週末の過ごし方
『VOGUE 変革の90年代』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #97
2025.05.08

ファッション界の中心になり、文化、芸術、社会問題など、ファッション誌の枠を超え、トレンドを発信しつづける『VOGUE』。
アナ・ウィンターがアメリカ版『VOGUE』の編集長に就任した1988年から、超高級志向で上流階級偏重主義のイメージを払拭。積極的に身近なカジュアルスタイルも取り入れ、多くのカルチャーを扱い、読者の感性を刺激しつづけている。
そんなアナ・ウィンターと共に90年代を振り返るドキュメンタリー『VOGUE 変革の90年代』。VOGUEに関わるクリエーターや、スーパーモデルブームを巻き起こしたナオミ・キャンベルやケイト・モス。表紙を飾ったニコール・キッドマン、グウィネス・パルトロウ、サラ・ジェシカ・パーカー。HIP HOPブームでファッションに影響を与えたミッシー・エリオットやメアリー・J・ブライジ。時代を築き上げてきた著名人たちが、激動の90年代をさまざまな仰天エピソードを交えながら語ってくれる。
"変革の90年代”とあるように、女性の社会進出=スタイリッシュという時代に切り替わり、ただトレンドファッションを紹介するだけでなく、モデルや女優、ミュージシャンなど、時代を象徴するような自立した女性を起用し、自分らしく生きる美しさを表現してきた。
アナが最初に起こした変革は、長らくフォーマルで保守的なイメージだったVOGUEからの脱却だった。性の多様性と女性の自由を掲げ物議を醸し、ポップスターとして若者から絶大な人気を誇っていたマドンナを起用し、意外な見せ方で世間を驚かせた。
アナはハードなメイクで自由に着飾っていたマドンナに、華やかなドレスを着せ、プールサイドでポップコーンをほおばる姿や、Tシャツにジーンズ姿などを掲載し、女性の美しさとは?女性らしさとは?を再定義したのだ。
ある意味VOGUEから世間への挑戦状とも受け取れるこの変革からの10年は、激動と言っても過言ではないほど、目まぐるしく変化していく。
印象的だったのは、音楽とファッションの関係性だ。90年代は特に、ファッションアイコンとしてミュージシャンが取り上げられることが多かった。重くてダークなグランジ・ロック(ニルヴァーナやサウンドガーデンなど)が流行し、ダメージジーンズやネルシャツ、レザージャケットなど、カート・コパーンやコートニー・ラヴらのグランジファッションをまねたスタイルが流行した。
HIP HOPの流行はVOGUEにとっても大きな変革で、かつて白人ばかりで埋め尽くされていた誌面に、リル・キム、ミッシー・エリオット、メアリー・J・ブライジがハイブランドを身にまとい、堂々と誌面を飾った。アナは、正直それらの音楽に興味はなかったそうだが、白人に限定されるコンテンツからの脱却を試みたのだ。
それほど音楽とファッションは、社会に対し大きな影響力を持っていたということがわかる。「こんなのVOGUEのスタイルではない!」と批判されながらも、積極的に読者が憧れる存在を取り上げ、生き方、スタイル、価値観を提案しつづけた。
いま現在、“男らしさ”や“女らしさ”という言葉に縛られることなくファッションを楽しめるようになったのは、一日にして成ったものではなく、VOGUEのような影響力を持つメディアやファッションアイコンたちが、自分らしいスタイルを一貫して尊重しつづけたからではないだろうか。
海外ドラマの紹介……というわけではないが、激動の90年代ファッションシーンに変革をもたらせたさまざまなエピソードやメットガラの舞台裏など、実にドラマチックで感動的なものばかり。
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Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo