週末の過ごし方

世界のベストレストランを通して見る
社会問題や多様性の変化とは。

2025.07.09

世界のベストレストランを通して見る<br>社会問題や多様性の変化とは。

去る、619日、イタリアのトリノで「世界のベストレストラン50」のアワードが開催された。トリノはミラノに次ぐ、イタリア第二の工業都市。サヴォイ公国の豊かな遺産が残る美しい街である。そこにあるコンベンションセンター「リンゴット・フィエラ」が会場となった。フィアット社の元工場を、イタリアを代表する建築家、レンゾ・ピアノが改築したものだ。アワードの前後のパーティでは、サンペレグリノ&パンナをメインスポンサーに、世界でも有数の食の企業がブースを出し、華やかな雰囲気を盛り上げる。なかでも日本が誇る銘酒「獺祭」も国際スポンサーとして、すっかり定着しているのがうれしい。日本チームの受賞シェフが集まり、鏡開きを行うなど、そのにぎやかな演出に一堂が沸いた。

1位に輝いたのは、なんと、ペルーのリマにある「Maido」。昨年の2位だったバスクの「エチェバリ」が1位という大方の予想を覆しての、昨年の5位からの大金星だった。「マイド」とは、ペルー料理のなかでも日系料理をルーツに持つ、イノベーティヴレストラン。そのわかりやすいおいしさが多くの人を引きつけたのであろう。シェフのツムラ・ミツハル氏は、「私たちの夢は賞を取ることではなく、皆を幸せにすること」と喜びを語った。それにしても中南米、なかでもペルーの勢いの良さは変わらないといったところか。2年前にペルーの「セントラル」が1位となり、殿堂入りしたばかりだ。

果たして日本勢は7位の「セザン」ダニエル・カルバートシェフを筆頭に、堂々の4店舗がランクイン。これは、美食の国としても、誇れる結果だ。セザンは昨年より8ポイント上げての入賞で、これは、過去日本のなかでの最高位となる。残念ながら、6位のタイの「ガガン」に一歩及ばず、ベストアジア賞は逃したが。そして21位に「NARISAWA」の成澤由浩シェフ。昨年56位と圏外からの返り咲きはなんともうれしい。長年ベスト50を守り抜いている数少ない名店である。続いて「フロリレージュ」川手寛康シェフの36位。5年連続50位以内にランクインと、すっかり世界のフロリレージュの安定感を見せつけている。続いて「ラ・シーム」高田裕介シェフの44位。昨年の66位からランクインしたのはなんとも喜ばしい。大阪というハンディをはねのけての、ワールドワイドな認められ方は賞賛に値する。玄人好みのシェフの票が集まったとも予想される。

50位から100位の間では、日本料理「傳」が53位。中国料理「茶禅華」が71 位にランクイン。 そしてもう一人、海外で活躍する「チスパ」の前田哲郎シェフが85位に初ランクイン。前田シェフは、先述のエチェバリで修業後、一昨年独立。同じく薪焼きを主とするアサドールを立ち上げたのである。今後に期待だ。

また、特別賞にはさまざまな賞が用意されている。ベスト女性シェフ賞、ベストソムリエ賞、ベストペストリーシェフ賞、シェフが選ぶシェフ賞、サステナブル賞、アイコン賞(功労賞)、ハイエストクライマー賞(初のランクインで一番上位に入賞した店)などなど。残念ながら、日本勢はどれも届かなかったが、世界のガストロノミーの動きをつかむためにはどれも重要だ。例えば、アイコン賞では、日本でも人気の高い、マッシモ・ボットゥーラシェフが受賞。氏は路上生活者への無料レストランなど、社会的活動にも熱心に取り組んでいることで知られる。ベスト女性シェフ賞は、タイの「ポトン」のピチャヤ・“バヌ”・スントゥルニャキージシェフ。ベスト50が始まって約20年の間には社会的価値観も変わり、いまでは、女性シェフ賞は逆差別ではないかとの意見もあるそうだ。が、日本も含め、多くのアジアの国々など、まだまだ女性がシェフとして働く立場が整っていない国々も多く、そうした人々にとっては大きな励みとなっている。

昨今の「世界のベストレストラン50」の動きを見ていると、単にガストロノミーの潮流を表しているだけでなく、食を通した社会問題、環境問題、多様性など、さまざまな視点を持っていることがよくわかる。そのうえで、ガストロノミーツーリズムに一役も二役も買っているのだ。

あなたへのおすすめ

トレンド記事

  1. 折りたたみ自転車が新たな境地に!<br> 「Brompton G Line」という革命。

    折りたたみ自転車が新たな境地に!
    「Brompton G Line」という革命。

    週末の過ごし方

    2025.12.01

  2. 西新橋「栄雅」の熱々餃子でエネルギーチャージ<br> 年末も走りつづけるマッチから目が離せない!<br> マッチと町中華。【第29回】

    西新橋「栄雅」の熱々餃子でエネルギーチャージ
    年末も走りつづけるマッチから目が離せない!
    マッチと町中華。【第29回】

    週末の過ごし方

    2025.11.28

  3. “クラフトビール沼”へようこそ!【第6回】<br>通もにやける、いま飲むべき1本を紹介。<br>「NOMCRAFT Brewing/NOMCRAFT IPA」

    “クラフトビール沼”へようこそ!【第6回】
    通もにやける、いま飲むべき1本を紹介。
    「NOMCRAFT Brewing/NOMCRAFT IPA」

    お酒

    2025.11.27

  4. 上白石萌歌、加賀の「時間旅行」へ。<br>界 加賀で、北大路魯山人の〝粋〟に触れる[前編]

    上白石萌歌、加賀の「時間旅行」へ。
    界 加賀で、北大路魯山人の〝粋〟に触れる[前編]

    特別インタビュー

    2025.11.26

  5. グランスタ東京で働く614人が本音で選んだ!<br>東京駅限定“推し弁当”ランキング10<br>【第1位】牛たん弁当柚子胡椒味

    グランスタ東京で働く614人が本音で選んだ!
    東京駅限定“推し弁当”ランキング10
    【第1位】牛たん弁当柚子胡椒味

    週末の過ごし方

    2025.11.12

紳士の雑学