週末の過ごし方

ラグジュアリーホテルと
大阪文化の関係
【センスの因数分解】

2024.12.10

ラグジュアリーホテルと<br>大阪文化の関係<br>【センスの因数分解】
FS大阪が体感してほしいというクルーズ船から眺める大阪の夕景の美。

“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。

確か、思想家で人類学者の中沢新一だったと思います。「私たちが今、よく耳にする大阪の言葉とは違った、船場の人たちの間で交わされていた言葉は、本当に美しいと思います」というようなことを言っていました。たとえば谷崎潤一郎の代表作『細雪』に出てくる四人姉妹は、船場の旧家の娘。つまり彼女たちの話すようなリズム感と品がある言葉は、お笑い芸人たちの丁々発止な早口でやり取りされるイメージの「大阪弁」とは趣が異なります。

2025年の万国博覧会を控え、大阪は開発ラッシュに沸いています。新アドレスに投影される「大阪らしさ」には、食い倒れや道頓堀にカオスなど、私たちになじみのあるキーワードが、並んでいることが多いようです。定番化してしている大阪のイメージではなく、谷崎の作品世界にあるような大阪が感じられるニューカマーは、どこにあるのか、どこにもないのか、そう思っていたときに、とあるラグジュアリーホテルオープンのニュースを知らされたのです。

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異なるデザイナーが参画したホテルらしく、手がけたフロアによってエレベーターホールの印象がガラリと変わる。

8月に開業したフォーシーズンズホテル大阪(以下FS大阪)は、キタと呼ばれる堂島がロケーション。東京や京都に次いで生まれた、言わずもがなの世界的ラグジュアリーブランドのホテルです。全175の客室を含め、館内のインテリアデザインは3つの異なるアトリエが手がけるといったユニークな初期設定も話題ですが、注力しているのが「ソフトでの大阪の魅力発信」。そしてその象徴とも言えるのが、大阪の街を水路で巡るクルーズです。

「大阪の美しい一面を、外に向けてホテルが発信してきたことは、これまであまり見られなかったと思います。FS大阪としてはホテル施設だけでなく、こういった大阪のあまり光が当てられてこなかった魅力も、お客さまに向けて提供していきたいと考えています。実は大阪は川の街です。そんな街の姿を体感できるリバークルーズは、ぜひ組み込むべきだと思いました」

そう答えるのは、川井 誠セールス&マーケティング部長。大阪出身で、ホテルだけでなく街の魅力を伝えるために、クルーズは欠かせないと自らコンテンツとして組み込む働きかけをしたそうです。

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日本旅館のような琉球畳が敷かれた客室とスパやプールなどのウェルネスフロアは、SIMPLICITYによる。

ホテルの客室から見下ろせば、川が縦横に流れ大阪湾へと向かう様を俯瞰(ふかん)でき、この街が川と切っても切れない関係を結んできたことを実感できます。それは山崎豊子による大阪の足袋問屋の主の人生を描いた『ぼんち』の世界観をほうふつとさせます。芝居好きの母と祖母が、川を渡って歌舞伎見物へ向かうシーン……。川は大阪人にとって常に共にあったことがうかがえる場面ですが、FS大阪はそんな大阪文化においても大切な要素であるを、ラグジュアリーホテルらしいプレゼンテーションで発信しようとしているようです。

「トワイライトタイムに川面から見る大阪の景色は、茜色の空にビルの照明が相まってとても美しいんです。ディナー前のひと時、そんな景色をアペリティフと共に楽しんでいただく。アフタヌーンティーも良いかと思います。そんな美しい大阪のシーンを感じられるプログラムを充実させていく予定です」と川井部長は言います。

豪華な設備や、いかにも見栄えする内装だけが、ラグジュアリーではありません。その土地の文化や歴史をコンテンツとして成立させ、ゲストの滞在スタイルに合わせて提供することも、紛れもなくぜいたくと言えるのではないでしょうか。

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    バー・ポタでは大阪の街をイメージしたオリジナルカクテルが味わえる。
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シグニチャーレストランは広東料理の江南春(ジャンナンチュン)。

「この頃は、ラグジュアリーホテルという言葉が独り歩きしてしまい、いささか誤解されている部分があるように思います。フォーマルでかしこまっていることや、華美な装飾だけがラグジュアリーではありません。その人らしさを含め、ゲストがこの場所でどうありたいのか。どう過ごしたいのか。それをくみ取っていきながらユニークな体験を提供することこそ、ラグジュアリーであると私たちは考えています」と話すのは、このホテルをリードするアレスター・マカルパイン総支配人です。

FS大阪が考えるゲストのためのラグジュアリー。それを成立させるためには、その土地を理解し見極める知性や、ゲストをおもんぱかりながらベストの答えを生み出す経験値や機転が必要です。大阪の個性をホテルのソフトに落とし込むのは、その一例と言えるでしょう。

そもそも、でありながら今までプレゼンテーションされることがなかった文化薫る大阪。それを感じさせるFS大阪のプログラムは、ラグジュアリーホテルとは、という問いに対する、このホテルのひとつの答えと言えるのではないでしょうか。それは知性や経験、機転など、目に見えないものが結晶となって現れた姿であるのかもしれません。

フォーシーズンズホテル大阪
大阪府大阪市北区堂島2-4-32
06−6676−8682

表紙-1

昭和の文豪たちの作品にはステレオタイプではない大阪文化がある。また中沢新一の『大阪アースダイバー』は、地質から数百万年という時間の変遷をひもといている。『夫婦善哉』織田作之助、『細雪』谷崎潤一郎、『ぼんち』山崎豊子すべて新潮文庫、『大阪アースダイバー』中沢新一 講談社。

「アエラスタイルマガジンVOL.57 AUTUMN/WINTER 2024」より転載

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