週末の過ごし方

京都から発信する世界的に類を見ない
インディペンデントな写真フェス
【センスの因数分解】

2026.06.25

京都から発信する世界的に類を見ない<br>インディペンデントな写真フェス<br>【センスの因数分解】
仲西さんも期待している森山大道の『A RETROSPECTIVE Presented by Sigma』は、本人が「今までで一番自分の表現を理解したキュレーション」と語ったという。

“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。

今年も京都で、大変ユニークな写真の祭典が開催されます。『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭』(以下KG)は、商店街から古刹名刹、町家に歴史的建造物などを会場にして1カ月間行われるアートフェスティバル。東日本大震災を受け、海外と送受信する文化的プラットフォームの必要性を感じ生まれたという本祭は、2013年からコロナ禍も含め毎年開催を実現し、今年で14回を数えます。

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KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026
2026年4月18日(土)~5月17日(日)
※現在開催終了
問/KYOTOGRAPHIE Office 075-708-7108

ファウンダーでディレクターは、フランス人写真家のルシール・レイボーズさんと照明家の仲西祐介さん。共に京都出身者ではなく、後ろ盾もないなか、民間発端のオルタナティブなアートフェスティバルとして立ち上げました。注目度は年々高まり、本年は史上最高の来場者が予想されています。

KGは毎回ひとつのテーマを据え、それをキーワードとした多様な展覧会がラインアップされます。今年のテーマである『EDGE(エッジ)』には、なにが内包されているのでしょう?

「昨年から今年にかけて、世界やこの国で起きていることを見ていると、民主主義や資本主義でさえも行き詰まっているのではないかと感じます。また残念ながらお金や力、軍事力で再び世界を支配しようとする、中世や近代に戻るような動きも出てきています。人類が進化しているのか退化しているのかわからない状態はエッジ、つまりネガティブに言えば崖っぷちのところまで追いやられた状態とも言えます。しかしポジティブに考えると、もしかしたら行き詰まりであるからこそ、そこから何か変えられるチャンスとなるかもしれません。混沌とした時代ですが、勇気さえあればこの状況を変えられると、僕は信じているんです。エッジというテーマには、そんな意味を込めました」。仲西さんはそう言います。

崖っぷちまで行き詰まったからこそ、転じるチャンスがある、変化が生まれるはず。そういう思いのもとに展示されるのは、森山大道やアントン・コービン、リンダー・スターリングのような長年第一線で活躍していたアーティストをはじめ、昨年爆撃によって命を落としたパレスチナ人のファトマ・ハッスーナや、アパルトヘイト時代の南アフリカを命懸けで撮影したアーネスト・コール、さらにはアワードで選ばれた写真家が世界へ発信する機会ともなっています。

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パレスチナ人写真家、ファトマ・ハッスーナ作品展示には、失われた無数の命への追悼の意が。
©Fatma Hassona
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昨年、京都市美術館 別館で行われた伝説の写真家グラシエラ・イトゥルビデのエキシビション。「グラシエラ・イトゥルビデ」Presented by DIOR
©Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2025

「私たちはこのアートフェスティバルをメディアに見立てています。メディアには、社会問題の提起や権力の監視、娯楽情報の提供、そして最新の出来事を伝えるといった多岐にわたる役割があります。しかし、既存のメディアはどうしても一方通行になりがちです。発信された情報が、その先でどのように受け取られ、どのような反応を示しているかまではなかなか把握できません。しかし、このアートフェスティバルをメディアと捉えれば、世界で起きていることや撮影された写真を紹介した際、一人ひとりがどのように感じているかをその場で目にすることができます。さらにトークイベントやディスカッションといったコミュニケーションを行い、写真を見た人がどう感じたかを聞き、対話を深めることが可能となります」

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An Abundance of Plenty, 2024
© Thandiwe Muriu, Courtesy 193 Gallery
アフリカン・アーティスト・イン・レジデンスとして招聘されたケニア出身のムリウの作品(左)は、京都の老舗帯匠・誉田屋源兵衛(右)や商店街で展開。誉田屋源兵衛は、長年KYOTOGRAPHIEに会場提供している。

また京都の古刹名刹、老舗や町家に商店街など、いわゆるホワイトキューブではなく、京都ならではといった会場を建築家やデザイナーの空間演出で作品を見せていくのも、KGの大きな個性です。

「(会場は)作品のメッセージが伝わる場所を考えます。京都にはおもしろい建物がたくさんあります。ひと月も貸してくれる場所はそうないですが、常に新しい会場を探しています。京都の町に暮らし、自転車で巡っていると、この建物がいいのではないかとイメージが浮かぶのです。そのイメージを建築家やインテリアデザイナーに話し、空間作りを詰めていきます。

京都は伝統的で保守的な場所だと思われがちですが、その半面革新的な側面もあります。KGは伝統と革新、メインストリームとアンダーグラウンド、グローバルとローカルなど、相反するものを掛け合わせることで新しい表現を作ってきましたが、(京都は)そういう土壌を実は持っているんですね。ですから京都にこういう写真のフェスが生まれたのは必然かもしれません」

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東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故を発端にした誕生から、パンデミックそして2025年まで、世界的に類をみないインディペンデントな国際写真展の歩みが綴られている。
『KYOTOGRAPHIE:京都物語︱十二支』8800円、青幻舎

アートの祭典は一般的に、2年に一度のビエンナーレや3年に一度のトリエンナーレというスタイルで開催されることがほとんどです。これは、国際的な芸術祭には膨大な準備期間を必要とするからというのも理由のひとつです。一方、KGは成り立ちが行政や企業を主体とし官民一体となった委員会スタイルではなく、インディペンデントな二人の発想を起因としています。ゆえに毎年開催することで運営が成り立っています。十数の展覧会が1カ月行われる規模を、現在は多くのボランティアスタッフや、外資系を含めた企業、そして自治体がサポートし、実現しています。

「これからも常に社会の問題を提起し、一人ひとりがその問題について自身で考え、より良いコミュニティーを形成していけるよう接点を作っていきたいと考えています。私たちのような民間のアートフェスティバルが重要な役割を担えると信じています」

「アエラスタイルマガジンVOL.60 SPRING/SUMMER 2026」より転載

Special Thanks:Demba Tshering

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