紳士の雑学
クラシック回帰、あるいは英国調。
これって、どういう意味?
[男の服飾モノ語り]
2017.08.17
スーツを買いに行くと、ショップの店員さんから「最近の傾向はクラシック回帰です」と言われることが増えている。「クラシック回帰って何?」と、ここでつまずくビジネスマンも多い。ここで言うクラシック回帰とは、スーツの母国である英国調の装いがトレンドになっていることを指す。では、英国調の装いとは何か。正しく知っていただくために、解説していきたい。
まずはスーツの形。パッドで肩を強調し、ウエストをシェイプしたグラマラスなシルエットで男性らしさを際立たせる。ヒップが隠れるくらいの長めの着丈で、エレガントさを大切にする。チェック柄をビジネスに活用するのも、英国的なスーツの着こなしの特徴。ガラス窓を意味するウインドーペーンや、白黒基調のグレンチェックなどは、いずれも古くから愛される古典柄である。
シャツの襟型は、文字どおりイングリッシュスプレッドという別称のあるセミワイドスプレッド。もしくは、かつてウインザー公が愛用したことからウインザーカラーと呼ばれることもあるワイドスプレッドカラーを選ぶ。色づかいはあくまでも控えめに、スーツの色に合わせてVゾーンも同系色でまとめるといい。英国紳士は「アンダーステートメント」という言葉を好んで使う。これは「控えめで上品」という意味で、彼らにとって最高の褒め言葉となる。
ベストも、英国調の着こなしによく使われるアイテムのひとつ。元来は下着であったシャツを覆い隠すことができるので、上品な着こなしになるというわけだ。襟付きやダブルブレストのベストは、そのディテールから、古典的な印象をもたらす。
フォーマルウェアにも合わせられるグレーのチェスターフィールドコートが、ビジネスにおいても正統的なコートであることは間違いない。しかし、スポーティーで現代的なコーディネートを目指すのであれば、英国に源流をもつツイード素材のコートを合わせるのもいい。ツイードは保温力の高い紡毛素材であり、織り方でさまざまな表情が出て独特の風合いが感じられる。写真のコートは、魚のニシンの骨を意味するヘリンボーンと呼ばれるツイードで作られているものである。
では、カジュアルウェアにおける英国調とはどのようなものであろうか。貴族の遊びでもあったスポーツに起源をもつアイテムが、週末の着こなしの主役となる。例えば写真のようなレザーブルゾンは、車やバイクを駆るときにはおるものとして、英国ではモータージャケットと呼ばれることも多い。
ファーのついたフードをもつこのコートも、ハンティングで着るフィールドジャケットをモチーフにしている。ボトムスには、タータンチェックのパンツをコーディネート。これは、民族衣装のキルトにも使われる英国を代表する柄。ただし、本来は氏族、地域、企業、グループなどをシンボリックに表す柄であり、おしゃれだけのために安易に着るべきではないという考え方もある。
今回のスーツの原稿で英国調の解説を進めてきたアイテムは、すべてハケット ロンドンという英国ブランドのもの。ブランドの創設者であるジェレミー・ハケット氏は、英国を代表するファッションアイコンのひとり。数年前に久しぶりに再会したときに、インタビューを敢行した。そのときに見せてもらった彼のワードローブは、ずっと愛用してきたものがほとんどで、新しいアイテムは少しだけ。「本当にいいものを選んで、長く大切に着る」。実はこれこそが、英国調の本来の意味なのかもしれない。
掲載した商品はすべて税抜き価格になります。
山本晃弘(やまもと てるひろ)
AERA STYLE MAGAZINE編集長
「MEN’S CLUB」「GQ JAPAN」などを経て、2008年4月に朝日新聞出版の設立に参加。同年11月に、編集長として「アエラスタイルマガジン」をスタートさせる。雑誌の編集の傍ら、朝日新聞や朝日新聞デジタルに掲載する、ファッション&ライフスタイル系の広告コンテンツや動画の制作も手がける。現在はトークイベントを通じて、ビジネスマンや就活生にスーツの着こなしを指南するアドバイザーとしても活動中。