腕時計
意志を持って、時計を着替える。【第3回】
町田啓太とグランドセイコー
2025.10.01
30歳に差し掛かる頃から、時計熱が高まってきた。「仕事を通じて時計に触れる機会も増えましたし、もっと深く時計の世界を知りたい」という町田啓太が、5つの時計に出合った。
世界レベルに達した日本ブランド。
画期的なクオーツ式ムーブメントによって、1970年代以降はスイス時計を凌駕した日本の時計産業。しかし高級時計では、長らく後塵を拝していた。そもそも日本における時計産業は明治維新以降に始まったため、歴史ではスイス時計には及ばない。しかしセイコーは1960年に「グランドセイコー」を発表し、技術とデザインの両面で、スイス時計を目標に研鑽(けんさん)を積んだ。この時代、スイスでは天文台が時計の精度コンクールを開催し、オメガやロンジン、ゼニスといった名門が覇権を競っていた。ここにセイコーも参加し、しかも最高レベルの成績を収めたのだが、高級時計の価値は機械の良しあしだけでなく、デザインや物語など感性的な魅力も求められる。それは一朝一夕に築くことはできないため、グランドセイコーが世界的な評価を得るまでには至らなかった。
この状況に変化をもたらした要因のひとつが、スプリングドライブというセイコーの独自技術だった。これは巻き上げた動力ゼンマイが歯車を回す力を利用して発電し、その電力でクオーツ回路を動かして正確に時刻を刻むというもの。セイコーが唯一実用化に成功したこの機構を、2004年からグランドセイコーに搭載。ほかにはないメカニズムの独自性が評価され、特にアメリカ市場で爆発的な人気を得ることになる。さらには型打ち技術を駆使して日本の自然の美しさをダイヤル上で表現。雪面の上に現れる風紋や散った桜が水面を覆いつくす情景を表現することで、スイスやドイツの時計ブランドにはない個性へとたどり着いた。
いつしかグランドセイコーは、時計界の最高権威であるジュネーブ時計グランプリの常連となり、ドイツのレッド・ドット・デザイン アワードや日本のグッドデザイン賞なども受賞。感性的な魅力でも世界的な評価を得るようになる。
そして今では、世界最大の時計イベント「ウォッチズ アンド ワンダーズ ジュネーブ」に、非欧州ブランドとして唯一参加し、パテック フィリップたちと並ぶように構えた巨大なブースで、世界中のジャーナリストやリテーラーを迎えるまでになった。
そんなグランドセイコーの魅力とは、時計にかける一途な思いにある。より美しく、より高性能で、より感動的な時計をつくりたい。その一途な思いが、あらゆる時計たちから伝わってくる。
「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A. SLGB003」では、新開発ムーブメントのCal.9RB2を搭載。その精度はなんと年差±20秒で、ゼンマイ駆動の時計としては世界最高レベル。モデル名のU.F.A.(Ultra Fine Accuracy)は、その自信の表れだ。
これだけの高精度を実現するために、3カ月間エイジングして精度を安定させた水晶振動子をICと一緒に真空密封し、温度、湿度、静電気、光などの影響を最小限に抑えている。また封入されたICは、個々の水晶振動子の周波数を複数の温度で測定して得られたデータをもとにして温度補正を行う。こういった技術は、IC回路や水晶振動子まで製造しているからこそ可能になった。その技術的探求心が、世界中の時計愛好家を刺激するのだ。またダイヤルのパターンは、長野県の霧ケ峰高原などで冬季に発生する樹氷を表現している。
グランドセイコーは世界に誇れる日本の高級時計ブランドであり、スプリングドライブモデルは、さらに独自性が際立つ。もはやグランドセイコーのすごさに気付いていないのは、われわれだけなのかもしれない。
Keita’s Voice
「僕もグランドセイコーの時計を所有していますが、この最新モデルと比較しても、デザインが一貫していることがわかる。その変わらないスタイルのなかで、しっかり進化しているというのは素晴らしいこと。ケースが小ぶりなのも好みですし、ケースやブレスレットがブライトチタン製なのですごく軽い。シャツの袖にも引っかかりにくいし、細部までしっかり考えられていることがわかります」
自動巻きスプリングドライブ、ブライトチタンケース、ケース径37㎜。¥1,518,000
問/セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) 0120-302-617
Photograph: Toru Kumazawa
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up:KOHEY(HAKU)
Text: Tetsuo Shinoda