週末の過ごし方

摩天楼に浮かぶサンクチュアリ、アマン ニューヨークという物語。

2025.08.14

摩天楼に浮かぶサンクチュアリ、アマン ニューヨークという物語。
14階テラスのコーナーにあるバー。クラウンビルディングの希有な立地を肌で感じる、アマン ニューヨークきっての特等席だ。

通りを歩くだけで、映画やドラマ、小説の記憶がよみがえる。多くの人々の心に刻まれているニューヨークという街は、数ある世界の旅先のなかでも特別な存在だ。そんな街に世界中のホテル好きが待ち望んだ「アマン ニューヨーク」が開業したのは2022年の夏のこと。舞台はマンハッタン随一のランドマーク、クラウンビルディングである。これ以上ないぜいたくな組み合わせで誕生したホテルには、いったいどんなストーリーが詰まっているのか? 摩天楼の聖域へと足を踏み入れ、その魅力をリポートする。

対極が融合して生まれる美しさに、アマンの神髄を見た。

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マンハッタンの中心に立つクラウンビルディング。摩天楼に浮かんで見えるのが、アマン ニューヨーク14階のガーデンテラスだ。

アマン ニューヨークを紹介するうえで、クラウンビルディングの歴史に触れないわけにはいかない。1921年に5番街と57th St.の角という好立地に建てられた同ビルは、グランド・セントラル・ステーションやヘルムズリー・ビルディングと同じウォーレン&ウェットモア社によって設計された。その華麗な姿はニューヨーク、いやアメリカを代表するボザール建築として知られ、1929年から1932年までMoMA(ニューヨーク近代美術館)も同ビルを拠点としていた。それから数十年の間、同ビルはマンハッタンで最も高級な不動産と評され、ファサード部分に施された金メッキの総量は30ガロン(約114kg)とも言われている。時代と共にクラウンビルディングの所有者も移り変わり、そこにはこの街と同様、多くのドラマがあったに違いない。そして、アマンの会長兼CEOであるヴラッド・ドロニンが2015年に建物を取得。大規模な修復工事を経て、2022年8月にアマン ニューヨークとして生まれ変わった。

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和テイストを強く感じる1階エントランス。フローリングの模様は、アジアで広く使われている籐のバスケット編みを連想させる。

アマンのファンならば、こうした歴史的遺産に新たな息吹を吹き込み、“伝統と革新”という対極を鮮やかに融合してみせるのがアマンの十八番であることは百も承知だろう。ただし、都市型アマンが誕生するのは、アマン東京に次いでこれが世界で2軒目。従来のアマンファンはもちろん、アマン東京がきっかけでファンになった方も、アマン ニューヨークをイメージするのはなかなか難しいのではないか。しかも、ほとんどの施設がゲストオンリーとされ、エントランスでのセキュリティも厳しい。アマン ニューヨークは摩天楼の上で秘密のベールに包まれている、と言っても過言ではない。

そんなアマン ニューヨークのエントランスに実際に足を踏み入れると、“伝統と革新”以外にもいくつものコントラストを見いだすことができた。例えば、ネオ・クラシカルな外観からは想像もできないオリエンタルなロビー。そして83室あるすべての部屋に大理石の暖炉が設置されている一方で、⻑⾕川等伯によって16世紀に描かれた名作「松林図屏⾵」をモチーフにした壮⼤なウォールアートも飾られ、“西洋と東洋”の二極が見事に調和されていた。アジアにルーツを持つアマンだからこそ、日本人はより安らぎと落ち着きが感じられることだろう。

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ナチュラルな色調に加え、ゲストに安心感を与える客室のバイオエタノール暖炉。パブリックスペースなど館内に約200カ所設置されている。
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独立式のバスタブも全室に設置。83ある客室はすべてスイートタイプで、約70㎡からの広さはニューヨークでも最大級だ。

この魅力あふれる空間デザインを担当したのは、過去にも世界のアマンやジャヌ東京を担当してきたジャン=ミシェル・ギャシー氏。大都会にありながらどこか自然を感じさせてくれるのは、床やドア、カスタムメイドのインテリアにオークやウォルナット、シナモンウッドなどを採用しているからだろうか。そこにブロンズや真鍮、ステンレス、黒染め鋼などの素材を加えることで、洗練された高級感を演出している。

客室から窓の外を見下ろせばすぐそこは5番街で、喧騒の世界が広がる。“利便性と静寂”はどうしても相いれない対極に思えるが、アマンは客室の窓に特殊な防音ガラスを採用することで、雑音を遮断。ショッピングに最適なロケーションでありながら、静謐(せいひつ)なプライベート空間を実現している。ほかにも“水(ガーデンテラスのファウンテン)と火(バイオエタノールの暖炉)”、“摩天楼とセントラルパーク”など、さまざまなコントラストを巧みに融合させるマジックに、アマンのDNAを感じ取ることができた。

時代を見据えたスパの充実。3フロアで展開するアマン・スパ。

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吹き抜けの空間に広がるインドアプール。プールサイドには円形のファイヤーピットが数台置かれ、ここでも水と火が美しく調和する。

アマン ニューヨーク最大の特徴とも言えるのが、アマン・スパだろう。30年以上にわたって世界のスパ・ウェルネス業界をけん引してきたアマンが、その独自のメソッドの集大成としてアマン ニューヨークに欧米地域のフラッグシップとして誕生させた。コロナ禍以降、ウェルネスへの関心は高まるばかりだが、こちらのスパはそれ以前からの計画されていたはずなのでアマンの先見の明には驚かされるばかりだ。

アマン・スパが入るのは9階〜11階の3フロア。総⾯積2300㎡というぜいたくな空間で、ロンジェビティ(長寿)をテーマに掲げている 。例えば11階ではアンチエイジングや健康長寿のため、美容医療の専門家による最先端診断テストを経て栄養計画書を作成してくれる。また循環器や神経、筋骨格など93のパラメータに基づいた診断レポートを作成する「オプティマイゼーション・アナリシス SCANME®」や、電磁誘導で体組織を刺激し、細胞の活性化や自己治癒力アップを可能にする「ONDAMED®」、手のひらをスキャンし、体内のミネラルバランスや有害⾦属、酸化ストレスなどを瞬時に測定する「OligoScan®」など、最先端の測定器でゲストの健康状態を可視化してくれる。

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スパハウス「バーニャ」ではサウナに入り、オークや白樺の葉を重ねたヴェニク(写真左)使って熱を調節し、肌のマッサージや角質取りを行う。

そうした診断結果を踏まえて、東洋医学の経験豊富な臨床医による電磁場マッピングや鍼灸治療といった伝統医学、またはビタミン点滴療法やペプチド療法、⻑寿NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)点滴といった再生医療、どちらも提供できるのがアマン・スパのすごみである。

さらには自らウェルビーイングを高める場として、11階にTechnogymの最新トレーニングマシーンが並ぶ280㎡ものフィットネスセンター、10階にはヨガ&ピラティススタジオ、20メmのインドアプール、ドライ&スチームサウナ、コールドバケットシャワーなどを完備。さらにスパを満喫したければ、リビングエリアや屋外エリアが備わったスパハウス「ハマム」と「バーニャ」がおすすめ。広々したハマムとサウナがそれぞれ付属し、ニューヨークの街並みを眺められるプランジプールも備わったぜいたくなプライベート空間。半日または1日単位で貸し切りでき、室内で同時に2名までトリートメントを受けることが可能となっている。

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スパもまた、アジアにインスパイアされたアマンらしい空間。最もサンクチュアリを感じられるのは、このスパハウスかもしれない。

私が受けたトリートメント「アマン ニューヨーク シグネチャー ジャーニー」は、⾝体と魂のホリスティックな⽬覚めを目的とした120分のコース。施術ではシンギングボウルを使用し、瞑想により静寂の世界へと入り込む。セラピストは足裏から頭部まで体のさまざまな部位のツボを刺激し、血流バランスを整えていく。最後に全身スクラブを施し、細胞から再生が始まるのを実感。長旅の疲れやネガティブな感情がリリースされ、大都会ニューヨークにいながらにして圧倒的なリゾート感を味わうことができた。

ダイニング「Nama」「アルヴァ」、そして「ジャズクラブ」で五感を満たす。

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国内外のミシュラン星付き店で研鑽(けんさん)を積んだ米丸琢馬氏のおまかせコースを、檜のカウンター越しに楽しめるNama。

ダイニングは「Nama」と「アルヴァ」の2つが入っており、可能であればどちらも体験することをおすすめしたい。もちろんコンシェルジュに聞けば街のおすすめレストランも教えてくれるが、これまでいくつかアマンに泊まってきた経験上、味もサービスもロケーションも、結局アマンでの食体験が一番感動するからだ。

「Nama」はこれまでアマンプリ(タイ)やアマンゾイ(ギリシャ)、アマン ル メレザン(フランス)、アマン サマーパレス北京(中国)で世界のフーディーをとりこにしてきたファインダイニング。伝統的な和食をベースに、ここニューヨークでも四季を感じさせるメニューや食材でランチとディナーを提供している(利用できるのは宿泊者とアマンクラブ会員限定)。店名には日本語で「生(Raw)」の意味だけでなく、反対から読んで「Aman」となる遊び心が込められていることは意外と知られていない。

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握りや刺身のほか、椀物や天ぷら、炉端焼きなど、伝統的な調理法に基づいた和食メニューがNamaの真骨頂。

ユネスコの無形文化遺産に登録されたこともあり、和食が世界中で愛されているのは周知の事実だが、われわれ日本人が納得できる日本食レストランは残念ながら海外に決して多くはない。その点、アマン ニューヨークのNamaでは、「一汁二菜うえの」や「Sushi Zo NY」といった正統派和食店で活躍してきた米丸琢馬氏を料理長に迎えており、「これぞ真の和食!」と呼べるオーセンティックな料理を味わえる。なかでもシェフのおまかせで頼んだ寿司は日本でもなかなかお目にかかれない絶妙なネタとシャリで、異国の地にいることを忘れてしまうほどだ。地元アーティスト、メリッサ・ハートの芸術作品を鑑賞しながら、和食×アマン ニューヨークのマリアージュを楽しませていただいた。

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    朝食会場としても使われるアルヴァ。写真はスモークサーモンを花びら状に飾りつけたベーグル。
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    ロニー・ブルック社のバターとサマー黒トリュフが香る自家製タリオリーニも絶品。 

もうひとつのダイニング「アルヴァ」は、アマンプリ(タイ)やアマン ヤンユン(中国)、アマン ヴェニス(イタリア)、そしてアマン東京でも展開しているイタリアンレストランなのでなじみの方も多いだろう。ラテン語で「収穫」を意味する店名のとおり新鮮な食材にこだわり、シンプルでありながらイタリアの伝統的な調理法を用い、素材の魅力を最大限引き出すことをモットーとする。そのためアマン ニューヨークではファーマーズマーケットを展開するGrow NYCやOur Harvestと提携し、周辺・近郊の750以上の農家とネットワークを持つ。アルヴァはニューヨークでは珍しく年間を通じて屋外で⾷事が楽しめるテラスに面しており、開放感も抜群。摩天楼が間近に迫る、迫力ある景色も眺めながら食事を堪能してほしい。

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時間帯によってジャズバー、そしてクラブの雰囲気、両方を楽しむことができる「ジャズクラブ」。ドレスコードでは、カジュアルは避けたい。

そして今回、最も訪問を楽しみにしていたのが、世界で初となるアマンによるジャズバー「ジャズクラブ」である。アマン ニューヨークのメインエントランスから1本裏の56th St.に看板のないスピークイージーなスタイルで構え、火曜〜土曜の夜にアーティスト2組を招いての生ライブを開催している。看板はないが、屈強なスーツの男性が立っているので迷うことはないだろう。扉を開け、妖艶なレッドライトが照らす通路を抜けて地階へ降りると、アマンのロゴマークが飾られたステージを客席が囲んで演奏が行われている。この日は20時~22時まで往年の名曲をカバーした生ライブ、以降はDJプレイが行われた。ほろ酔いのままホテルに戻ったのは、0時近かっただろうか。

スパ、食事、そして良質な音楽を耳にし、五感が完全に満たされたアマン ニューヨークの旅。何度か訪れたことのあるこの街は、冒頭述べたとおりいつだってシネマティックだが、アマン ニューヨークの滞在は、まるで自分がニューヨークの主人公になった気分になれるほどぜいたくなものだった。そんな摩天楼に浮かぶゲストのためだけの聖域を、ぜひ自分の目で確かめてみてほしい。アマン ニューヨークという至高の物語は、まだ始まったばかりである。

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また2025年4月には世界で3番目となる都市型アマン、「アマン ナイラート バンコク」が開業した。こちらも100年以上の歴史を持つナイラートパーク ヘリテージ ホームがモダンと融合した都市型サンクチュアリで、デザインを担当したのもジャン=ミシェル・ギャシー氏。ニューヨークとの共通点も多く、アマンファンならずとも注目の存在である。

アマン ニューヨーク
https://www.aman.com/ja-jp/hotels/aman-new-york
アマン ナイラート バンコク
https://www.aman.com/ja-jp/hotels/aman-nai-lert-bangkok
0120-951-125(アマン共通日本語フリーダイヤル)

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