スイス時計界の伝統を継承する
若きブランド、ノルケインの使命と挑戦。

2018年に創業した若き時計ブランド「ノルケイン」が、目覚ましい成長を見せている。2024年のグローバルでの売上は、2020年対比で５倍以上、日本国内でも約３倍の成長を達成している。昨年対比でもグローバルで約50％、日本でも円安の影響下にありながら約30％の伸びを記録し、好調を継続中だ。

昨年来、中国や香港では景気停滞にともない腕時計の売り上げが大幅に落ち込み、さらにトランプ関税が追い打ちをかけるなど、苦戦を強いられているスイス時計業界にあって、これは驚異的な数字と言っていい。

「われわれがまだ成長段階にある若いブランドであることが大きな理由でしょうが、それだけでなく『どんな山の頂上でも、登りつづければ絶対に目標を達成できる』とチームが一丸となって頑張っているからだと思います」

そう語るのは、今年3度目の来日を果たした副社長のトビアス・カッファ―氏、34歳。兄で創業者兼CEOのベン・カッファー氏の誘いで、2021年から現職に就き、セールス部門を統括する。毎回来日中には正規販売店を巡って親交を深め、1年間で日本の販売店イベントに15回ほど参加するという。こうした地道な努力も、ノルケイン躍進の力になっているに違いない。

「とにかく喜んでいただける新作を届けることに力を注いでいます。ひとつの例が、今夏に発売した『フリーダム60クロノ Enjoy Life』というモデル。アイスクリームを着想源にポップで陽気なコンセプトを具現化し、ライトなブルー、グリーン、ピンクのインダイヤルや、ケースバックにアイスクリームのイラストを採用し、曜日表示にも7日に1度アイスクリームのイラストが登場します。子ども心を忘れず、人生を楽しもう‼というポジティブなメッセージに、大きな支持をいただきました」

これをはじめ、今年発表した新作はいずれも好調だという。独自開発の超軽量かつ超高耐久のカーボン複合素材NORTEQ®を採用した「ワイルドワン」では、従来の42㎜から39㎜にサイズダウンし、男性はもちろん女性ユーザーもターゲットに。ムーブメント・サプライヤーのAMT社と共同開発したフライバッククロノグラフ機能のマニュファクチュール・ムーブメントを搭載した「インディペンデンス スケルトン クロノ42㎜」からはニューカラーバージョンが登場。そして９月にはヴィンテージテイストの「フリーダム60クロノ リミテッド・エディション」が発売された。

「どのセグメントでも、価格以上のクオリティの高さを評価いただけていると思います」と、トビアス氏は自信をのぞかせる。

「ノルケイナー」と呼ばれるアンバサダーとの“いい関係”も、ノルケインの推進力になっている。スイス出身のテニスプレイヤー、スタン・ワウリンカ選手とコラボし、テニスに因んだカラーやデザインを盛り込んだ「ワイルドワンスケルトン42MM スタン・ザ・マン・リミテッド・エディション」は、8月に発売がスタートすると限定85本が５日間で完売‼ またサッカー界のレジェンドであるジャンルイジ・ブッフォン、ギャリー・ネヴィルらは、アンバサダーでありつつ経営にも参画し、長期的な視点でノルケインの育成に関わっている。

また80年代初頭にブランパンの再興によって機械式時計の復活を主導し、ウブロの再活性化でも大成功を収めるなどスイス時計業界のカリスマ経営者ジャン-クロード・ビバー氏が、CEOのベン・カッファー氏と意気投合し、2020年からノルケインのアドバイザーに就任。「ワイルドワン」の誕生の際に、大きな力となった。

さらに、ブライトリング副社長を経て、チューダー傘下のムーブメント・サプライヤーであるケニッシ社では経営幹部を務めたジャンポール・ジラルダン氏もノルケインに参加し、今年から正式にプロダクトやファクトリー部門で手腕を振るっている。

またベンやトビアスの父親であるマーク・カッファー氏は、時計製造会社ロベンタ へネックスのCEO兼会長で、25年以上にわたりスイス時計協会の理事を務めた人物。その存在も大きい。

「ビバーさんやジラルダンさん、また父からも、自分たちが培ってきたスイスの機械式時計の伝統を次の世代に引き継がねば、という使命感を強く感じます。その熱意を、ノルケインというステージで、われわれ若いスタッフと共有し、いい形で連携しながらモノづくりが進んでいます」

ベテランと若い力とが融合し、コストパフォーマンスが高く、誠実なモノづくりを続けるノルケイン。まだ相当な“伸びしろ”を期待してよさそうだ。