腕時計
時計評論家が選ぶ3本vol.4
『クロノス日本版』編集長、時計ジャーナリスト 広田雅将さん
2017.12.06
本邦における本格的な時計情報誌であるクロノス日本版。その時計の専門誌にて編集長を務める傍ら、複数雑誌への寄稿に加え、国内外の時計賞を決定する際の審査員をも務めている広田さん。時計の歴史に始まりメカニカルな構造への理解、それに装飾や仕上げに関する知識など、時計に精通した時計界のオーソリティーのひとりだ。そんな広田さんが特にこだわるのは、その時計が“実用的かどうか”。
【ベスト1】使い勝手に優れた高品質の万能時計
工芸品的な美観や、技術力を誇示する意味も含めて生み出された複雑時計は別として、まず機械式時計は日常生活においてストレスなく使いつづけられるものかどうかが、ひとつの見極めポイントになると広田さんは考える。そういった前提を踏まえ、本企画における今季のベストモデルを選考した場合、ブライトリングの“スーパーオーシャン ヘリテージII” (42㎜)は、一定の条件をクリアした魅力的な実用時計と評価できるという。
「“スーパーオーシャン ヘリテージII”をひと言で説明すると『普通に使いやすい』時計でしょうか。この『普通に使える』というのは非常に大事なことで、このハードルを越えることは意外に難しいものなのです。まず“スーパーオーシャン”シリーズは、プロ仕様の防水時計です。つまり水や汗などに強いことは言うまでもなく、ケース自体も頑丈に作られているのが特徴的。そしてスポーツ時計の部類にしてシンプルなバーインデックスを採用していることもあり、それほど込み入ったデザインでないところとも見逃せません。つまり、ビジネススタイルから休日のオフスタイルにまで使用可能と言えるのです」
さらに今季モデルのムーブメントは、設計を刷新しており随所にレベルアップが図られているという。なかでもパワーリザーブの延長は、実用性に直結するものと広田さん。
「従来のおよそ42時間から約70時間にパワーリザーブが進化したということは、つまりフルに巻き上がった状態であれば、ほぼ3日間、腕からはずしておいても稼働しつづけることを意味します。例えば金曜日の仕事終わりにはずし、土日のあいだ身に着けることがなくても、月曜の出社から時刻合わせをすることなく『普通に使える』ということ。さらに当モデルはクロノメーター検定をパスした高精度ムーブメントを搭載しています。時刻のズレによる修正なども、限られた回数で済んでしまうのです」
そのほか、セラミックベゼル仕様による傷付きにくさなど、随所にグレードアップが施された“スーパーオーシャン ヘリテージII”。本格的な実用時計として申し分のないスペックだと広田さんは太鼓判を押す。
【アンダー30その①】エントリーモデルとしても秀逸な月齢時計
究極の実用時計となると、プライスもそれなりのものになるのは当然のこと。しかし特殊な使い方を前提としないのであれば、アンダー30万円でも魅力的なモデルが今季は多いと語る広田さん。なかでも多くの人に注目してほしいのが、オリエントスターの“メカニカル ムーンフェイズ”だと紹介する。
「この“メカニカル ムーンフェイズ”はプライスに対して非常に高いクオリティーを持つところがリコメンドする理由です。日差+15秒~-5秒前後という精巧な自動巻きムーブメントを搭載しつつ、気品を感じさせるデザインの文字盤。加えてムーンフェイズという粋な遊び心も加えながら、価格はアンダー20万円。こういったスペックで本格的な月齢時計は、あまり見掛けないものと思います」
非常に高いクオリティーに加え、ジャパン・メイドというところも“メカニカル ムーンフェイズ”の注目すべき特質だと広田さんは付け加える。
「ムーブメントが日本製であるだけでなく、クロコダイルストラップも熟練職人の手作業にて作られています。また、ムーブメントの細部にもダイアカットにてエッジを美しく立たせた仕上がり。プレスで抜いただけの安価なものとは異なるなど、全体的に高級感漂う作りが見て取れます」
【アンダー30その②】シンプル美を追求したドイツ時計の佳作
今回、広田さんにはさらにもう一本、アンダー30万円クラスでのリコメンドモデルを特別に伺った。その返答となったのが、ノモスのスクエアウオッチとして知られる“テトラ”だ。ドイツブランドならではの、実直な作り込みとプライスのバランスが優れた逸品だと広田さんは評価する。
「こちらも実用時計として一定の水準をクリアしているところがひとつのポイントです。そして、すべてにおいてスマートなデザインを貫いているのも見逃せない部分。パワーリザーブは約43時間とやや控えめですが、機械自体は薄型で非常に付け心地がいいのです。角形でありながら、シャツの袖にも引っ掛かりにくく、サッと時刻確認できるのも秀逸。また、文字盤は虚飾を排したデザインを貫いており、とても高い視認性を確保しています。角形ケースというと、レクタンギュラー型が一般的ですが、“テトラ”は正方形。長方形に較べて円形との親和性も高く、インデックス配置に関しデフォルメの部分が少ないため時刻が読み取りやすいのです」
“テトラ”の2ピース構造ケースは、裏ぶた部分をシースルー化させたモデルもラインナップしており、内部のムーブメントを見て楽しむことが可能。
「シンプルなムーブメントですが、ドイツ・グラスヒュッテの時計文化を継承した真面目な作りを観賞することができます。いわゆる3/4プレートには筋目模様の仕上げを、角穴・丸穴車にはグラスヒュッテ・サンバースト仕上げが施されています。また、ネジは青焼き処理を施したものを使用しており、端正な美観もひとつのポイントになっているのです」
また広田さんは、スクエア型の時計は丸型やレクタンギュラーに較べて、世に出回っている数が少ないところもひとつの長所だと指摘。
「わざわざそれなりの金額を支払って買う時計ですから、他人とあまりにも差別化できないモノでは満足度も低くなってしまいます。その点、テトラは非常にユニークな造形なので、かぶりにくいという特徴もある。ユニークでありながら実用性としての機能を完備した時計は、注目に値するものと考えています」
選者プロフィール●広田雅将/『クロノス日本版』編集長、時計ジャーナリスト。1974年、大阪府生まれ。大学卒業後、サラリーマンを経て時計ジャーナリストとして活動を開始。国内外の時計専門誌をはじめライフスタイル誌などに寄稿する。時計ブランドや販売店でのイベント講師を務めることも多数。2016年から『クロノス日本版』編集長となる。
掲載した商品はすべて税抜価格です。
Text: Tsuyoshi Hasegawa(ZEROYON)
Photograph: Katsunori Suzuki