週末の過ごし方
『マインドフルに殺して』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #87
2024.12.12
“マインドフルネス”とは、過去や未来ではなく、今この瞬間に意識を向け、自分の感情や思考、感覚を冷静に観察し、自分の心身や周りの状況をありのままに受け入れる状態を表す。“マインドフルネス”を実践すると、集中力を高め、ストレスや不安を軽減し、心身のコンディションを整える効果が望めるという。
ビョルンは、すべてがうまくいっていなかった。弁護士事務所で働く彼は汚れ仕事ばかりさせられる。マフィアの資金洗浄もしながら顧問として働き、まっとうな仕事をする後輩はあれよあれよと出世していく。
娘の大切な誕生日パーティーの夜、いつものように仕事で参加できなかった彼は、妻に「もうこれ以上は我慢できない」となじられ、雑誌で特集されていた“マインドフルネス”をやってみてほしいと言われた。
妻には家にいても何かと責められ、いなくても責められ、それゆえに仕事に没頭するしかなかった。帰ったころにはいつも眠っている娘には罪悪感を感じるが、それ以上に家にいることが苦痛でたまらない。妻と向き合うことを拒んだ結果、こうなってしまったのだ。
確かに何かを変えなくてはいけないときなのかもしれない。そう思ったビョルンは、10年ごとに名前を変え、陳腐で難解な焼き直しに過ぎないとは思うが、“マインドフルネス”に挑戦することにした。
ビョルンは、うさんくさいと思っていた“マインドフルネス”という考え方に、すっかり魅了されてしまった。常に頭の中がごちゃごちゃしていた彼にとって、最適な方法だったのだ。マフィアがとんでもない事件を起こそうが、自身が狙われようが、“マインドフルネス”の呼吸法で、冷静に対処することができる。たとえ死体が目の前にあったとしても……。
マフィアの抗争に巻き込まれた弁護士が、ありとあらゆる局面を、“マインドフルネス”の考え方で乗り切るなんて、なんてブラックユーモアにあふれたドラマだろう。物語はビョルンの語りと共に進んでいくスタイルで、たびたびこちらに話しかけてくるのだが、だんだんと悟りを開いたかのような神々しさすら感じるまでに、自信で満ちあふれていく。あまりに冷静に対処するものだから、笑いがこみ上げてくるほどだ。
自分がした悪事に対しても、完璧な対処をしたとポジティブに捉える思考になったビョルンは、まさに無敵。しかし視聴者は見逃さない、ビョルンが「大丈夫!」と不安な気持ちを処理して乗り切ったその不安要素が、後に取り返しのつかないことになることを……!
ビョルンというキャラクターが、なにより面白く興味深い。たまに抜けているところもあるが、社会問題に対しても至極真っ当な意見も持ち合わせていて、娘思いのいい父親だ。会話の返しにユーモアがあり、頭の回転が早く(悪知恵とも言えるが)、起こりうるトラブルに対して備えたりと、弁護士という職業からか、感心する部分も多くある。そんな彼が窮地に立たされるたびに、“マインドフルネス”の呼吸法で解決するなんて、面白くないわけがないではないか。
テンポよくコミカルに進み、1話30分8話完結とサクッと観られるのに、ブラックユーモアがどっさり詰まっていて、週末にはピッタリの作品だ。これをきっかけに、“マインドフルネス”に興味を持った人は果たしているのだろうか…!? 『マインドフルに殺して』は、Netflixにて配信中。
Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo