カジュアルウェア
フリースと言えばパタゴニア。
新旧ベストセラー、レトロX・ジャケットに込められたこだわりとは?
ファッショントレンドスナップ208
2025.01.21
フリース素材を使ったウエアは、ありとあらゆるデザイン&プライスで世界中に広まりさまざまなシーンで愛用されています。その元祖は、1985年にパタゴニアが発売したシンチラ(モルデン・ミルズ社のフリース生地を使ったパタゴニアの製品のみに使われる素材名で登録商標)のスナップTやジッパーの前開きジャケット。
こうした革新的なウエアは、パタゴニアの創業者のイヴォン・シュイナードが、当時の登山ウエアの弱点を改善して、さらなる冒険と仲間の命を守りたいというシンプルな発想から生まれたそうです。
実は、イヴォン・シュイナードは、パタゴニアの設立前から、ヒット製品を出していたのですが、どれも自身のクライミング体験がベース。有名なのは、自作のピトン(ペグとも呼ばれる登山用のクサビ)やスコットランドで見つけたカラフルなラガーシャツ(クライミング用として使用)。1950年代後半には、既にアメリカ西海岸のロッククライミングの聖地ヨセミテでは、名の知れた存在だったのです。
今回は数あるパタゴニアの名品のなかから、今の季節にぴったりの2点をピックアップ。
まずは、フリース素材の金字塔、パタゴニアのベストセラーで、年齢や性別に関係なく愛されているクラシック・レトロX・ジャケット。
もうひとつは、パタゴニア創業50周年を記念して2023年に発表されたナチュラル・ブレンド・レトロ・カーディガン。
左の中田 萌さんがウィメンズ・クラシック・レトロX・ジャケット、右の酒井雄基さんはナチュラル・ブレンド・レトロ・カーディガンを着用。
「私が着ているのは、パタゴニアの定番中の定番で長く愛されているパタゴニアを代表するウエアで、リサイクル・ポリエステルを使っていることなど皆さんよくご存じですね。このジャケットはフリースの弱点を改善するために、暴風機能の高いメッシュ素材を裏打ちしていますので、アウターとしても使えるのがポイントです」と中田さんがその魅力を語ってくれました。
個人的には、野球のホームベース形のポケットがこのジャケットの決め手だと思っています。この大きさと色のチョイスはパタゴニアならでは。センターのジッパーにスレスレの位置まで持ってくる配置も見逃せません。
このジャケットには、コストやファッションで考えられたデザインではなく、アウトドアウエアとして多機能で丈夫、タイムレスなプロダクトです。最近ラグジュアリーブランドをはじめさまざまなブランドが、このデザインをリスペクトしたと思うようなアイテムを次々と発表しているのを見ると、私の見識も間違ってはいなかったと思うのですが、勘違いでしょうか……。
「意外と知られてないのがウィメンズとメンズでは、若干デザインが違うことでしょうか。女性の体に沿ったラインを作りつつ、防寒性を高めるために、背中側にメンズにはないカットが追加されています」と中田さんは、話しながらクルっと向きを変えてくれました。ここは私も見落としていました!
「このウエアは、リサイクル・ポリエステルとリサイクルウールの混紡素材を初めて使った一着です。キャンプや普段の外出用として着ていただくことを前提にしたもので、クラシック・レトロX・ジャケットとはコンセプトや作りがかなり違います。わかりやすい特徴は、暴風用の裏地を張っていないので生地の張りがなくふんわりしているところと、ゆったりしたシルエットです。それと、性別に関係なく着ていただけるジェンダー・インクルーシブ製品となっています」と酒井さんがこのウエアのポイントを解説。
全てのパタゴニア製品は、修理を受け付けています。そのほかにも自分でメンテナンスする方法など、パタゴニア製品を長く使ってもらえる提案をいろいろと始めています。そうした、取り組みはWorn Wear(ウォーン ウエア)https://www.patagonia.jp/worn-wear/という名前でパタゴニアのホームページで詳しく記載されているので、そちらをチェックしてください。
ペットボトルをリサイクルしてフリースのウエアをパタゴニアが初めて発表してから、日本ではリサイクル繊維がファッションやアウトドア業界に浸透しましたが、今回のWorn Wear(ウォーン ウエア)のコンセプトも日本のアパレルブランドに広く浸透していくことを個人的に祈っています。
最後に、この写真を。約30年ほど前にカリフォルニアのヨセミテ国立公園での私のスナップ。そびえ立つ岩壁の下には、草地のなかにトレッキングコースがいくつもあるのですが、その片隅にパラソルがポツンと立っていました。なんとそこには読書をする女性がいたので思わずシャッターを押したのですが、現像(当時はフィルムを使用)してよくよく見るとなんとパラソルの下には車椅子があったのです。アメリカは、アウトドアのアクティビティーに関しても、多様な人が自然に親しむ環境を整えているというのを実感し感動したワンカットでした。
Photograph & Text:Yoichi Onishi