週末の過ごし方
打ち捨てられた存在を億千万の胸騒ぎへ!
100円CD流家元DJの魔術
【センスの因数分解】
2025.07.30
“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。
セカンドハンドショップにて並べられている100円均一のCD群。値付け査定されず、元値の10分の1や30分の1で販売されるそれらは、価値とは無縁の存在と言えるでしょう。その群れに鉱脈を見いだした人物がいます。100円CDのみを選曲するDJ・デラさんです。
「19歳のときに、予備校の寮に入るために岩手の地元から上京しました。そこからDJとしての活動をスタートしています。音楽にのめり込むようになったのはヒップホップやR&B、ハウスのレコードから入りました。今のメインはハウスですね」
大学に入学し、サークルイベントでDJを始め、その後いろいろなイベントに呼ばれるようになったそうです。100円CDだけで構成した音楽を流すようになったのが5、6年前だとか。
「イベントでハウスと一緒にドリフの大爆笑のテーマ曲を流したら、すごくウケたんですよ。で、ちょっとおかしな音源を探すようになったんです。それが100円CDモノに多かったんですね」
業界にて語られることなどまずないCD(たとえばデラさんオリジナルミックスCDの音源には「エレクトーンジュニア基礎コース⑥」なる素材がある)に隠された魅力を、彼は発見しかけるのです。そうして投げ売り状態=価値を付けられていない100円CDたちは、宝の山へ姿を変えました。
「100円CDは、シバリとは言えるかもしれませんが、ジャンルではないですよね。音楽的蘊蓄(うんちく)とは無縁ですし、言うなれば身も蓋もない選曲です。でも私はそこがいいと思っています。DJの世界では昔から、アナログ盤至上主義のようなところがありますが、100円CDは図らずも、その対極に位置しているなと。先輩方から怒られそうなことばかりしています(笑)」
デラさんはそう謙遜しますが、購入前の視聴不可、そして音楽性で語られない素材だけを使って場の雰囲気を高めていくのは、豊かな経験と知識がなければ不可能です。確かな実力を持ち、誰もが気づいていなかった存在をエンタメに押し上げるとは、紛れもなく家元の技! 価値観を他に委ねることなく、自分がユニークだと感じることをシェアして支持を獲得するところも家元にふさわしいと思いませんか?
トレンドやレーティングなど、世の中には他によって定められた価値にあふれています。一方デラさんは、自分が夢中になれる音楽を、自分自身が発見した素材で極めようとしているのです。
最後にゴールはなんですか?と尋ねてみました。すると「100円CDは今こうしていてもどんどん増えていて未開の領域を増やしています。保管室には積読ならぬ積聴があふれていて到達など、とてもとても……」という答えが返ってきました。
デラさんは100円CDという拡大しつづける宇宙に挑む、唯一無二の存在なのです。