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この人から買いたい。[第3回]
マスマティクス 神宮一茂さん

2017.12.07

写真・図版 いであつし

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そのセレクトショップのうわさは業界のファッション通から聞いてはいたが、いやはや、実際に行って見て度肝を抜かれた。店に一歩入るなり、いまどきの若者ふうに言えばまさに「ヤバイ……!」の連続。同行した担当編集者もカメラマンもしばし仕事を忘れて店内を見て回ったほどだ。お店の名前は「マスマティクス」。場所は、新宿から小田急線の急行に乗れば50分ほどで着く本厚木駅の東口から歩いて数分。都心から離れた郊外の住宅街のなかにある。しかしそんな不便さなど吹き飛ばすほどの魅力と価値が、ここに来ればある。

誰もが最初にまず驚くのが、入り口にどぉんと鎮座している美術館や骨董店に置かれていてもおかしくない、重厚なクルミ材で作られた猫足の巨大なアンティークカウンター。店のシンボルと言ってもいい。さらにぶ厚い寄せ木の床板は、パリのシャンゼリゼ通り付近にあった古い邸宅から剝して運んできたもの。そして店内のそこかしこにあるむき出しの古い梁や柱は、ソルボンヌ大学を解体したときに出たものを使っている。2階建ての洋風家屋の1階を使った倉庫のような店内は、フランスから運んできたアールヌーボーとアールデコ様式のアンティーク家具や照明器具が無造作にぜいたくに使われているのだ。

「もともとこの建物は、厚木では有名な趣味人の方が大家さんで、用途を考えずにフランスからコンテナ2台分のアンティークの建築資材や家具を買い付けて建てたらしいんです。1階部分だけを借りてそのままお店としてオープンしたんです」

そう話すのは、オーナーの神宮一茂さん。神宮さんがこの業界に入ったのは、80年代のDCブランドブームが全盛のころ。以来、バイヤーとして国内外を問わず毎日多くの展示会を見て回っては目新しいブランドを見つけて買い付けてくる無類の服好きだ。この日も、今季の「ドリス ヴァン ノッテン」のビッグシルエットニットを洒脱に着こなしていた。

「この年になってもバカじゃないかと言われるくらい服が好きなんです。店で扱うブランドやセレクトの基準はもうほとんど僕のワードローブですね。でも飽きっぽい性格ですから、扱うブランドやスタイルが来年はまたガラっと変っているかもしれませんけど(笑)」

当然、マスマティクスに度肝を抜かれるのはインテリアだけではない。大手セレクトショップではまず目にすることがないメジャーおよびマイナーブランドから神宮さんのアンテナに引っ掛かったエッジィなアイテムが、広い店内に所狭しとセレクトして並べられているのだ。

こんなエピソードがある。昨今のワイドパンツブームの火付け役であるロンドンのブランド「イートウツ」。神宮さんは、同ブランドがまだそれほど知られていない2年前からワイドパンツを買い付けて別注まで扱っていた。それを聞きつけた都内の有力セレクトショップのスタッフたちがわざわざ本厚木のマスマティクスまで買いに訪れたという。

「こんな場所で洋服屋なんてやってもお客さんは来ないとよく言われますが、そんなことはありません。むしろその逆です。うちで扱っている服は決して値段が安くはないのに、うれしいことに服好きな若い子たちがネットでわざわざ好きなブランドを調べて買いに来たりします。ただし服は黙っていても売れるものではありません。お店でお客さんが気に入って手に取ってくれたら、僕はその服のよさをいくらでも時間をかけてお話ししています」

若い世代が服を買わなくなった、ネットでしか服が売れないなどと言われて久しいが、こんなお店がある限り、まだまだ日本のセレクトショップは大丈夫。

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おすすめ01/ネヘラのコート
レディスは見かけるがメンズはあまり扱いがない、1930年にチェコスロヴァキアで創設された老舗ブランド「ネヘラ」から、なんと4本の袖があるステンカラーコート。はおると使わない袖が奇麗なドレープを作り、意外と普通に着られる。日本に7着しか入荷していない。¥190,000

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おすすめ02/サンカッケーのブルゾン
オーナーの神宮氏と同じく無類の服好きとして知られる元某セレクトショップのバイヤーだった尾崎雄飛氏のブランド「サンカッケー」から、ぜいたくにもほどがありすぎるカシミアを100%使用したフライトジャケット。¥480,000

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おすすめ03/トゥーグッドのコート
イギリスの新進ブランド「トゥーグッド」から、大きなポケットが特徴的なフォトグラファーコートと名付けられたビッグシルエットの上質なウールリネンコート。驚くほど軽い着心地。¥180,000

掲載した商品はすべて税抜き価格です。

その他のおすすめアイテムはこちらからご覧いただけます。

プロフィル
いであつし(いで・あつし)
数々の雑誌や広告で活躍するコラムニスト。綿谷画伯とのコンビによる共著『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)などで、業界関係者にファンが多い。

この人から買いたい。[第2回] ランデヴーオーグローブはこちら

Photograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text:Atsushi Ide

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