特別インタビュー
moomoo証券株式会社
代表取締役社長 伊澤フランシスコ インタビュー[前編]
[ニッポンの社長、イマを斬る。]
2025.03.26

長く金融業界を渡り歩いてきた伊澤フランシスコ氏がシリコンバレー発のmoomoo証券を立ち上げた。全世界2400万人が愛用する投資アプリ「moomoo」は日本人にも好評で、既に150万DL超えを達成。投資熱が高まる日本市場の中、意気込みを聞いた。
投資情報の格差をなくす
「初めてアプリを見たときに感動したんですね。これはすごい、日本でも絶対受けるだろうと」
4月からフロアー増床予定の東京オフィスで、伊澤フランシスコ代表取締役社長はこう語った。moomoo証券を日本で展開してくれないか―ナスダックに上場する大手テック企業からそんな打診があったのは2020年のこと。最初は懐疑的だった。聞いたことのない会社だったし、変な名称だと思った。だが、「moomoo」アプリを触って考えは一変した。
「操作性はもちろん、何よりデータが視覚化されてわかりやすかった。特に気に入ったのがリアルタイムの約定分析です。今、全世界でどのくらいの買いがあり、どのくらいの売りがあるのか。これから上がりそうなのか、下がりそうなのか。パッと見ただけで感覚的に理解できる。こうしたデータってプロ向けに限られており、個人が簡単に見られるものはなかったんですよ」
22年にmoomoo証券をスタートした。経営者経験はあったが会社を立ち上げるのは初めて。想像以上のカオスはあったもののアプリはスタート1年足らずで100万ダウンロードを超えた。国内アプリとして異例の早さだった。
「日本の投資家はこれまで不利な条件で戦ってきたわけですよ。言語の問題であったり、情報スピードの問題で。だけど、このアプリを使えば、アメリカの人気企業の決算会見もリアルタイムで閲覧できる。もちろん、自動翻訳付きです」同社は特に米国株に強いのだ。
かく言う伊澤は90年代から金融市場に身を置いてきた。リーマン・ショック後、業界から離れた時期もあったが、外資で磨いた知識は一目置かれてきた。新NISAをはじめ人生100年時代の資産運用が叫ばれるなか「日本人がより賢い投資を実現できる世界」を目指している。
素人が花形トレーダーに躍進した理由

大学卒業後、最初に就職したのは証券ではなく、商社だったという。が、フランスで少年時代を過ごし、個人主義が身に付いていた伊澤には体育会系の社風はなじめない。26歳、語学力を生かし、外資の証券会社に転職したのが始まりだ。この決断が現在へと続くわけだが、当時は何しろ金融素人。上司には「何しに来たの?」とあきれられ、ベテラントレーダーの横でコピー取りに明け暮れる日々からのスタートとなった。
「実力主義の世界です。周囲を見て知識を盗んでいくしかない。いかに自分に価値があるのかアピールしなきゃならない。必死でした」
頭角を現すきっかけは独学で学んだプログラミングの技術だった。時は90年代、トレーダーの売買記録はまだ手書きで3、4時間をかけ複数人で集計していた。ヒューマンエラーも多い。「買いすぎだ」「じゃあ売ろう」「(売った後で)集計が間違っていた」なんてことがまま起こった。
「効率が悪すぎるわけですよ。けれど、みんな忙しいから目の前のことで精一杯。自分が何かできるんじゃないかってこっそりプログラミングを学んだんです。本を読んだり技術に詳しい人に聞いたりしながら、ボタンひとつで集計できるシステムを作りました。半年くらいかかりましたが、僕が作ったと言っても上司は最初信じてくれませんでしたよ(笑)」
熱量が認められ1カ月後、伊澤はトレーダーに昇格した。日本株のオプション取引という当時、花形のポジションだった。
「インターネットという言葉自体が存在しない、大開拓時代だからこそつかめたチャンスだったと思います。今だったらありえないですよ、会社の根幹システムを素人
が触るだなんて」
その後、外資を渡り歩き株式取引やデリバティブ取引に携わった。トップの立場を任されたことも複数回。が、moomoo証券に至るまでの経歴には6年ほどの空白もある。聞けばリーマン・ショックの後―時期こそ違うが、伊澤はリーマン・ブラザーズに籍を置いていたこともある―金融から離れ、ロサンゼルスでベトナム料理店を経営していたという。
「半分休暇のつもり、アパートのオーナーになるような感覚でした。だけど、レストランがそんなに甘いわけはないですよね。やれ冷蔵庫が壊れた、エアコンが効かない、従業員がけんかした、辞めたとト
ラブルは尽きない。休暇どころか土日も働きづめ。なんだかんだと4店舗まで広げました」
その後、再び金融に戻り、オンライン証券に携わった。離れていた期間の長さを懸念したが、外資系証券会社で培ったノウハウはその時点でも十分通じるものだった。
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プロフィル
伊澤フランシスコ(いざわ・ふらんしすこ)
慶応義塾大学法学部出身。10代前半をフランスで過ごす。大学卒業後は、商社を経て仏銀行系のソシエテ・ジェネラル証券に入社、金融のキャリアをスタートする。以降、リーマン・ブラザーズ証券などの大手外資系証券会社のトレーディング部門で株式およびデリバティブ取引の経験を積んだ後、米リクイドネット証券の日本法人社長等を歴任した。SBI証券のマーケティング部門責任者、サクソバンク証券社長を経て、22年よりmoomoo証券代表取締役社長。
Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima