特別インタビュー
志が停滞する時代を動かす。
織田裕二と北方謙三がビジネスパーソンに捧ぐ
『水滸伝』という熱源。
2026.02.13
シリーズ累計1160万部。中国古典を大胆に再創造し、日本の出版界における金字塔を打ち立てた北方謙三の巨編『水滸伝』が、ついに動きだす。日本ドラマ史上、規格外のスケールで描かれる本作の主演を務めるのは織田裕二。そして原作者であり、今なお圧倒的な筆力で読者を魅了しつづける北方謙三。2人は現代社会に生きる私たちに何を問いかけるのか。物語の核心と、撮影現場で交わされた熱き対話からその神髄を解き明かす。
主人公・宋江を象徴する「正義と反骨」
物語の舞台は、腐敗が蔓延する1000年前の宋代。『水滸伝』は、理不尽な権力に抗い、自らの誇りをかけて立ち上がった108人の漢(おとこ)たちの叛逆(はんぎゃく)を描く。その中心に立つのが、織田裕二演じる宋江(そうこう)だ。
「これまで40年近く役者をやってきましたが、このスケールでの撮影はなかった」と織田は感慨深げに語る。宋江は、いわゆる最強の武人ではない。下級役人として働きながら腐敗した世を憂い、自ら筆を執って『替天行道(たいてんぎょうどう)』という世直しの書を記した人物だ。
この宋江の在り方について、北方謙三は独自のリーダー像を提示する。
「宋江は思想の象徴なんです。軍事的な指揮官ではない。先頭に立って暴れる役割は晁蓋(ちょうがい/反町隆史)のような漢が担えばいい。宋江はもっと静かにゆっくりと、乾いた土に染み込む雨のように人の心にしみ込んでいく。だから『及時雨(きゅうじう)』というあだなを持つ。寒天に降る雨のように、その志を人々へ届けていく存在として描いたんです」
織田も、演じるなかでその静かなる強さに魅了されたという。
「武術などの鍛錬で身に付く強さとは違う、人の心を動かすという一番難しいことを宋江はやっている。それは強引なけん引ではなく、自分の弱さもさらけ出し、ただ人に寄り添うことで生まれる信頼の形。『雨のように染み込む』という表現は、演じるうえでの大きな指針になりました。強さの定義が変わる今の時代、このリーダー像は深く響くはずです」
なぜ人は旗のもとに集うのか
北方版『水滸伝』が多くのビジネスパーソンを引き付けてやまない理由は、理想論にとどまらない、生々しいリアリティにある。
「ビジネスパーソンが注目すべき点は何か」と問うと、北方は即座に「闇塩の道」のエピソードだと答えた。
「物語のおもしろさは、そこに『ビジネスの原点』がある点。いくら高い理想を掲げても、巨大な敵(システム)と戦うには軍資金がいる。かつての『水滸伝』は隣の村から米を奪うような略奪の物語だったのだけど、私はそれでは組織は存続できないと考えた。どう金を稼ぎ、どう物流を確保するか。その戦略的な発想を実行できる才能こそが、組織の命運を分けるんだ」
織田も経済という視点が、物語に血を通わせていると言う。
「宋江たちが、極めて現実的な戦略を抱いているところも魅力ですね。全国に闇塩のルートを張り巡らせ、それを情報の生命線や経済基盤にする。単なるレジスタンスではなく、既存のシステムに対抗しうる新しいネットワークを作り上げる過程には、圧倒的なリアリティがあります。金がかかる、じゃあそれをどう稼ぐか。現場でその戦略の広がりを感じるたび、これは現代の組織変革の物語でもあるのだと確信しました」
かつて略奪として描かれた物語を、北方は「商売と戦略」の物語へとアップデートさせた。その緻密な設定が映像になることで、より説得力を持って迫ってくる。
多様性が生む変革の力
志を同じくする者が集う砦である梁山泊には、官軍を追われたエリート、裏社会を生きる男、そして激動の世を生き抜く女性たちなど、異なる背景を持つはみ出し者たちが集う。
反町隆史演じる軍略の雄・晁蓋、亀梨和也演じる槍の達人・林冲(りんちゅう)、満島真之介演じる誇り高き武人・楊志(ようし)など、強烈な個が、なぜひとつの組織として機能するのか。
「主演の私ですら、この作品の一部でしかないと感じるほどの群像劇です」と織田は言う。
「現場では、自分が出演していないシーンで他の役者たちがどんな熱量でぶつかり合っているのか、想像するだけで震えます。それぞれが異なる理由で戦いながら、それでも『替天行道』というひとつのパーパスのために命を懸けている。それは強要された忠誠心ではなく、自らの意志で選んだ志。この『自律した個の集まり』こそが梁山泊の本当の強さ。宋江として、その熱い個性がぶつかり合う瞬間を肌で感じることが、この上ない喜びでした」
北方も、制作陣の熱量に期待を寄せる。
「ドラマ制作陣はむさ苦しいほど熱い(笑)。だが、あれだけの長編を作るにはそれくらいの熱が必要なんだ。俳優の演技力、監督の表現力、衣装や小道具に至るまでの創造力。それらが作家である私の想像を超えたところでかみ合ったとき、どんな化学反応が起きるのか。私は今、一人の観客として圧倒される瞬間を待っています」
反抗と志の行方
インタビューの終盤、話題は「反抗」へと及んだ。北方は、今の若い世代が「反抗しない」と言われる現状について、自身の経験を交えて語った。
「かつて私は人生相談で若者の悩みや怒りに真剣に返していたんです。当時は親や先生に反抗するのが当たり前だったが、今は先生が話をちゃんと聞いてくれるらしい。聞いてくれると、反抗しようがないのだという。だが、形を変えたとしても、現状に対する違和感やエネルギーは、どんな時代にも若者の心にあるはずだ」
織田も自身の少年時代を思い出しながら、その言葉に深く共感する。
「僕たちの頃は力ずくで怒られる時代だったから、腹を割って話せばわかり合える部分もあった。今は表面上は穏やかでも、どこか出口のない閉塞感を感じている人は多いはず。宋江は、ただ怒りに任せて暴れるのではなく、何が正しいのかを自問し、弱さをさらけ出しながらも一本の旗を立てた。何のために働くのかという問いを見失いやすい今だからこそ、自分の中の『志の旗』をどこに立てるべきか、考えるきっかけにしてほしいですね」
「あなたは、何のために戦うのか」。この問いは、1000年前も現代も変わらない。
2026年2月15日、WOWOWとLeminoで幕を開けるこの壮大な叛逆の物語は、単なるエンターテインメントの枠を超え、ビジネスパーソンの生き方をも刺激する。
かつて北方版『水滸伝』を読みふけった世代も、これから初めて触れる世代も。立ち上がる108人の生きざまは、乾いてしまった現代人の心に、及時雨のように染み込み、再び志の火をともしてくれるに違いない。
WOWOW×Lemino 連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」
2026年2月15日(日)スタート
全7話
出 演: 織田裕二/亀梨和也、満島真之介、波瑠・玉山鉄二/反町隆史
原 作: 北方謙三『水滸伝』(全十九巻/集英社文庫刊)
監 督: 若松節朗、村谷嘉則、佐藤さやか
脚 本: 藤沢文翁
音 楽: 村中俊之
エグゼクティブプロデューサー:西憲彦(WOWOW)
プロデューサー:大原康明(WOWOW)、古屋厚(ROBOT)、森安彩(共同テレビジョン)
制作プロダクション:ROBOT
製作著作:WOWOW NTTドコモ
公式 HP:https://suikoden-drama.com
Photograph: Kayoko Yamamoto
Text: Tomoko Komiyama
(Yuji Oda)
Hair & Make-up: Mariko Kato(MARVEE)
Styling: Tetsuya Kato