特別インタビュー
俳優・町田啓太、千年の“雅”な旅のゆくえ。
2024.11.06
俳優・町田啓太と訪れたのは、平安貴族が別邸を構え、雅な遊びに興じた京都・嵐山にたたずむ「星のや京都」。大河ドラマで町田が演じる藤原公任とのゆかりがある地で、1000年を超え受け継がれる「美」について思いをはせる。
観光客でにぎにぎしい渡月橋のたもとの舟待合からゆっくりと滑り出した舟は、大堰川(おおいがわ)を上流へとさかのぼっていく。渡月橋の喧噪は次第に小さくなり、やがて穏やかな川面と自然林を映し出す風景だけが広がりはじめる。
もう何百年いや何千年前も続いてきた変わらぬ古都・嵐山の風景なのだろう。舟が進むにつれて、時代をもさかのぼっていくような気分になってくる。
15分ほどで舟は水辺に立つ星のや京都の舟着き場に到着する。
舟を降り、木戸をくぐった途端に飛び込んでくるのは、どこか懐かしさを覚える古の世界だ。多種多様な古木に囲まれた古い日本家屋。建物をつなぐゆるやかな坂と小道。苔むす石──。
現代の喧噪、慌ただしさが見事に遮断された世界がそこには広がっている。
この日、初めて星のや京都を訪れた町田啓太は、こんなふうに感じていた。
「東京にいるとどうしても、コンクリートジャングルの中を行き来していて、なんとなくグレーな世界だなと感じてしまう。でも、こういう景観の中に身を置くと、ああ、日本に古くからある文化は美しいな、目にも心にも優しいな、と感じる。五感のすべてが働いて、万物の素晴らしさ、美しさに気づかされるんですね」
初日に敷地内で撮影を行い、翌朝、インタビューという1泊2日のスケジュールだった。町田はこの間、一歩も門をくぐり出ることなく、もちろん街に足を延ばすこともなく、終日、この水辺の施設に身を置きつづけた。
インタビュー当日は、朝からあいにくの雨。しかも雨音が聞こえるような本降りだ。インタビューは、町田の宿泊している一室で行うことになっていた。
町田が一日を過ごしたのは、眼下に大堰川を見下ろす角部屋だった。かつて文人が暮らしていた私邸のような趣の建物である。
畳敷きの和室でインタビューはスタートする。
冒頭、町田が窓越しに大堰川を眺めながらつぶやいた。
「普通、雨降りって憂鬱になったりすると思うんですけど、昔の人は、こういう場所でそれをも情緒的に楽しんでいたんだな、というのがわかりますよね。雨の音、雨の匂い、川の流れ。そうした自然の事象を感じ取り、それを美しい言葉で表現する。
昨日の夜も、この中を歩きながら虫の音を聞いていて、日本人はその虫の声を感じ取って、1000年も前から表現していたんだなと思ってました。僕が田舎育ち、山育ちだから、余計にそう思うのかもしれないですが、すごく好きな場所だなと思ってました」
変わらず雨は降りつづくものの、部屋から眺める靄もやった川辺の光景は、風流でたしかに悪くない。私たちを古へと運んでいくにはぴったりのシチュエーションだった。渡月橋の下を流れる川は、橋を挟んで、その上流を大堰川、下流を桂川と称する。いま部屋のすぐ脇を流れるのは大堰川ということになるが、町田にとっては極めて縁深い川だった。
実はいま、大河ドラマ『光る君へ』で町田が演じている藤原公任(きんとう)がまさにこの川に舟を浮かべ、歌を詠んでいたという記録が残っているのだ……
この続きは11/8(金)発売のアエラスタイルマガジンVol.57で。
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町田啓太(まちだ・けいた)
MOVIE 〜30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい〜』『太陽とボレロ』『ミステリと言う勿れ』、テレビドラマ『テッパチ!』(フジテレビ系)、『ダメな男じゃダメですか?』(テレビ東京)、『unknown』(テレビ朝日系)、『漫画家イエナガの複雑社会を超定義』(NHK)など話題作に多数出演。大河ドラマ『光る君へ』にて藤原公任役を好演中!
Photograph: Sunao Ohmori(TABLE ROCK.INC)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up: KOHEY(HAKU)
Text: Haruo Isshi