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ジョセフ アブード

特別インタビュー

進化するアメリカン・インターナショナル。
ジョセフ・アブードが描く未来像とは?

2025.10.20

進化するアメリカン・インターナショナル。<br>ジョセフ・アブードが描く未来像とは?

「アメリカンカジュアルにはプレッピーの要素があると思います」。そう語るデザイナー、ジョセフ・アブード氏は、38歳のとき、自身の名を冠したブランドをスタートさせている。37年目を迎える今年は、日本国内でオンワード樫山が正式に契約を結んでから30周年のアニバーサリーイヤーにあたる。

「私が表現したいのは、アメリカン・インターナショナルというスタイルです。それはアメリカのクラシックな価値観に、グローバルな感性を融合させること。アメリカのルーツに忠実でありながら、イタリアの上質さや日本の繊細さをも採り入れていく。現代のアメリカンクラシックとでも呼ぶべきものです」

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この日、大阪市内のホールでは、デザイナーを迎えたスペシャルオーダー会が開催されていた。会場はアメリカンビンテージをモチーフに完璧に構成されている。アール・ヌーヴォーのキャビネットにアンティークのトランクや革張りのソファなど、それはまるで旗艦店のようにしつらえがされている。氏はコーナーひとつひとつを丁寧に見て回りながら、時折スマホで撮影している。ディスプレーの仕上がりに、とても満足げだった。

変わらないDNAと進化するビンテージ

テーマは「進化するビンテージ」。クラシックなアメリカンスタイルを基盤に、洗練されたエレガンスを加える独自のデザイン哲学で人気を博してきたジョセフ アブードらしいコンセプトである。会場に集まった顧客の空気もどこか温かく、彼の穏やかな笑顔が空間全体を包み込んでいるかのよう。それは、デザイナーというよりも、“人”としてのジョセフ・アブード氏の深い包容力を感じさせるものだった。

数々の名誉あるファッションアワードを受賞してきた氏は、自身の師匠でもあり敬愛するラルフ・ローレンと共に、アメリカンファッションの中核を担う存在。自然からのインスピレーションをデザインの規範に、上質な素材と構築的でありながら柔らかなシルエットをまとうスタイルは、多くのファンを魅了しつづけている。時代が変わってもなお、本質的な美しさを追求する姿勢に揺るぎはない。

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「DNAは変わらない。ただ、進化は常にしています」。その言葉は静かだが、力強い。氏が語る「進化」とは、単なる流行への適応ではなく、ブランドの根底に流れる価値観にある。自然との調和、人のぬくもり。それらを失わず、時代と共に形を変えていくことを指していた。彼の服づくりは、トレンドではなく「生き方」そのものを映し出しているようだ。

「アメリカンスタイルは、常に人の生活と共にあるもの。日常に寄り添いながら、美しく、快適で、誠実でありたい。服を通して人の心を豊かにすることが、私の使命だと信じています」

その言葉には、長年デザインと経営の双方に携わってきた者だけが持つ説得力がある。

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変わらない思いを抱きながら、ブランドの歴史は常に「進化」を続けている。素材開発における新技術の導入。環境負荷を抑えるサステナブルな取り組み。そしてモダンなカッティングへの挑戦。それでもなお、氏の服には一貫して「温度」がある。それは流行のサイクルを超えた、人間的なぬくもりなのだろう。

日本市場においても、その存在は顕著といえよう。トレンドを追うファッションとは一線を画し、上質な日常を求める大人たちに静かに寄り添ってきた。ジョセフ アブードをまとうとき、人はどこか穏やかな気持ちになるはずだ。自分を飾る必要はなく、等身大のままでいられる服。そんな上質な哲学が、ブランドの根底に流れている。

デザイナーとして、そしてグランドファーザーとして

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今も週に4日はスカッシュに興じるという氏の日常。世間話のなかで先日、イタリアの巨匠デザイナーが逝去されたことに話が及ぶと、寂しそうに少し目を伏せた。氏も自身の未来を語るとき、後継者問題は避けて通れない。ご家族に、ご息女に、デザイナーの地位を譲る、あるいは継いでほしいとは思いませんか?

「2人の娘には、自分の思うとおりの人生を生きなさいと育ててきました。デザイナーになってほしいとか、そういう思いはないんです。でも、いつかの日か孫のオーガストが、私の服に袖を通して、そこに息づいているブランドの思いを感じ取ってくれたらうれしいですね」

「デザイナーは服をクリエイトしますが、私は父親になったことが、いちばん大きなクリエイションだったと思っています」 。目尻を下げ優しく語るその表情は、偉大なデザイナーではなく、家族を思うひとりの父親でありグランドファーザーそのものだった。

Photograph&Videograph:Hiroyuki Matsuzaki (INTO THE LIGHT)
Text:Yasuyuki Ikeda

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