週末の過ごし方
世界遺産の街ポルトで絶景宿に泊まり、
地元酒場やモツ煮込みを楽しむ旅
2026.02.20
ポルトガル第二の都市、ポルト。全長897kmに及ぶドウロ川の河口に位置し、ポートワインの出荷地として世界に知られる街だ。色とりどりの家が密集する旧市街や橋、修道院は世界遺産に登録され、街そのものが絶景。そんなポルトを起点とする旅を、前後編に分けてお届けする。まずはポルトの滞在を紹介。
スーツケースが転がる街、ポルト
ポルトガルのポルト。国名と重複するこの街の意味は“港”で、実際に港町だ。そのまんますぎて妙にチャーミングである。日本からは遥か遠いが、欧州内では非常にアクセスしやすい地方都市だ。観光地としての勢いに乗り、近年、ポルト国際空港へのフライトが増加。各国約130の都市とつながり、欧州では主要都市はもちろん、地方からの便も多いので、欧州旅行に組み込みやすい。
今回、筆者はバルセロナ滞在後にポルトへ飛んだ。バルセロナを出て1時間半、雄大なドウロ川が眼下に見えてくる。その眺めこそ、ポルト。ドウロ川上流の渓谷で生産されるポートワインを船で運び、世界中に輸出することでポルトは発展してきた。いまでも、ポルトで必須の体験といえばポートワインのテイスティングだ。駆けつけ一杯の甘いワインを楽しみに、空港から最初の宿「Gran Cruz House」へ向かった。
4回目、10年ぶりのポルト。約30分のUber乗車の後に驚いたのが、支払いがたった14ユーロ(約2560円)だったこと。他の欧州諸国の半額以下。円安ユーロ高の現状でも、ポルトの旅費は総じて懐に優しい。
クルマからスーツケースを降ろせば、坂道に荷物がコロコロと転がっていく。慌てて止める瞬間もポルトらしい。リスボンも坂が多いが、ポルトの坂はより急だと言われている。なぜなら、ここはドウロ川の深い谷に築かれた街で、近代的な整備がないまま現在に至る。特に旧市街の石畳の傾斜がきつく、ハイヒールは苦行に。スニーカーでも足にくるが、ふと立ち止まって眺める街の景色が、疲れを癒やすご褒美となる。
ポートワインの会社が作ったホテルに宿泊
チェックインした「Gran Cruz House」は、ポートワインの「Port Cruz」が手がけるブティックホテル。1887年設立の老舗醸造所だけにホテルも立地に優れ、世界遺産の旧市街ど真ん中、ドウロ川に面してたたずむ。建物の歴史は17世紀までさかのぼり、2018年に7室のみのホテルに生まれ変わった。
「Port Cruz」は“The Country where Black is Colorful(黒が色彩となる国)というテーマを設け、黒はポートワインを表す。そのテーマは華やかな味わいやビジュアルに反映されているが、ホテルもなかなか色鮮やかだ。7室は全て異なるデザインで、7人のアーティストが“Women in Black”をお題に扉にアートを描き、ポップさもある。
ウェルカムドリンクはもちろんポートワイン。ワイン片手に鍵を受け取り、リバービューの「PINK」という客室に入る。ワインの甘美な香りと共に、窓の外に広がるドウロ川に見ほれる。ポルトでは川の流れがつまみだ。ポートワインのアルコール度数は20%前後なので、一杯飲み干すころには、もう調子が上がる。
部屋は昔ながらの石の窓枠にポルトガルらしい素朴な花柄のリネンがマッチして、広くはないけれど落ち着く。しかし、参考までにお伝えすることがある。旧市街の一等地だけに、午後はホテルの真下で観光客に向けた路上ミュージシャンの歌声が大きく響く。往年の世界的ヒット曲が繰り返されるので、気になる場合は出かけるしかない。
とはいえ、この立地からの眺めには代え難い価値がある。日暮れ後のドン・ルイス一世橋にも心奪われた。1886年に建設されたポルトを象徴する橋は、旅行者の定番スポット。橋からの旧市街の眺めが絶景として知られるが、実は見られる側からも美しいのだ。夏の明るい時間帯にはチップ目当てで少年たちが橋から飛び込みを行い、それもポルト的光景。そんな川沿いで朝食やディナーを楽しめる数少ないホテルでもある。
「Gran Cruz House」1泊155€〜
https://www.grancruzhouse.pt
ポルトでは何がおいしかったか?
ポルトの料理は素朴で親しみやすいものが多い。飾りすぎず、郷土料理がスタンダードな街。手頃な街角グルメからワイン処、ミシュランスター獲得店までをご紹介する。
「Casa Expresso」
郷土料理で飲ませるオヤジバル
1950年代の開業時から続く伝統的な店内。
手前はパパス・デ・サラブーリョ(2.75€)、奥は豚の胃袋の煮込み(6€)。
このバルを嫌いな旅行者がいるだろうか? 古い石壁の下にアズレージョが貼られた店内で、買い物帰りの地元のお母さんが食事をするような店。ショーケースの中にはポルトの惣菜が並び、1ユーロのワインを頼めばコップ酒のノリで縁まで注がれる。つまみは臓物だ。豚の胃袋もいいが、血のソーセージがどろどろに溶けたような“パパス・デ・サラブーリョ”に開眼した。元気100倍になりそうなスープなのである。いつか地元のオヤジたちのようにスタンディングでさくっと腹ごなしをしてみたい酒場だ。
「Conga」
ポルトの悪魔サンドイッチに取りつかれる
豚肉のサンドイッチ“ビファーナ”と、チーズがけ肉サンドイッチの“フランセジーニャ”の人気店。ポルトガル名物のビファーナが特に有名だが、ポルト生まれのフランセジーニャを頼んだ。運ばれてきたそれは、まさに欲望のミルフィーユ。パン、薄切りステーキ、ハム、ソーセージ、チーズ、卵が重なり、ビールとトマトのソースで覆われている。ビールが絶対に必要な濃厚さとB級感。横目に見えた汁だくのビファーナを食べるために再訪したい店でもある。
「Taberna Folias de Baco」
ドウロ渓谷にある自然派ワイナリーが作ったバル
店内はワイン造りに関する写真が並ぶ。
タコと豆のサラダ(11.95€)にロゼワイン(1杯3.66€)。
「Folias de Baco」はドウロで注目の自然派ワイナリー。そこが作った酒場が旧市街にあり、小皿料理も用意する。タコと豆のサラダはポルトガルらしい組み合わせで、ロゼがはまった。マッシュルームのパイ包みは、割った瞬間にきのこの熱波が顔を包み込む瞬間が幸せだ。料理の塩が強いのはご愛嬌。注文の際、店主が向かいに座り、面談のようにワインを決めたのが面白かった。
「Restaurante O Gaveto」
貝を目当てに訪れてほしい隣街のシーフードレストラン
ゆで海老(24€)、生牡蠣(11€)。
アサリの白ワイン蒸し(27.5€)。
一度は人の多いポルトを離れ、バスで30分の隣町マトジニョシュへ。「Restaurante O Gaveto」に入ると隣のテーブルにUEFAの偉い人たちのような団体が(完全イメージ)。彼らは前日にスペインにある世界3位のレストラン「アサドール・エチェバリ」に行った話をしていたので、ここもきっと評判のよい店なのだろう。家族経営のシーフードレストランで、ポルトガルは牡蠣をはじめ貝類が本当においしいと再認識した場所。アサリのうま味もパンチがある。帰りは静かな海辺の街マトジニョシュの散歩をぜひ!
「Chocolataria Equador Matosinhos」
旅の休憩に重宝する、ポルト発のクラフトチョコレート店
ポルト旧市街にも店舗はあるが、くつろぐにはマトジニョシュ店がベスト。店内に入った瞬間から、甘く芳醇なカカオの香りに癒やされる。“Bean to Boutique”を掲げ、アイテムは50種類以上。さまざまなフレーバーの板チョコからタルト、ホットチョコレート、もちろんポートワイン入りのチョコレートもある。お酒も豊富でチョコレートとのマリアージュが楽しい。パッケージがかわいいからお土産にも最適だ。
「Abadia do Porto」
創業85年以上となるモツ煮込みの老舗
ポルトを代表する郷土料理といえばモツ煮込み。15世紀、よい肉は身分の高い人々の物で、市民は残された内臓を使って知恵を絞り、モツ煮込みを生み出した。ここでは多種の内臓やソーセージ、白インゲンなどが入った王道のモツ煮込みを提供する。白米が付いてくるので、肉の旨みと脂質が溶け出した汁を米にかけて味わえば、日本人歓喜。たっぷりのオリーブオイルで焼き上げるタコなど、その他郷土料理も豊富だ。
「Taberna do São Pedro」
イワシの炭焼き屋で知る、魚と芋の好相性
ここを教えてくれた地元民いわく、「イワシにオリーブオイルをたっぷりかけて、ジャガイモと一緒に食べる。玉ねぎとレタスのサラダや焼きピーマンも欠かせない。もちろんヴィーニョ・ヴェルデもね」。焼き場の炭は周囲も灼熱になるような高温。イワシは新鮮な状態から焼かれているのに、不思議と干物のようなうま味を含む。オリーブオイルがイワシの脂と芋のほんのりとした甘さをつなぎ、ヴィーニョ・ヴェルデの爽やかな酸味が青魚に合う。イワシという世界共通の大衆魚に、ポルトの個性が宿っていた。
「Euskalduna Studio」
日本からの影響も受けるミシュラン1つ星獲得店
厨房との距離は1m未満。手前がシェフのヴァスコ・コエーリョ・サントス氏。
コース(160€)より3種のイカのアペタイザー。
各国の影響を受けながら、ポルトの食材をコースで提供。日本からのヒントも含み、例えばひと品目はイカを使ったタコ焼きオマージュだった。ほれぼれしたのは、花の香りをまとった地牛のタルタル。肉肉しいのにかれんだった。魚系より、肉や野菜の料理のほうが満たされた店。厨房を目に前にするカウンター席がおすすめだ。訪問時は隣のドイツ人ふたり組が、「人生で最高の一日!」喜んでいて、そういう場面にも出くわす。
「KAIGI」
ミシュラン獲得店の姉妹店となる日本料理
「Euskalduna Studio」と同じオーナーによる日本の“OMAKASE”がテーマの店。和の空間で、日本酒をそろえ、海苔巻きは手渡し。「港区の居酒屋?」と錯覚しそうになるが、大将はブラジル人でソムリエはスペイン人だ。ポルトガルの魚介を使い、鮨や和食を我流で提供する。鰹のたたきがおいしかった。スタッフはみな大葉や味醂といった日本の食材への興味が尽きず、多国籍なスタッフとの交流が楽しい。「細かいことはいいんだよ!」「和食に興味を持ってくれてありがとう!」という気持ちになる場所。和食店だが、途中でお茶目にパンを出してくれる。
旧市街を眺めるアパートは6号室が狙い目
2軒目に泊まった宿は異質ですてきだった。「Gran Cruz Apartments」という6室のみのアパートだ。旧市街を眺めるガイア側の、川沿いから1本中に入った路地に立地する。宿の住所に着くと、そこは小さな表札を付けたピンクの建物。入り口のドアはロックされ、暗証番号で中へ入る。アパートだからスタッフは常に不在。サービスカウンターもレストランもなく、それが住人気分を高めていく。
エレベーターで3階へ上がり、再び暗証番号で6号室に入ると、窓の外に旧市街の絶景が広がる。自室からの眺めが絵葉書のようだ。旧市街側からの眺めもすてきだったが、やはりポルトを象徴する景色を眺めるならガイア側である。そして、このアパート最上階の6号室はガイア側のなかでも特等席。前の建物に視界を遮られない6号室を予約するのがポイントだ。
部屋はモダンなデザインで現地の富裕層が住んでいそうな雰囲気。寝室もシャワーも2つずつあるので、2組で泊まるにも最適だ。キッチンには鍋やオーブン、食洗機がそろい、長期滞在にも向く。朝は各客室に朝食ボックスが届けられる。
センスのよい部屋で利いているのが、ポルト在住の写真家ジョアン・ベルナルディーノの作品たちだ。ポルトの街並みがモノクロで写され、実際にはカラフルな街との対比が粋。アズレージョといえば鮮やかなブルーが魅力だが、モノクロでも引き込まれると気付かされる。
全室、冷蔵庫にポートワインがギフトとして1本入っているのがありがたい。旧市街の景色を眺めながらそのポートワインを飲んでいると、ゆるゆると時間が溶けるように過ぎていく。日が落ちると薄暮の空の下でオレンジの街灯が光りはじめる。街へ出かけたいのに、ここで街を眺めつづけたい。人を出不精にさせる部屋だ。芳醇なポートワインと時間ごとに変わる景色が、それもありだと感じさせる。
「Gran Cruz Apartments」2泊288€〜(6号室は2泊480€〜)
https://www.grancruzapartments.pt/en/
以上がポルトの食と宿の回想。もしも初訪問だったら、アズレージョが見応え満点のサン・ベント駅やアルマス聖堂、“世界一美しい本屋”として有名なレロ書店などもお試しあれ。筆者も5回目のポルト訪問が現実味を帯び、王道回帰をする予定。その際は静かなマトジニョシュを拠点に、アズレージョの物語をガイドさんにじっくり聞こうと思う。やり残したことが尽きないのは、魅力にあふれる街の証拠だろう。
【ドウロ渓谷に滞在する後編に続く】
プロフィル
大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、旅、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、年に10回は海外に渡航。スペインと南米に行く頻度が高い。柴犬好き。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。