旅と暮らし
暮らしに添う、滋賀のモノづくり。その3
2017.10.17
丁寧なモノづくりを体感できる、生活になじむシャツ。
彦根城の城下町から少しはずれた静かな一角。ここで、いくつものこだわりとの手作業を重ね作られる「COMMUNE(コミューン)」のシャツには、店主・久米勝智さんの「生活になじむ、毎日のためのシャツをつくりたい」という思いが込められている。その作業工程は驚くほど緻密(ちみつ)だ。
滋賀県内をはじめとする全国の生地工場に自ら出向き、伝統的な織機で丁寧に織られた綿(コットン)や麻(リネン)を仕入れると、長く着ることを考え、ミリ単位のズレに気をつけながら、一枚ずつ手作業で裁断していく。さらに、現代の縫製工場では何人かの流れ作業で一枚のシャツを縫う大量生産が主流のなか、コミューンでは、一人が一枚のシャツを縫い上げる「丸縫い」が基本。非効率ではあるが、作り手が全体をイメージしながら作業を積み重ねることで、着心地のいい一枚に仕上げることができるのだという。最後に、一つずつ手で穴をあけ、ボタンを付ける。シンプルで削ぎ落とされているように見えるからこそ、縫い目や切り替えなど細部にまでこだわり、丁寧な作業と技術に裏打ちされたコミューンのシャツ。
「でも、こんなふうにモノづくりができるのはここだから」と久米さんは言う。学生時代は東京の服飾専門学校に通い、県外で働いた経験もあるが、「生産者、つくり手、お客さま。シャツに関わるすべての人が対等に交われるような関係でありたい」という考えから選んだ場所が、地元の彦根だった。「たとえ無意識であっても、モノづくりには環境が影響する。どこでモノづくりをしたいかは、どこで暮らしたいかということ」。コミューンのシャツが暮らしになじむ理由は、久米さんのこの思いに集約されている。
つくることは、生きること。モノづくりは、生きていくための知恵でもある。だからこそ、豊かな水源と里山の中で暮らしを営む人々の手から、ゆったりと流れる時間まで見えるような、ささやかで丁寧なモノづくりが生まれ、根付いていくのだろう。
Photograph:Ayumi Yamamoto
Text:Asako Saimura