お酒
英国王室御用達の家族経営メゾン
「ポール・ダンジャン・エ・フィス」の魅力
2025.12.08
1947年、シャンパーニュ地方コート・デ・パール地区に設立された名門メゾン。もともとは、モエ・エ・シャンドンやマムにブドウを販売してきた、腕利きのブドウ栽培家の家系だった。しかしながら、初代にあたる祖父のポール・ダンジャンは、自らシャンパーニュ造りに挑戦することを決意した。現在は、若くして3代目当主に就任した、ジャン・バティスト・ダンジャン氏が切り盛りしている。
原料となるブドウは、代々家族が守ってきた畑のもののみを使用。しかもそれは、土を鍛え、ブドウを育てるナチュラル栽培の哲学に準じている。具体的には、人工合成の化学薬品や除草剤を排除し、土をすき返すという伝統的手法で畑を管理。ブドウの樹はすき起こされた草から水分とミネラルを吸収する。こうして何メートルにも達した根がシャンパーニュの複雑な地層から多様なミネラルを取り込むことで、出来上がったシャンパーニュには唯一無二の奥行と複雑味が宿る。
ポール・ダンジャン・エ・フィスの顔となるのは、こうした伝統的な製法で育てたブドウで造る、英国王室が愛する逸品、カルト・ノワールNVだ。樹齢30年以上のピノ・ノワールを100%使用し、30カ月以上熟成させた力強い果実味と酸が何より魅力だ。例えば、キャビアを合わせたときに、強い塩気と金属的な風味に対して、ブラン・ド・ノワールの豊富な果実味と骨格の強さがしっかり受け止め、バランスを取っている。こうしたクラシックなマリアージュが結実するところが、何より英国王室御用達として愛される所以だ。
一方、革新的な手法で造られているキュヴェも存在し、異才を放っている。そのひとつがサン・シールNV。ピノ・ブラン100%で仕込むも、甘く重い味わいとなり、販売を断念したが、翌年から早摘みしたブドウを低温熟成することで繊細な酸とエレガンスを実現。結果、稀有なピノ・ブラン由来のブラン・ド・ブランとして誕生した。魚介と好相性の個性派シャンパーニュだ。
もう1本、キュヴェ・‘47NVは2010年から続くリザーヴワインをつぎ足しながら作る、独自のソレラシステムによって醸造されたもの。ベースワインは樹齢50年以上のピノ・ノワールを使用することによって、若いワインと熟成ワインが調和し、年ごとの個性を超えて土地の風味と気候風土を純粋に映し出すことに成功した。
また、ポール・ダンジャン・エ・フィスでは、環境問題への取り組みも積極的に行っている。まず、所有畑のうち10%をあえて人間の手を加えず自然のまま残すことで、生態系保全と土壌の多様性を長期的に守っている。さらに、使用資材はすべてリサイクル品を活用し、廃棄物削減を徹底。醸造所や設備の洗浄に使用する水は雨水を再利用し、地下水などの貴重な自然資源を保全する仕組みも構築している。
エレガントで芳醇な味わいはもちろんのこと、未来を見据えたポール・ダンジャン・エ・フィスのシャンパーニュをぜひ賞味してみたい。