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国立新美術館「ピカソmeets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」展で
ピカソとボーダーTシャツの関係を深掘り
ファッショントレンドスナップ 228
2026.09.17
世界中の人が観光で訪れる人気の高い都市には、必ず訪れたい!と思わせる魅力的な美術館が存在しています。もっとも有名で人気の高い世界三大美術館を個人的に挙げると、パリのルーブル美術館、ニューヨークのメトロポリタン美術館、ロンドンのナショナル・ギャラリーではないでしょうか。
※サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館をナショナル・ギャラリーの代わりに入れる方もいますが、ロシアの現状を反映し人気は下がり気味
この三強に肩を並べるには、歴史も収蔵数も少ないのですが、東京にも海外からの旅行者から日本に住む人まで人気が爆上がりしている美術館があります。それが、六本木にある国立新美術館です。
世界三大美術館は、古いヨーロッパの建物様式(一部近代的に改装)の建物ですが、国立新美術館は日本を代表する建築家の黒川紀章が設計した巨大なガラスのカーテンウォールが特徴のモダンな建築。森のなかの美術館とも呼ばれるくらい緑が豊かなのも、ほかの美術館とはひと味違っています。
2026年9月21日(月・祝)までは、「ピカソmeets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」展が開催されていてインバウンド旅行者からも高評価を得ています。
※9月9日(水)~12月6日(日)は「ルーブル美術館展 ルネッサンス」展が開催されます。なんとレオナルド・ダビンチの<女性の肖像>が初来日!
「ピカソmeets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」展のすごいところは、約80点をゆるやかな時系列で並べ、初心者にもわかりやすく構成・解説されていることと、その展示方法(アートディレクション)を英国のファッションデザイナーのポール・スミスが監修したこと。
通常の美術展の展示方法は、シンプルで絵画やアートを邪魔しないモノトーンやヨーロッパの伝統的な壁の色合いを使うことが多いのですが、この展覧会ではポール・スミスの遊び心にあふれた壁の配色とユニークな展示方法が次々と現れます。
なかでも、私がいちばん感動したのが、天井がボーダーTシャツだらけになっていて、ピカソの作品が2点ポツンと展示されている一室。そこには、ピカソの巨大なポートレート写真も展示されていて、ピカソの作品よりもこの写真が、この部屋では主役に見えるようなディレクションがされています。
その写真は、フランスの写真家ロベール・ドアノーの<ピカソのパン>と呼ばれているもので、ボーダーTシャツを着たピカソが食卓に座り、テーブルの上には彼の手と見間違うようなパンが置かれているというポートレート。撮影は1952年9月の朝で当時ピカソが暮らしていた、地中海に近い南フランスの小さな村ヴァロリス。
この写真が雑誌に掲載されると、またたく間にピカソの代表的イメージとして世界に浸透。そのおかげで、それまで漁師の作業着、海軍の制服、海辺のカジュアルウエアとしてフランスの人々に親しまれていたボーダーTシャツが、芸術家のユニフォーム、ファッションアイテムに昇格するきっかけのひとつになりました。
※1950年代には女優のオードリー・ヘプバーンやブリジット・バルドーがボーダーTシャツを着ている姿が雑誌などで取り上げられ、世界中の女性の間で大ブームに
今回は、国立新美術館で見た写真家ロベール・ドアノーの<ピカソのパン>でピカソが着ていたボーダーTシャツのインパクトが強かったので、ここを深く掘っていきたいと思います。
ネットで調べると、あのボーダーTシャツ(バスクシャツ、フレンチボーダーシャツ、ブルトン マリーヌなどと表記されることも)は、フランスのセントジェームス、ルミノアではないかと書かれていることもありますが、確証はありません。
※2社の現在購入できるものとピカソが着ているものを比べると、ネックのカーブとボーダーのいちばん上の位置が若干違う。昔は作っていたのかもしれませんが、そこまでは調べきれませんでした
そこで私は、現在購入できるものであの雰囲気に近いものはないだろうかと探して見つけたのが、フランスのブルターニュ地方で今も昔ながらの製法でボーダーTシャツを作っているカネルの<ボナパルト>というモデルと日本のオーベルジュの<ピカソ>というモデル。
今回は、メイド イン フランスで2万円以下で購入できる(オーベルジュのピカソは高級なシーアイランドコットンを使っているので2倍以上の価格になる)カネルのボナパルトをピックアップして解説していきたいと思います。
カネルの<ボナパルト>の特徴は、まずネック部分の丸いカッティング。クラシックなボーダーTシャツはここがボートネックと呼ばれる、横に広く開いた三日月型になっているのです。そのため男性が着ると少し肌見せ感が強く、違和感を覚える人が一定数いるのも事実。
ロベール・ドアノーの<ピカソのパン>のボーダーTシャツは、ボートネックにはなっていないのです。どちらかというと、普通のTシャツに近いラウンドネック(丸首)なのです。個人的には、ここはかなり重要。
もうひとつは、肩と袖の付け根、袖口、裾にはボーダーが入ってなくて、無地になっているところ。パネル ボーダーと呼ばれている製法で、古いボーダーTシャツはこの製法で作られることが多かったようです。
ちなみに、ピカソは1952年のロベール・ドアノーの撮影の前からボーダーTシャツを作業着(部屋着)として愛用していたようで、1944年に写真家ロバート・キャパが、パリのアトリエでセーターの下に着ているポートレート(最後の書籍画像の左上にそのポートレートがカバーに使われている本があります)を撮影しています。
こちらは、使い込んで伸びたのかと思わせる、ゆるいネックのものを着ています。これはフランス海軍のもの(放出品?)ではないかと勝手に妄想しています。
※エビデンスはありません。あくまで筆者の想像に過ぎませんので、あしからず
かなり、マニアックな部分ではあるのですが、カネルは肩の作り方が独特で、前身と後身が斜めに折り返され、重ね合わせて編み合い(リンキング)されているのです。ここも、ピカソが着ているボーダーTシャツにも見られるデザイン。
※全く同じデザインではありません
こうした作りになっているのは、昔のボーダーTシャツは漁師の作業着として生まれ、フランス海軍に納品されるまでになりましたが、共通するのはワークウエアであるという基本スタンスを守りつづけているから。大量に安く作らなければならないことと、それでいて丈夫で体の動きを邪魔しないデザイン(パターン)になっていることが求められるのですが、それらを全てクリアして生み出されたのが、この肩のデザインであり独特のニット生地だったのです。
詳しいことはカネルを輸入している会社MJQのホームページをのぞいて見てください!
https://anchor.tokyo.jp/blog/
最後にピカソを知るための参考文献・映画を解説。今回の国立新美術館の展示だけではわからない、ピカソとボーダーTシャツの関係がより理解できるはずです。右上から時計回りに。
<ルートヴィッツ美術館コレクション ピカソ展 カタログ> このカタログには晩年のピカソに数年間密着撮影を許されたロベルト・オテロの写真(モノクロとカラー)が30点掲載されているところがポイント。巨匠の晩年の生活の一部が垣間見えます。表紙はボーダーのニットを着たピカソ。
<映画 サバイビング ピカソ レーザーディスク版> ピカソとの子どもを二人産んだフランソワーズ・ジローとピカソが出会って別れるまでに巻き起こるさまざまな事件と、その間にピカソがどのようにして作品を作り上げていたかわかる1996年の映画。二人が出合った時、彼女は21歳、ピカソは61歳だったという事実は衝撃! ピカソを演じたのは、映画『羊たちの沈黙』や『ハンニバル』での怪演が有名な俳優アンソニー・ホプキンス。ピカソの私生活は波瀾万丈で、口が悪く付き合いづらい男性で、60歳を超えても次々に女性と浮名を流す好色芸術家だったことがわかる貴重な作品。南フランスで陶芸を始めたピカソが、ボーダーTシャツ姿で一瞬登場。
<芸術家たちの肖像 ロベール・ドアノー写真集 岩波書店> 国立新美術館の一室に展示されていたピカソのポートレート『ピカソのパン』もこの中に。このほかに6点の背景の違う場所でボーダーTシャツを着た写真が掲載。
<パブロ・ピカソ 1881-1973 タッシェン・ジャパン> 700ページを超えるピカソの作品集。ネットでは断片的な取り上げ方になりがちなピカソの作品を、ふかんできる一冊。作品数の膨大さは、同時代を生きたほかの芸術家のなかでダントツ。その総数は約15万点とも言われることを考えると、この作品集に掲載されたものはほんの一部。カバーに使われているポートレートは、1957年にアメリカの写真家アーヴィング・ペンがカンヌを訪れ撮影。
<ピカソ 偽りの伝説 上巻 下巻 草思社> ギリシャ生まれのジャーナリスト、アリアーナ・S・ハフィントンが、1982年ごろから約5年かけて取材調査をしてまとめたピカソの自伝。ピカソと7年間同棲したランソワーズ・ジロー(別れた後ピカソの暴露本を執筆)やピカソの娘の一人、マヤ・ピカソ、20年以上ピカソのメイドとして家事を切り回したイネス・サシエなどに直接インタビューして、過去には書かれていない真実をちりばめてまとめあげた力作。上巻のカバーは、写真家ロバート・キャパが、1944年にパリで撮影。下巻のカバーは、写真家ダン・ブニックの作品で、ロベール・ドアノーが撮影した『ピカソのパン』の額装と指に似たパンがコラージュされています。
Photograph & Text:Yoichi Onishi
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