靴
ビジネスシューズの隠れた名品、ダブルモンクシューズを深掘り。
ファッショントレンドスナップ217
2026.02.27
2017年にフランス史上最年少の39歳で大統領に就任し、2期目の職務を続けているエマニュエル・マクロン。今回は彼の政治的スタンスではなくファッションスタイルに注目してみたいと思います。いきなりこのコラムで政治家を取り上げるのに違和感がある方もいらっしゃるかと思いますが、マクロン大統領の公務時のスーツスタイルには、日本のビジネスパーソンが見習うべきポイントが隠されているのでご理解ください。
マクロン大統領を取り上げるきっかけになったのが、昨年の11月に南アフリカで行われたG20サミット(20カ国の首脳会議)でマクロン大統領が高市早苗首相と個別会談をしたシーンが彼の公式インスタグラムにアップされたのを見たから。
高市早苗首相と初めて会談するときの彼のスタイルは、ダークネイビースーツに白シャツ、ネクタイはネイビーの無地というマクロン流定番。彼は公式の場ではほとんどがこの組み合わせ(まれにダークグレースーツ、ドット柄のネクタイを着用)で、私の知る限りレジメンタルストライプや赤いネクタイといったものを見たことがありません。
※私が見逃している職務中のマクロン大統領のVゾーンやネクタイはあると思いますので、これはあくまで私見。
とはいえスーツはフランスの高級ブランド?ではないのかと勘ぐる方もいると思います。というのも彼の奥さまのブリジットは、公式の場ではフランスの有名ブランドの服を着ていて、働く女性に向けたファッション系SNSでは常にアップされ注目されているからです。
ところが、彼はスーツに関してはコストパフォーマンスのいいフランスのブランドをチョイスしているようで、2017年の大統領就任式には「Jonas et Cie(ジョナ エ シー)」というブランドで当時のレートで換算すると4〜5万円程度の既製スーツを着ていたことが話題になりました。もちろん、現在はそれ以外のブランドのスーツも着用していると思いますが、体にフィットし、ジャケットの襟の幅やスラックスのシルエットはやや細身というところはブレていません。
そんなスーツをあえて選んでいるマクロン大統領ですが、個人的にはほどよいモード感があり、古参政治家に感じられがちなクラシック感がほとんどないのです。
そうして見えるポイントのひとつが、靴のチョイス。日本のシューズの売り場に行けば必ず目にするのですが、普及率はイマイチという隠れた名品です。
その靴は、高市早苗首相とG20サミットで初会談したときにも履いていたダブルモンクシューズ。甲の部分に覆いかぶさる幅広ストラップ(革帯)と2つの金属バックルが付いているのが特徴。
マクロン大統領の公式インスタグラム(https://www.instagram.com/p/DRZfIRBiItH/)であいさつするふたりのようすを見られますが、全身カットになったときにシルバー色の2つのバックルがキラリと光っていました。
それと私が2018年にパリを訪れたときに、観光スポットのひとつのエリゼ宮(大統領府)の前を歩いていたところ、偶然マクロン大統領にお会いできたのです。そのときの写真が今回アップしているものなのですが、ここでもダブルモンクシューズを履いていました。
もちろん、ほかのデザインのシューズを履いているのも見かけますが、黒のシンプルなデザインというくらいでストレートチップなのかプレーントウなのかといったところまでは判別できません。はっきりこのデザイン!とわかるのはダブルモンクシューズのみ。
そして靴ひもを使わないで、2つの金属のバックルの調整でフィット感を出すという機能的デザインが、彼のスーツスタイルにモダンでシャープなイメージをプラスしていたのです。
日本ではこのデザインはビジネス向きではないのでは?と不安になる方もいらっしゃるかもしれませんが、フランスの大統領が公式の場で履いているのですからご安心ください。
そのうえこのデザインを思いついたのが、英国王室出身のウインザー公(エドワード8世)という説が有力だということも考え合わせれば、由緒正しき正統派シューズと言っていいのではないでしょうか。
※結婚式やパーティーなどのフォーマルの場でも着用可能。お葬式では控えたほうがいいでしょう。
マクロン大統領の履いているダブルモンクシューズのブランドがどこなのかは公式には発表されていませんが、彼の靴のコレクションのひとつにフランスの老舗靴ブランドのジェイエムウエストンが入っているのは明らか。歴代のフランス大統領が公式の場で履く靴として既に知られているからです。
ジェイエムウエストンは、1891年に陶磁器や革や靴に関係する産業が盛んだったフランスのリモージュで、エドゥアール・ブランシャールがスタートさせ、1922年にジェイエムウエストンのパリ1号店を開店。1993年には東京に青山店がオープン。現在はフランスを代表する高級靴ブランドとして世界的に知られる存在になっています。
靴好きの方なら、フランスの靴ブランドと言えばすぐに名前が出てくる有名な高級靴ブランドですが、よくよく名前を見るとフランス的な名前ではなく、どちらかといえば英語圏で聞く名前。その理由は、エドゥアール・ブランシャールの息子がアメリカのマサチューセッツ州のウエストンという街で当時の最新の靴製造技術(グッドイヤーウェルト製法)を学んで帰ってきたことに由来しているとか。では、その前に付いているJとMは?となりますが、個人的な見解ではありますが、Jは1922年にブランド名を登記する時の共同経営者だったジャン・ヴァイアールのファーストネームからで、Mはマサチューセッツ州の頭文字ではないかと考えています。
※あくまで個人的な解釈でオフィシャルなものではありません。
さてさて、ジェイエムウエストンの靴のうんちくについては多くの方がSNSで発信しているので、私はその辺にはあまり触れずに締めくくろうかと思っていましたが、ひと言最後に「高級革靴を買いたい」「革靴デビューをしたい」とお考えの方へのアドバイスを。
革靴は、サイズ選びがとても大切。試し履きのときは、キツくても履き込んでいくうちに中底が沈み表革も伸びて(メーカーによって差がある)なじんできます。スニーカー感覚で選ぶと、後々かかとがスポスポ抜けたり、靴のなかで足が滑ることになり歩きづらくなり、疲れやすくなります。
そういったことを防ぐには、ネットで購入するのではなくショップに足を運び、ショップのスタッフの方のアドバイスに耳を傾けてから購入するのが安全。特にサイズ選びは重要、日本的なセンチ表示(25.5cmとか)が一緒でも、ブランドや木型(ラスト)によって微妙に違ってくるからです。
※同じブランドの革靴を何足か持っている方は、ネットでの購入もあり
なかでも私のイチオシは、中古革靴の専門店で、少し履き込んだユーズド(中古)の革靴を買うこと。そうすると、ある程度履いて底革もやわらかくなり、履きやすくなっているものが多いし、お値段もリーズナブル。そこで自分の革靴のサイズはこの辺だというのをわかってから、新品の高級革靴に進むのが得策だと思います。
ちなみに、私は初めてジェイエムウエストンの靴をパリのシャンゼリゼ通りのショップで買いました。もちろん、サイズ選びはスタッフの方にお任せ。当時は事前情報で、ジェイエムウエストンのフィッティングは、通称「万力締め」と呼ばれるくらいタイトなサイズを勧められると聞いていましたが、そのときはややきつめだな……徐々になじむだろうというくらいだったので、出されたサイズの革靴を購入。
後日、日本に帰って履きはじめると、夕方になると足がむくんできて痛くて歩けないほどに。靴を脱いだらもう一度履く勇気はなく、スリッパを履いて近くのショップに行きコンバースのスニーカーを購入した覚えがあります。その靴は今では、経年変化してジャストフィットのサイズになり、20年近く現役選手として活躍しています。
※革靴の履き方や選び方は、個人の好み、ブランドによってさまざまなので、一概にきつめがいいとは限りません。その人が気持ちよく履ければいいのですから!
掲載した商品はすべて税込み価格です。
Photograph & Text:Yoichi Onishi