腕時計
ローマとブルガリ、美しさの方程式
HISTORY makes ROME,ROME makes BVLGARI.
2017.06.24

ブルガリの腕時計には、ひと目見てそれとわかるデザインコードがある。計算しつくされた、構築的な美しさ。それはまさに、ブルガリが生まれたローマの建築から感じる逞(たくま)しさと通じている。
ローマを訪れるということは、時の迷宮に踏み入ることと同義なのかもしれない。かつての帝国の中心フォロ・ロマーノや5万人のローマ市民が押し寄せたコロッセオはじめ、いまも残る古代遺跡や建造物は地層のように堆積(たいせき)した歴史を露(あら)わにし、見る者を圧倒する。
迷い込んだのは巨匠フェリーニも例外ではない。映画『フェリーニのローマ』では、連綿と連なる歴史の重みと渾沌(こんとん)に向き合い、ローマに上った青年期の自分を通して描いたのだった。


劇中では地下鉄の掘削(くっさく)現場から古代の大浴場が現れる。ローマの地下に眠る壮大な遺跡。まるで地上に残る建造物も氷山の一角に過ぎないかのようだ。だがそこに描かれた美しい壁画は長い時の眠りから覚め、現代の喧騒(けんそう)に触れた瞬間、儚(はかな)い夢のように消えていく。それでも悲観することはない。美や芸術を希求する文化や精神はそれこそ空気となってローマ全体を包み込んでいるからだ。だからこそ永遠の都なのである。
そんな悠久の時を刻みつづけるローマに生まれ、その歴史とともに歩み、独自の文化を培ってきたブランドがブルガリである。
ローマのヘリテージが生んだ男の八角形
スペイン階段から続くコンドッティ通りにたたずむブルガリ本店は、創業130年周年を機に改装され、門構えは歴史ある周囲の景観にも自然に溶け込んでいる。
創始者ソティリオ・ブルガリは1857年にギリシャで銀細工を営む家に生まれ、腕を磨いた。だが1881年、戦禍に巻き込まれた故郷を逃れ、ローマへ。当時イタリア王国の首都として栄えていたローマでソティリオが目にしたのは、祖国ギリシャから伝わった建築様式や芸術を取り入れ、独自に熟成進化させた絢爛(けんらん)たる文化だった。同じようにローマに渡った自らの姿をそこに重ね合わせたのかもしれない。そんなインスピレーションによってソティリオの創作と才能は一気に開花した。そして1884年に自らの店を開き、ブルガリは誕生したのだ。
ブルガリは世界屈指のハイジュエラーであることから、レディースブランドのイメージが強いかもしれない。だが手がけるアイテムは多岐にわたり、なかでも時計は自社でデザインから設計開発、製造までを担うマニュファクチュール体制を構築する。そこから誕生する時計は、時計専業メーカーさえも凌(しの)ぐコンプリケーションや、本格機能を備えたスポーツウオッチであり、多くの男性を虜(とりこ)にしている。そしてブランドのメンズウオッチのアイコンとして高く支持されているのがオクトである。
モデル名にもなっているオクタゴン(八角形)をモチーフにしたデザインはひと目でそれとわかる個性を放つ。もちろんブランドのクリエイティビティーの例にたがわず、これもローマのヘリテージから着想を得ている。
フォロ・ロマーノにあるマクセンティウスのバシリカは4世紀初めに建造された公会堂で、完成時は高さ100m ×幅65m の威容を誇った。後の大地震で倒壊したものの、40m もの巨大な3連アーチは残り、その内側の壁面に施された八角形の多層模様がオクトへと受け継がれたのだ。
さらにオクタゴンのモチーフは、バチカン宮殿のすぐ近くに立つパラッツォ・デッラ・ローヴェレにも見ることができる。ペニテンツィエリ宮としても知られ、15世紀に建造された建物の内装には63のオクタゴンからなる精細なフレスコ画が描かれている。


マンダラのように広がる神話の世界には半神が登場する。神と人間の姿を併せ持つ半神は、異界と現実とを結ぶ存在であり、それはオクトに秘められた象徴性に通じるのかもしれない。
中世ヨーロッパの錬金術師たちは、四角と丸のコンビネーションを“完璧の表現”であり、“天と地の関係の表現”と捉えた。そして四角は地上であり人間を、丸は天空であり神を具現化するという考え方に基づき、ふたつの形には関連性があると結論づけたのだった。それはまさに半神という存在であり、四角と丸の融合であるオクタゴンに描かれることで完璧な調和となったのである。それがオクトの美しき寓意(ぐうい)なのだ。
2012年に登場したオクトは、このわずか5年で大いなる進化を遂げた。カテゴリーはマッシブかつコンテンポラリーなオクト、マニュファクチュールの粋を結集した複雑技術のフィニッシモ、新たに加わったよりドレッシーでシンプルなオクト・ローマという3つで構成されている。
スタイルも技術もさらに独自の進化を続ける
こうした魅力の幅を広げると同時に、技術開発でも挑戦を続け、2014年に世界最薄のトゥールビヨン、昨年は世界最薄のミニッツリピーターを発表し、洗練された薄型と複雑機構の融合において二大世界記録を誇る。それに続き、今年は世界最薄の自動巻きムーブメント搭載モデルを発表した。
それは古代の記憶を刻んだ街に、時空を超えた現代の日常が共存するローマのように、伝統を受け継ぎつつ、常に進化を続ける。いわば過去ではなく、現在であり、未来だ。つまりオクトを腕につけることは、ローマの永遠性をまとうことと同義なのである。

ブルガリ「オクト フィニッシモ オートマティック」。極限まで薄さを追求したムーブメントの開発をはじめ、ケーシング技術、さらに精度や耐久性といった実用性までも併せ持つ薄型はまさにマニュファクチュール技術の結晶といえる。新開発の自動巻きムーブメントは世界最薄2.23㎜に、ケース厚も最薄の5.15㎜に抑えた。ブレスレットも薄さを極めた専用設計だ。ケース直径40㎜
¥1,550,000(※1)
問/ブルガリ ジャパン 03-6362-0100
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Photograph: Fumito Shibasaki(DONNA) ※1、Hiroyuki Suzuki ※2
Text: Mitsuru Shibata