特別インタビュー
マスターピース、男をつくるもの。
[男の服飾モノ語り]
2017.11.17
『フランス人は10着しか服を持たない』『服を買うなら、捨てなさい』といった書籍が売れている。いずれも、ファッションに興味のある女性に向けて書かれたものだが、無駄なものを買わず、賢いおしゃれを目指す意志が感じられて潔い。
男性のファションであれば、なおのこと。トークイベントなどでビジネスマンに向けて話す機会があるごとに、「男性が一生のうちに必要なアイテムは、それほど多くない」と、私自身も申し上げている。
スーツ、シャツ、ネクタイ、ストレートチップ、ネイビーのブレザー、クルーネックのニット、デニムパンツ、白いスニーカーなどなど。ひとつ、またひとつとそろえていくこういったマストアイテムを「ワードローブ」と呼ぶことは、若いころ読んだファッション雑誌から学んだことだ。
それでも、ずいぶんと無駄なものを買ってきたような気がする。「一生もの」とすすめられても一生使えなかったり、「定番」と思って購入したら新定番に出合ったり、そんなことが何度あったことか。定番といわれるアイテムほど、微妙なシルエットの変化で古臭く感じられるものだ。もちろん、体形の変化の問題もある。
いまになってようやく、手に入れてよかったものとそうでないものの線引きができるようになってきた。もしそれが一生ずっと使えなかったとしても、買ってよかったと思えるものはいくつもあるものだ。
例えば、それを手に入れることで自分の着こなしを変えてくれたエポックメイキングなアイテム。モノづくりの背景にあるストーリーに共感できたアイテム。身に着けることで、気分が上がったり立ち居振る舞いが正されたりするアイテムなど。これらは、買ってよかったと思えるものたちである。
11月24日に発売するアエラスタイルマガジン冬号では、特集として「Masterpieces for Men~男をつくるもの」という特集を掲載している。時節柄、ボーナスが出たら自分で購入するもよし。あるいは、クリスマスのプレゼントの候補にするもよし。掲載したものから、いくつかを紹介していこう。
まずは、エルメスのブリーフケース「サック・ア・デペッシュ」(写真1)。完成されたデザインに、上質を極めたレザーは、最高峰の逸品といっても過言ではない。携えれば気持ちが高揚するものとは、まさにこういったアイテムを指すのだ。
カルティエの「タンク」は、誕生してから今年で100周年を迎えた。腕時計のフェイスは丸いものであるという既成概念を覆し、文字どおり歴史を刻んできたマスターピースである。「タンク ルイ カルティエ」(写真2)を腕にすれば、歴史の一部を身にまとうエレガントな男性となる。
フランスの老舗として知られるシャルベのタブカラーシャツ(写真3)。ネクタイの下でループタブをボタンで留める襟型なら、ネクタイの結び目が少し持ち上がり、立体的なVゾーンをつくってくれる。
英国の名門ジョンストンズのカシミアマフラー(写真4)。寒風吹きすさぶこの季節の贈り物として、マフラーはうれしい。スコットランド製のカシミアは、やわらかさが別格である。ストンと垂らすほうがエレガントで大人っぽいので、長めのものを選んだほうがいい。
今回リストアップしたものが、いずれも安いものでないことは重々承知している。もちろん、ブランドものばかりがいいわけではない。高額なものばかりが、いいわけでもない。しかし、少しの背伸びが男を高める。それが正しいことは、経験でわかったことのひとつである。
掲載した商品はすべて税抜き価格です。
プロフィル
山本晃弘(やまもと・てるひろ)
AERA STYLE MAGAZINE編集長
「MEN’S CLUB」「GQ JAPAN」などを経て、2008年に朝日新聞出版の設立に参加。同年、編集長として「アエラスタイルマガジン」をスタートさせる。新聞やWEBなどでファッションとライフスタイルに関するコラムを執筆する傍ら、幅広いブランドのカタログや動画コンテンツの制作を行う。トークイベントで、ビジネスマンや就活生にスーツの着こなしを指南するアドバイザーとしても活動中。
Photograph:Osami Watanabe
Styling:Masayuki Sakurai