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『アドレセンス』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #95

2025.04.10

『アドレセンス』<br>いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #95

少女殺害容疑で逮捕されたのは、まだ幼さの残るわずか13歳の少年だった――。

衝撃作とはまさにこのこと、配信後まもなくNetflix視聴者数ランキングに登場し、批評家からは絶賛の嵐。数字を揺るがすようなハリウッド俳優が出演しているわけでも、大々的なプロモーションを行っているわけでもない本作が、なぜこれほどまでにヒットしているのだろうか?

早朝、警察は武装部隊を率いて、ドアを押し破りミラー家に突入した。状況がつかめず「何かの間違いでは?」と慌てふためく父親、動転して泣き叫ぶ母親、涙を流しおびえる娘、容赦なく押し入る警察部隊の目的は、13歳の息子ジェイミーを逮捕するためだった。

警察官の手には殺人容疑の逮捕状、家は証拠品探しのため隅々まで荒らされ、権利を読み上げられ、言われるがままに連行された。「なにも悪いことはしていない!」そう話すジェイミーの言葉は、果たして真実なのか――?

6時15分に逮捕され、署に連行され、身体検査を行い、715分に取り調べを終えるまで、160分がなんとワンカットで撮影されている。ep.2では翌日の学校での聞き取り調査、ep.3では臨床心理士との面談の様子、ep.4では逮捕後のジェイミーの家族の様子が描かれ、こちらも各話ワンカットで構成されている。

撮影が困難なことは容易に想像がつくが、状況説明もないまま進むため、事態を把握しようともできず、ジェイミー家族とまったく同じ感情と時間軸でこちら側も見届けることとなり、臨場感がとてつもない。しかも、主演ジェイミー役を演じたオーウェン・クーパーは、演技経験はなく、このドラマが初出演というのだから驚きを隠せない。

ep.2では、学校での聞き込みの最中、ある人物が学校から逃走するシーンがあるが、これからのくだりには感動せざるを得ない。逃走シーンがいち段落したところで、だんだんカメラは空へと向かい、ゆっくりといくつかの住宅地を経て、殺害現場へと向かう。

息つく間もなく過ぎていった時間がゆっくりと流れはじめ、理解が追いつかないことに強い憤りを感じる。「なぜこんなことが起こってしまったんだ?」「子どもたちはいったいどんな世界で生きている?」。それらの疑問は、ep.3で少しずつ解き明かされていくこととなる……。

ジェイミーは、世間が同情するような劣悪な家庭環境にいるわけでもなく、事件後の対応を見ていても、両親は親としての責任を十分に果たしている。なのになぜ、クラスメイトを殺害しようという思考になってしまったのだろうか?

『アドレセンス』は、子どもたちがインターネット上で何を見て、どんな影響を受けているかを、親がコントロールすることはもはやできないということを示唆している。たとえば、本編で頻繁に出てくる“インセル”について、親世代はそんな言葉すら知らなかった。

インセルとは、恋愛や性的な関係を持てないことに不満を抱くストレートの男性を指す言葉で、そしてそれは自分たちを選ばない女性たちに原因があると考えている。近年米国やカナダを中心に一部過激なコミュニティーがネット上で形成され、それに影響された若者たちが女性や社会に対して敵意を持ち、無差別殺人事件に発展するというケースがあり、問題視されている。

子を持つ親にとっては、見るのがとてもつらい作品だろう。しかし、こういった影響を受ける可能性はいつでもあり、変化を見逃さぬように、どんなことに興味があるかなど常に対話する必要があるのかもしれない。それは子どもに限らず、成人してもなお起こり得ることだろう。大切な人を守るためにも、自分を守るためにも、現代社会が抱える社会問題と、向き合っていかなければならない。

美しすぎるワンカット撮影の臨場感を、デビュー作品にして見事な演技力を魅せつけたオーウェン・クーパーの怪演をぜひ! 『アドレセンス』はNetflixにて全4話、配信中。

<<過去の「いま観るべき、おしゃれな海外ドラマ」はこちら

Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo

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