特別インタビュー
小松美羽、北海道にて。
─祈りのアーティストはどこへ向かう?─
2025.10.21
札幌で2万人を動員し話題を呼んだ小松美羽の展覧会が、今度は函館へ。祈りや生命の循環を描いた作品群が来訪者にエネルギッシュに語りかける北海道立函館美術館で、旅する祈りのアーティストにインタビューをした。
内外のさまざまな都市で展覧会を催してきた小松美羽は、この秋、北海道・函館に舞い降りた。
『小松美羽 祈り 宿る』展―。
北海道の公立美術館から展覧会開催の声がかかる3カ月前、小松は、たまたまアイヌ民族の方によって行われた「絶滅種鎮魂祭」に参加していた。人間の存在によって絶滅してしまった動植物の魂を鎮めるイベントだ。人間と自然界の在り方を根本から問う祭に加わりながら、屈斜路湖の周りを歩いたり、自然に触れたりしていた小松は、ふと「エゾオオカミを題材にしてこれから北海道とは何かしらかかわっていくことになるな」と感じたという。そして、実際にその後、札幌と函館の美術館から展覧会のオファーが来たのだった。
そんな背景もあって、小松は、この北海道での展覧会(夏には札幌でも開催している)には、ある種の使命感をもって臨んでいた。 絶滅種に対する鎮魂、畏敬、愛惜―。
展示には、小松が一貫して描き続けてきた神獣に北海道の風土から想を得た新たな作品群が加わった。たとえば、「鎮魂の光が与えてくれた人類への問い」のような。
土地が抱え持つ風土は、小松にとって掛け替えのないものだ。ゆえに、どんな土地においても、まずはその土地に流れる空気や匂いを身体で感じ取り、ごく自然に咀嚼(そしゃく)する。小松はそれを「土地と繋がる」と表現する。もちろんそれは、北海道においても同様だった。
五稜郭に行き、タワーから街を俯瞰(ふかん)し、「函館美鈴珈琲」でコーヒーを味わい、「津軽屋食堂」で昼食をとり、街を歩いた。探訪し、思考し、身体の中に落とし込む。そんな作業をいつもと同じようにおのずと行った。
函館の印象を小松はこう語る。「函館のよさは、海や山などいろんなエレメントが近いこと。函館ではそこにさらに街も感じられる。古い建物も点在していたり、情緒も豊か。街の持つエネルギーと自然のエネルギーがひとつの調和を生んでいるんですね。いい意味でコンパクトにまとまっている街だと思います」
一方、展覧会では、函館出身の「GLAY」のTERUとのトークショーが催された。TERUはこの展覧会で音声ガイドのナレーションを担当し、小松の主要作品の20点ほどを解説している。
TERUは、ライブのためにイタリアのヴェネツィアを幾度となく訪れてきた。と同時に開催中は、必ずビエンナーレに足を運んできた。そしていつしか「こんな芸術祭を函館でもやれたら」と思うようになっていく。
TERUは、函館の歴史文化を学び、識者に会い、アートを吸収しはじめる。3年前からは自らも絵を描きはじめた。函館発芸術祭実現に向かって、次々と行動を起こしていくのだ。
目指すは、3年後の開催だ。
小松もまた、「今後も函館とのかかわりを大切にしていきたい、TERUさんと一緒に盛り上げていきたい」とエールを送る。
小松はその理由をこう言う。「人間には“衣食住薬”が必要だと私は思っています。貧困にあえいでいるときでも、人は音楽や美術、舞台芸術などアートを求めたりする。それはアートが人の心を救うから。アートは人の心を癒やす薬だと私は信じています」
祈りのアーティストの旅は、なおも終わらない。
小松美羽(こまつ・みわ)
1984年、長野県生まれ。銅版画からキャリアをスタートさせ、アクリル画、有田焼などに制作領域を拡大。2020年24時間テレビ『愛は地球を救う』でのライブペインティングによる作品が、2054万円で落札され全額寄付したことが話題に。2023年10月、真言宗立教開宗1200年記念にて、世界遺産・東寺に『ネクストマンダラ︱大調和』を奉納。その制作ストーリーは、アエラスタイルマガジン22年秋冬号と24年春夏号に詳しい。現在、北海道立函館美術館にて大規模作品展『祈り 宿る SacredNexus: Resonating with Cosmos』が開催中(25年11月30日まで)
小松美羽 祈り 宿る Sacred Nexus: Resonating with Cosmos
会期:2025年9月20日(土)~11月30日(日)
会場:北海道立函館美術館
開催時間:9:30〜17:00(※入場は16:30まで)
休館日:月曜日(10/13、11/3、11/24は開館)
観覧料:一般 920(720)円、高校・大学生 610(410)円、小・中学生300(200)円
*( )内は先行販売、グループ、リピーター
無料:障がい者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方、付き添いの方(1名)
主催:北海道立函館美術館
共催:北海道新聞函館支社
協力:STV札幌テレビ放送、北海道旅客鉄道函館支社、五稜郭タワー株式会社、北海道立函館美術館ボランティアいちいの会
特別協力:株式会社風土、Whitestone Gallery
後援:函館市、函館市教育委員会、NHK函館放送局、FMいるか
Text: Haruo Isshi
Photograph: Hiroyuki Matsuzaki (INTO THE LIGHT)