来る自然愛好家も多いそうだ。
各国のローカル料理のクッキングクラスに参加するのも、アマンを泊まり歩く楽しみのひとつだ。米粉を使うことが多いベトナム料理は日本人の口に非常に合うが、実際に家庭で作ったことがある人はそう多くはないだろう。アマノイでは岩石に囲まれた「ロックスタジオ」というダイナミックな多目的スペースがあり、そちらで2大定番ベトナミーズであるフォーと生春巻き、そしてローカルデザートのチェー・セン・ロンガンを実際に作らせてもらった。
印象的だったのは、シンプルに見える麺料理のフォー。乾煎りして香りを出したジンジャーやエシャロット、スターアニス、カルダモンなどの複数のスパイスをスープに入れ、弱火で煮出して味を調えることで、あの独特の風味が出せることを知った。食からのアプローチでローカル文化を楽しく学ばせてくれる手法はアマンの得意分野。ちなみにアマノイの本来のレシピでは、本来牛骨を3時間火にかけてスープを作るのだが、そちらは事前にシェフが仕上げたものをいただいた。最後にレシピが書かれたクックブックがおみやげにもらえるので、料理好きな方はぜひ参加してみてはいかがだろうか?
ベトナムの小さな漁村を訪れるというのも、普通はなかなかできない文化的な体験。今回はもうひとつ、アマノイが提供するローカル・エクスペリエンス「Vinh Hy Awakening」というアクティビティに参加した。こちらはリゾートから最寄りの漁村ヴィンヒーを早朝に散策し、伝統的な木造建築ニャ・ルオングで朝食をいただくというもの。ヴィンヒーの街では、十数頭の牛の行進を見かけたり、朝市の活気を体験したり、一寸法師のような手こぎ舟での漁の様子を眺めたり、リゾートにとどまるだけでは決して味わえない旅の醍醐味(だいごみ)に遭遇することができた。
代々漁業に携わり、魚醤の製造工場も経営するというナムさんのご自宅に着くと、そちらの庭で朝ごはん。事前にアマノイのスタッフがセッティングしてくれていて、できたてのおいしい朝食をいただくことができた。往路は約2.5kmの散歩だったが、食後の復路は目の前の桟橋から専用ボートに乗り、アマノイのビーチへと戻る。旅先の刺激とリゾートの快適さ。一見相反するように見えるこの2つを、地域に根差すことを哲学とするアマンは毎回高いクオリティで両立して提供してくれる。アマンの真髄に触れるという点でも、アマンに泊まったらぜひひとつは現地アクティビティに参加することをおすすめしたい。
そしてリゾートに戻ると、最後は残りわずかとなった滞在を惜しむように、客室での時間を過ごした。今回は3泊での滞在。これくらいでちょうどいいと自分に言い聞かせていたが、本音を言えばまだまだゆっくりしたいもの。アマンの滞在は毎度魔法のようにすてきだが、過ぎ去る時間の早さもまた魔法のごとくあっという間なのが困ったところである。
それにしても日本からわずか2時間しか時差のない場所に、こんなにも別世界を感じられるリゾートがあったなんて。それなりに旅してきたつもりでも、世界はまだまだ実際に足を運んでみないとわからないことだらけである。改めて周囲を見渡して、静寂に耳を澄ませ、海と山が織りなす美しい眺望をゆっくりと脳裏に焼き付けた。