週末の過ごし方
『ハートストッパー』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #86
2024.11.28
こんなドラマを待っていた! 2022年に公開され、あっと言う間にスマッシュヒットとなったイギリス発クィアなロマンティックコメディー。内気な少年チャーリーの学園生活を中心に、クラスメートたちの恋愛や、家族の問題、将来への不安など、ありとあらゆる青春を詰め込んだ王道学園ドラマ。同名のグラフィックノベルが原作ということもあり、感情的な表現をカラフルでポップなアニメーションで演出し、コミックを読んでいるような感覚で楽しめる作品だ。
高校1年生のチャーリーは、ゲイだということで過去にいじめられた経験があり、ひっそりと目立たぬように学校生活を送っていた。チャーリーには、ベンという秘密の彼氏がいた。ベンはゲイであることを隠しているため、メッセージで呼び出されてはこっそり人けのないところでキスをしたりする。人前で友達のふりもしてくれない、冷たい彼氏だ。
新しい学期が始まり、クラス替えの日。チャーリーの隣の席になったのは、ラグビー部で活躍するニック。自分とは正反対のような彼に最初は戸惑っていたが、あることがきっかけでチャーリーはすっかり心を奪われてしまった。親友たちはこぞって「彼はストレートだ、諦めるべき!」と言うけれど……。
チャーリーの仲間たちは、トランスジェンダーやレズビアン、バイセクシャルなどさまざまだが、なかにはまだ自分のセクシャリティが何なのか揺らいでいる人も当然ながらいる。ティーン世代と言えば思春期真っただ中、周りが恋愛モードになればなるほど自分が“何者なのか?”と焦ってしまう。
ネットのセクシュアリティ診断にアクセスしてみたり、SNSで調べてみたり……。初めて同性に恋心を抱いた瞬間など、あらゆるセクシュアリティの可能性をストーリーに組み込んでいる。そして、友人たちにカミングアウトすべき? 親にはまだ言いたくない!など、マイノリティーが直面する不安や悩みを丁寧に描き、マジョリティが抱えることのない悩みを知ることができる。
ここまでしっかりと描いた作品はまだ少なく、性的思考や性自認で悩んでいる人にはもちろんのこと、特に思春期の子をもつ親や、周りにマイノリティーの人がいなく、理解を深めたい大人たちにぜひ観てほしい。マイノリティーを悲観的に描くのではなく、マイノリティーであることに自信を持ってほしい、偏見に負けないで! ひとりじゃないよ!……そんな前向きなメッセージが込められ、当事者である人たちへの愛とリスペクトを存分に感じられる数少ない作品だ。
幅広い世代から評価されている理由のひとつに、登場人物たちがみな前向きで、素直で、純粋な心を持ち合わせていることが挙げられる。大人も胸キュン不可避なエピソードの連続に心温まり、ティーンエイジャーの恋愛に懐かしさを感じ、素直になれなくなってしまった大人には、かなり刺さるものがある。会いたいから「会いたい」と言える恋愛がまぶしすぎてクラクラしてしまいそうになるが、必ずハッピーエンドにしてくれそうなポップな雰囲気で、なんとも心地よい。
待望のシーズン3が10月に配信され、キラキラしたチャーリーらの学園生活に変化が訪れる!?
誰もが体験するであろう環境の変化による気持ちの揺らぎ、将来への不安、成長するとともにさまざまな壁にぶつかる。でもきっと彼らなら大丈夫! そう願いながら見守るが、チャーリーの心の中に暗闇のようなものが……。まだ幼い彼らが、どう問題に立ち向かっていくのか? ラブラブモードから一転、深みを増したシーズン3も一気見不可避な展開だ。
肌寒くなってきたこの季節にぴったりなドラマ『ハートストッパー』は、Netflixにてシーズン3まで配信中。
Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo