特別インタビュー

ルレ・エ・シャトーとユネスコが目指す、
「料理とおもてなしで、より良い世界をつくる」という挑戦。

2025.07.30

ルレ・エ・シャトーとユネスコが目指す、<br>「料理とおもてなしで、より良い世界をつくる」という挑戦。
ルレ・エ・シャトー協会会長のローラン・ガルディニエ氏。

日本屈指の旅館として名高い静岡県伊豆の「あさば」や、神奈川県箱根の「強羅花壇」。さらに東京の「ザ・キタノホテル東京」や、長野県松本にある「扉温泉 明神館」――。その土地の美意識、歴史や文化、そして自然を大切にするこれらのスモールラグジュアリーな宿に共通しているのが、「ルレ・エ・シャトー」の加盟施設であることだ。

「ルレ・エ・シャトー」は1954年にフランスで発足した、選りすぐりのホテルやレストランのみが加盟できる非営利の会員組織である。2025年現在、世界65カ国の地域の580件のホテルやレストランが加盟、そのうち日本の加盟施設は20軒。高いホスピタリティはもちろんのこと、その土地、その地域ならではのユニークな文化や食体験を求める世界中の富裕層が信頼を置く、「加盟すること=一流の証し」と言っても過言ではない由緒正しき組織である。

70周年を迎えた昨年11月、ルレ・エ・シャトー協会はユネスコとタッグを組み、地球上のすべての命と調和する持続可能な発展に貢献するパートナーシップ協定を締結。その記念すべきコミットメントランチが、7月上旬「ザ・キタノホテル東京」で開催された。

_T7A3574©️Yusuke-Kagayama
ルレ・エ・シャトーとユネスコのパートナーシップを記念して開催されたコミットメントランチに参加したのは、アジアを代表する3名のシェフたち。写真右から、日本料理「銭屋」(石川県金沢市)の髙木慎一朗シェフ、ベジタリアンレストランで三つ星を獲得した「King’s Joy」(中国北京)のギャリー・インシェフ、「ザ・キタノホテル東京」のレストラン「LʼOrangerie 光庵」の加茂 健シェフ。©️Yusuke Kagayama

ルレ・エ・シャトーに加盟するアジアのレストランを代表するシェフたちが、<世界のホスピタリティと料理の伝統を守ること><生物多様性の保護と発展に貢献すること><より人間味のある世界のために日々行動すること>というルレ・エ・シャトーの主要な使命を、それぞれの料理を通して表現。ジャンルの異なる3名が、それぞれトレーサビリティにこだわった素材や、伝統を大切にした調理法で、よりよい世界をつくるための「料理とおもてなし」をプレゼンテーションした。

12種類の野菜のテリーヌ©️Yusuke-Kagayama
「ザ・キタノホテル東京」のレストラン「LʼOrangerie 光庵」加茂 健シェフによる、「12種類の野菜のテリーヌ」。©️Yusuke Kagayama
松茸スクウォッシュ©️Yusuke-Kagayama
「King’s Joy」(中国北京)のギャリー・インシェフによる「松茸スクウォッシュ」 ©️Yusuke Kagayama
鱧-丸茄子-吉野仕立て©️Yusuke-Kagayama
日本料理「銭屋」(石川県金沢市)の髙木慎一朗シェフによる「鱧 丸茄子 吉野仕立て」。©️Yusuke Kagayama

コミットメントランチに合わせ、フランスより来日したルレ・エ・シャトー協会会長であるローラン・ガルディニエ氏は、ユネスコとのパートナーシップ締結についてこう語った。

「ルレ・エ・シャトー発足当時、ガストロミーとしての組織は世界初でした。だからこそ地域の食や伝統を大切にしていくという考え方がスタート当初から念頭にありましたし、環境の保護という課題は常に隣り合わせにありました。2010年に環境に対し、協会としてもう少し明確に取り組んでいこうという動きがあり、そのときからユネスコのパートナーシップは始まっていましたが、さらに積極的に私たちのスタンスを表明していこうという動きから、昨年、大々的にコミットメントを表明する形となりました」

 

ルレ・エ・シャトーの加盟基準、審査基準はもともととても厳しい。今回、ユネスコとパートナーシップを締結したことによって、具体的に審査基準はどのように変わっていくのだろうか?

「私たちにはインスペクターと呼ばれる審査員が15名ほどいます。すべての施設に関して、2年おきにこのインスペクションが入る流れになっていますが、これまでは<テクニカル>と<エモーショナル>という分類で評価をしていましたが、今年の9月からは<サスティナビリティ>というカテゴリーが追加されることになります。

このサスティナビリティについては、お客さまたちが見える側面で言うと、客室でプラボトルを使っていないかどうか、電気はどうしているのかなどが評価対象になりますが、舞台裏の部分――たとえば設備的な部分についてはなかなか調査員が入り込むのが難しい。そこで、独自にマイインパクトというデジタルツールを開発し、施設ごとに目に見える数値で比較できるような形にし、進捗、進化、向上ということを目指そうと動いています。

例えば、水道や電気などだけでなく、メニューに入れる食材に関してはどうか、というところまで見ていくことになります。このようなデータを集めてデータベースをつくることで、ルレ・エ・シャトー全体としてのサスティナビリティに対するコミットメントを数値化、それをひとつの指標にし、それぞれの施設で何をどう改善していくべきなのかをスコアとして明確にすることで、結果ルレ・エ・シャトー全体のサスティナビリティスコアを向上させるのが目的です。2年後には、ルレ・エ・シャトー全体としてのサスティナビリティへの取り組みがこうなっていますよ、という指針が見せられるようになると思います」と、ローラン・ガルディニエ氏は話す。

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ルレ・エ・シャトーに加盟している20軒の日本の施設は、どこもパーソナリティーが際立ち、その地域ならではの文化を大切にしている印象を受ける。将来的に、加盟施設は日本でもますます増えていくのだろうか。

「われわれ自身がホテルやレストランを作るわけではないですから、とにかくルレ・エ・シャトーの価値観を共有できる施設を探さなければいけない、ということからいつもスタートしています。もちろん数を増やしたい気持ちはありますが、対象になりえる場所にすべて加盟してもらうことはなかなか難しい。私たちが大切にしていることは、ルレ・エ・シャトーの価値観、DNAをしっかり持っていて、それを推進していただくこと。そういう意味では、今年の4月に加盟した大分県にある「ENOWA 湯布院」は完璧でした。自然・食・ウェルビーイングを掲げていて、素晴らしいシェフが施設内で育てた野菜を作った料理を提供したり、とにかく地域が持つポテンシャルや美しさを大切にしている。世界で見ると、毎年600くらいの施設から加盟のオファーを受けますが、そこから実際に加盟するのは、15から多くて20あるかどうか。そのくらいルレ・エ・シャトーのDNAをしっかり見極め、われわれの価値観に合致することが大きな審査基準になっているんです」

コミットメントランチのあいさつで、ローラン・ガルディニエ氏は「ルレ・エ・シャトーを通して、世界の美しさを知ってほしい」と語っていた。次の美食の旅は、ルレ・エ・シャトーのDNAを掲げた、環境まで配慮した究極のスモールラグジュアリーな施設にぜひ足を運んでみてほしい。どの場所を選んでも、「料理やおもてなしで、より良い世界をつくる」というルレ・エ・シャトーの挑戦が垣間見えるはずだ。

問/ルレ・エ・シャトー https://www.relaischateaux.jp

Photograph:Hiroyuki Matsuzaki (INTO THE LIGHT)
Text : Ai Yoshida

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