週末の過ごし方

国境を越えた蕎麦愛。立ち食い蕎麦屋『福そば』が生んだ、
本気の鰹だしと季節の天ぷら。@人形町

2026.03.03

国境を越えた蕎麦愛。立ち食い蕎麦屋『福そば』が生んだ、<br>本気の鰹だしと季節の天ぷら。@人形町

早くて、安い。おまけに、ウマい。一見の価値あり、もとい“食”の価値がある都内の立ち食い蕎麦屋を紹介する連載。2軒目は、人形町の人気店『福そば』。一見するとベーシックな天ぷら蕎麦。だが、麺をひとすすりすればわかる違い。その理由は、国境を越えて蕎麦を愛する店主のこだわりにあった。

一滴残らず飲み干したい。
人生を変えた、つゆへの愛をいただく。

人形町駅周辺、オフィス街の裏路地で、蕎麦好きの間で密かに人気を呼んでいる立ち食い蕎麦屋がある。“新そば”の文字に誘われて引き戸を開ければ、湯気とだしの香りが一気に押し寄せ、注文前から食指が動く——それが『福そば』だ。

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ふくよかな新蕎麦と、立ちのぼるだしの香り。高知県産菜の花天ぷらそば ¥850。

『福そば』を語るうえで外せないのがつゆ。だしを取るために使う素材は、とにかくぜいたく。メインは、極限まで乾燥と熟成を重ね、うま味を凝縮した本枯本節二年物の厚削り節。そこに北海道産・日高昆布のエキスを重ねていく。そして、加熱後にしっかりと寝かせてコクを出したかえしと掛け合わせる。

こだわりのつゆは、重層的でありながらくどさはなく、喉を抜ける後味はすっと軽い。ふと店主のバックボーンを想像してしまうほど本格派な味わいだ。和食の料亭で修業をした人なのか、それとも老舗の蕎麦屋で試行錯誤を繰り返してきた人なのか――。

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「いつものでいい?」と常連客に注文を確認するユンさん。
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自家製の辛味噌。ニンニクなしなので、口臭を気にせず味変できる。

正解は、独学でだしを極めた中国出身の蕎麦好き、店主のユンさん。もとは和食の飲食店を開くべく渡日したが、7年ほど居酒屋で和食の基礎を学ぶうち、蕎麦づくりの奥深さに魅了される。そこから方向転換し、『福そば』に修行入り。つゆの研究に明け暮れる日々を重ね、やがて店を任されるまでになった。

そんなユンさんの出自を知ると、つい試したくなるのが、カウンターに置かれた特製の辛味噌だ。ひとさじ、つゆに溶かすと、ピリッとした辛みが甘みを引き立て、最後の一滴まで蕎麦を楽しめる。

通うたびに発見がある。
季節の天ぷらはオーダー必須。

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天ぷらの衣液はフラワーの薄力粉を使用。食材に薄く衣液をまとわせて、軽やかに揚げる。

極上のつゆに浸しながら味わいたいのが、旬の野菜や魚介を使った天ぷら。取材日におすすめされたのは、薄い衣をまとった菜の花。花の部分はもちっと、茎はさくっとした食感で、口の中に春の香りが広がる。毎週土曜の店休日には、ユンさん自ら市場に足を運んで食材を仕入れるため、メニューは頻繁に替わる。

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東京メトロ日比谷線人形町駅A2出口から徒歩1分。青いのぼりが目印。

本格派のつゆに、本場仕込みの辛味噌、そして週替わりの天ぷらを味わう。常連客は「ごちそうさま、また来ますね」と言葉を残して店を後にする。最後を締めくくるのは、ユンさんの愛にあふれた送り出しのひと言だ。

「汁まできれいに、ありがとうございます。いってらっしゃい!」

福そば
住所/東京都中央区日本橋人形町1-16-3
電話/03-3662-1138
営業/平日:07:3017:30
定休日/土・日・祝

Photograph: Shohei Ishida(Blue-ly)
Edit & Text: Ryuto Seno

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