お酒
クラフトビールと映画。【第7回】
『ビッグ・フィッシュ』に合う一杯は?
2026.10.21
雑味のないスッキリとした軽いボディなのに、メロンやトロピカルフルーツのようなホップのアロマがどしどしやってくる。シャープな苦味が非常にいい役割をしていて、ラベルに描かれたメリーゴーランドのように、何度でも味わいたくなるような爽快感がクセになる。「NEO UNIVERSE」は、温度変化を楽しむまえに飲み干してしまったくらいだ。
このビールにペアリングした映画は、テンポよく進む爽快なコメディ、カラフルでポップなファンタジー。そして何度も観たくなるような感動映画……、といえばティム・バートン監督の『ビッグ・フィッシュ』。変わり者をいとおしい者に、不気味なものをかわいいものに、悲しい話にはユーモアとファンタジーを、ティム・バートンが描く物語は、ビールと相性がいいに決まっている。
結婚を控えたティムは、いつでもどこでも誰にでも自身の人生を誇張して語る父の昔話に、飽き飽きしていた。巨大な魚を釣った話や、夢みたいに美しい「スペクター」という街の話、死に際が見える魔女の話、大きな巨人と出会った話、サーカスで出会った女性に恋をし入団した話など、まるでおとぎ話だ。
父との間に大きな溝ができてしまったまま長い時間がたったある日、父の病状が悪化し、ティムは妻とともに実家に戻ることに。病に倒れてもなおおとぎ話をし続ける父に、「本当の父を知りたい」と話すも、父は自分の話に嘘なんてひとつもないと言い張る。やがてティムは、おとぎ話に隠されたある“真実”を知ることに……。
親と子というものは、実に不思議な関係だ。近すぎず、遠からず、でも間違いなく根本に計り知れない愛がある。ティムは父の「本音が知りたい」「正面から向き合いたい」と願い、父は息子に「悲しい話はしたくない」「弱い自分は見せたくない」と思い、そこですれ違いが起きてしまったのだ。
物語は、父の過去話と現在を交差しながら進んでいくが、過去は鮮やかなコントラスト、現在は脚色のない現実的な色をしている。だんだんと父を理解していく過程で、過去と現在のカラーバランスが融合していくような演出をしているのには、感動せざるを得ない。
本作はもっともティム・バートンらしくない映画ともいわれるが、もしかしたら、もっともティム・バートンが素直に人生と向き合った映画なのかもしれない。人生と向き合うということは、大げさで少し照れくさいことだけれど、ビールの力でも借りながら、映画でも観ながら、ふと考えてみる夜があってもいいではないか。
鮎川ジュン(あゆかわ・じゅん)
アエラスタイルマガジンwebの人気企画『いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは?』の選者・執筆者。音楽家、DJ、イベントオーガナイザーなど幅広い顔を持ち、ソーシャルイシューギャラリー「SIGNAL」ではバー部門を担当。多種多様なクラフトビールを取り扱う。
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Text:Jun Ayukawa