旅と暮らし
銀座で和食、しかもリーズナブルというハードルをクリアする
『銀座しまだ』
状況別、相手の心をつかむサクセスレストラン Vol.01
2017.11.09
和食で接待というと腰が引ける人は多いのではないだろうか。場所は何かと便利だし、やっぱり喜ばれるからと銀座を指定。にもかかわらず「予算は1人あたり1万円は超えるな」と、ほとんど不可能ともいえる上司命令に頭を悩ませているアナタに、奥の手、いや裏技を教えましょう。
一流割烹も顔負けの味を立ち飲み値段で
麻布の「幸村」など、超一流割烹で腕を磨いた精鋭ながら、立ち飲みという画期的なスタイルで一世を風靡した『銀座しまだ』をご存じだろうか。現在は2代目の若き主人・佐々木晃太さんが切り盛りしている。肩ひじ張らない気楽なシステムは変わらず、メニューは島田料理長時代の定番を引き継ぎながら、旬の味覚を軽やかに取り入れ、ますます好調である。実は、コンパクトな店内には、4人がけの椅子席があり、3人以上なら事前に予約が取れるのだ。文句なしに安くて旨い肴(さかな)と酒が、リーズナブルな立ち飲値段でゆっくり楽しめるのだから、これは願ってもない店である。
胃袋も心もつかむ必殺メニューがずらり
メニューは黒板に今日のおすすめがずらりと並ぶ。コースは特に設けておらず、食べたいものを食べたいように選ぶ、本来の割烹のシステムだ。天然シマアジ刺身、トコブシの唐揚げ、丹波地鶏の秋小鍋、いちじくと鴨ロース……、黒板を読めば、日本人なら端から食べたくなる料理ばかりだ。「気になるものどんどん頼んでください」と、心おきなく言えるのがいい。
今回紹介するのは、最も人気のある定番の品々。驚くほどずわい蟹がたっぷり入った「ずわい蟹のクリームコロッケ」。熱々を口に入れれば、リッチなクリームがとろけ出す。「雲丹の伊勢海老ジュレがけ」は生の伊勢海老を殻ごとつぶして炒めて煮込んだだしをジュレにし、うにをたっぷりのせて卵黄のソースを添えた濃厚な前菜。つい、もうひと口とあとを引く。もう1品の「からすみそば」は、岐阜のそば店に打ってもらっている風味豊かなそばに、台湾産のからすみをすりおろし、そばが見えないほどたっぷり振りかけた贅沢な逸品だ。「奇をてらわずに旬のものをストレートに楽しんでもらいたいですね」と言う料理長の佐々木晃太さん。しみじみと胃の腑に染みる、季節の味を存分に楽しみたい。
お酒にうるさい得意先も喜ぶ“すすめ方”
『銀座しまだ』の料理はどれも酒が進む。有名どころの蔵元もそろうが、季節の日本酒をスポットで置いているのが魅力だ。いまの時期であればおすすめは「秋あがり」。これは新酒を秋まで寝かせて熟成させ、旨みが増した日本酒のこと。迷わず店のスタッフに「季節のお酒、ありましたよね? 何がおすすめですか」と聞けばいい。知識がなくても、わかっていると思われるのだからしめたものだ。
カニコロッケなどは、ワインで楽しみたいところだか、これまたチョイスが悩ましい。そんなときの切り札が「深川ワイナリー」。実はこれ、名前のとおりに東京深川にあるワイナリーの品だ。昨今、国産ワインのクオリティーが上がっていることはよく知られるところだが、東京に醸造所があることは、ワイン通でもなかなか知らない。会話のきっかけにももってこいだ。「東京にワイナリーがあることご存じですか? ちょっと飲んでみますか?」と切り出せばいいわけだから、ワインの知識いらず、というわけだ。
このように、『銀座しまだ』は、和食初級者でも接待に使いやすいポイント多数の名店といえる。しかしながら、基本は立ち飲みの割烹なので、かなりにぎやかであることは間違いない。であるからして、フォーマルをよしとする接待の席にはやはり向かない。けれど、なかなか距離を縮めることができずに困っている得意先には、願ってもいないスペース。そして会計は、ほどほどに飲んで1人5~6,000円。上司に褒められること間違いなしだ。
掲載したメニューはすべて税抜き価格です。
Photograph:Makiko Doi