週末の過ごし方
寿司好きなら、いますぐ富山へ向かうべし。
2025.12.25
冬の富山は、静かにして雄弁だ。日本海から吹き込む冷たい空気が街の輪郭を引き締め、食の本質を際立たせる。その中心にあるのが、寿司である。
富山湾は“天然のいけす”と称されるほど魚種が豊富だ。寒ブリ、ベニズワイガニ、シロエビ、ホタルイカ――。冬を迎えると、その恵みはいっそうさえ渡る。立山連峰を背にしたこの土地では、海と山の距離が驚くほど近い。その地理的条件が、富山の寿司を特別な存在にしている。
富山の“食文化”を語るうえで欠かせないのが、“水”の話だ。立山連峰から流れ出す雪解け水は、富山湾へと注ぎ込み、魚介に豊かな栄養をもたらす。同時にその水は、良質な米と酒も育てる。ネタ、シャリ、酒――そのすべてが、ひとつの水系のなかで完結していることこそ、富山の強みと言えるだろう。
近年、こうした価値をあらためて言語化し、全国へと発信する取り組みが本格化している。富山県が10年単位で挑むブランディングプロジェクト「寿司といえば、富山」だ。寿司を単なる名物としてではなく、地域文化の入り口として捉え直す。その思想は、11月を「寿司といえば、富山」月間と定め、官民一体で展開される多彩な施策にも表れている。
異ジャンルの料理人が“寿司を連想させる”ひと皿を提案する「とやまクラフト寿司」。魚が泳ぐ姿から職人の手仕事までを理解できる水族館イベント。寿司との相性を前提に設計された、富山の地酒シリーズ……。いずれも、寿司を起点に富山の食文化を立体的に浮かび上がらせる試みだ。
このプロジェクトが示しているのは、「おいしい」で終わらせない覚悟だ。生産地と消費地の近さが生む鮮度、職人を育て、環境を守り、次の世代へとつなぐ意志。寿司はその象徴であり、最もわかりやすいメッセージなのである。
ここまで語れば、もうおわかりだろう。寿司好きにとって、富山は必ず訪れるべき寿司の“聖地”である。折しも季節は冬。この時期にしか食べられない旬のネタを求め、美食の旅へとしゃれこみたい。
取材協力/「寿司といえば、富山」広報事務局 https://www.pref.toyama.jp/sushitoyama/
Text:AERA STYLE MAGAZINE