旅と暮らし

とにかくおいしいと喜ばせたいなら『今福』のしゃぶしゃぶコースを!
[状況別、相手の心をつかむサクセスレストラン] Vol.02

2017.12.05

小松宏子 小松宏子

食べものの好みはさまざまである。どんな人を連れて行っても喜ばれる店というのは、そうそうはあるものではない。ところが、極めてその確率が高いと自信をもって言える店がある。しかも、かなりその内容は価格以上。極上の黒毛和牛を部位別にしゃぶしゃぶで味わえる、肉料理専門店「今福」がそれだ。

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隠れ家な外観と行き届いた個室

場所は、白金高輪駅のほど近く。小さく今福と表札のかかる外観は、知らなければ尻込みしてしまうような、高級感に満ちている。接待される側であれば、「おっ、高そうな店」と期待が高まるに違いない。1階はテーブル席だが、2階は全室個室。6室あるうち5つが4人仕様で、親密な話をするのにはぴったりだ。また、部屋が連なっていても、各室の密閉性が高く、話し声がもれるようなことはない。接待のニーズを完璧に心得ている。

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まずはスターターの牛舌で、驚かせる

ハード面の話はこのくらいで、肝心のしゃぶしゃぶへと話を進めよう。コースの先付は、太刀魚の卯の花あえと、ずわい蟹と聖護院大根のすり流し。すっきりとした季節の味覚に、食欲もいや増す。その後、たっぷりとだしの入った真鍮(しんちゅう)の鍋に火が入る。だしは鶏ガラスープとかつおと昆布のだしを割ったまろやかな風味。

まず最初に登場するのが最高級黒毛和牛の牛舌が2枚。ほのかに歯ごたえを感じる厚みに切られた舌を、1枚目は店のスタッフが、ほどよい加減にしゃぶしゃぶとしてくれる。淡いピンクになった舌を自慢のトリュフ塩でと勧められる。口に入れた途端に複雑なトリュフ香と、牛肉の風味がひとつになり、旨みの総攻撃といったインパクトだ。

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フィレ、ランプ、イチボ、サーロイン……めくるめく旨み

さて、いよいよ真打ちの登場。手前からフィレ、ランプ、イチボ、サーロイン、上ロースと、5種類の肉と野菜がきれいに並んだ大皿が運ばれてくれば、思わず歓声が上がる。まずはフィレ肉。うーん、口の中でとろけてなくなり、幸せな余韻だけが残る。「なぜ、瞬時に溶けるのか、それは、うちで扱う牛肉の融点が極めて低いからです。ちなみに15℃で溶けだすんですよ」と店長。これは牛肉の平均値に比べて格段に低い。

続いてランプを食せば、赤身のおいしさが際立つ。「実は、フィレに比べて気持ち厚く切っています。部位の持ち味を舌の上でベストに感じていただくための技です」とも。そしてサシのきれいに入ったロースはやはり王道、満足感もひとしおだ。2枚ある肉の2枚目はたっぷり盛られた白髪ねぎを巻いて食べるのも乙である。フィレに始まり、次第に上り詰めていくプロセスは、しゃぶしゃぶというシンプルな料理にストーリー性をもたせ、鮮やかな印象を残してくれる。

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こうした部位ごとの旨みを味わうしゃぶしゃぶをあまり見ないのは、コストがかかりすぎるから。それを可能にしているのは、「今福」の母体が「ヤザワミート」という精肉の卸、肉のプロだから。ブランドや産地に頼るのではなく、あくまで熟練の職人の目利きによって、ロース、ランプ、イチボ……それぞれにベストな肉が選ばれるからこそのクオリティーなのだ。

ちなみに飲み物はワイン、日本酒、焼酎となんでもそろうが、ワインを頼む人が最も多いそう。肉と聞けば赤と思い込みがちだが、これだけ融点の低いさっぱりした肉だと、白ワインもとてもいい。先付から牛タン、フィレ肉くらいまでを白ワインに合わせて楽しみ、後半はピノ・ノワールなど、タッチのやわらかい、赤ワインを合わせるのがしゃれている。そんなさりげない、ワイン選びも、評価のポイントになるはずだ。

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締めのラーメンで幸せの余韻にひたる

締めのラーメンがまた、半端ないおいしさ。肉の旨みが溶け込んだだしで特注の麺をゆでるのだからたまらない。まずはスープを楽しむ素ラーメンで、次に切り落としを煮込んだ肉味噌を載せながら味の変化を楽しもう。ひとつ鍋を囲みながらの幸せの共有は、間違いなく、得意先との距離を縮めてくれる。これが1人前¥10,000とは、にわかには信じがたい。早速オンリスト!

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Photograph:Makiko Doi

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