カジュアルウェア
ファッション トレンド スナップ15
ブラウン系コートを日本で着こなすテクニック。
2017.12.22
ネイビー中心の日本のビジネスシーンで、今年の冬は異変が起こっています。百貨店のディスプレーやセレクトショップのウインドーでブラウン系のコートが主役に抜擢(ばってき)されているのです。
いままでならネイビーや黒のカシミアのコートというのが王道でしたが、今年は主役がついに交代。そうなった背景には、IT系などの新しい服装ルールの会社が増えたことと、SNSや雑誌でヨーロッパのブラウンを採り入れたスナップをよく目にするようになったことが重なり、徐々にいままでにない色やデザインの服をビジネスで採り入れる下地ができていたことがあると思います。
このブラウン系コートは、日本では目新しいですがヨーロッパでは街中でよく見かけるもの。今回は、その着こなしのポイントや日本人が着こなす方法を解説します。
こちらの左の男性はとてもイギリスらしいグリーンがかった薄い茶色のコート。
チェスターフィールドコートと呼ばれるもの。デザインはテーラードジャケットの着丈を長くしたもので、そのルーツは19世紀にさかのぼります。名前の由来は、当時ダンディーで男性ファッションに影響力のあったチェスタフィールド伯爵が好んで着ていたからだとか。
デザインの特徴は襟の後ろ側が別生地(ベッチンなどの起毛素材)になっているところ(注:最近はここが別生地になってないものもチェスターフィールドコートと呼んでいます)
冬のロンドンで見かける年配の男性は、ほとんどがこのタイプかトレンチというくらい人気を二分するコートです。この男性は、ロンドンの若い世代にしては珍しく正統派のブリティシュスタイル。
隣の女性も清楚なロンドンの上流階級風のコーディネート。日本でこの襟が別生地のコートを新品で見つけるのはなかなか大変ですが、もし見つけたならこの男性のようにグレーかチャコールグレーのスーツに合わせるのがよいかと。
ネイビーのスーツでは、コントラストがつきすぎるので初めての方にお薦めできません。コートがやけに目立ってしまうと思うので……。
靴は、スーツに合わせて黒を。
こちらのジェントルマンのコートはダークブラウンのダブルブレストのコート。ほんのりとパープルがかった生地の色を見ていると生地はイタリア製でしょうか?
そんなつやっぽい色の生地を使いながら仕立ては。かなり硬派なブリティシュテーラード。肩山が、ポコっと出るロープドショルダーとかコンケープドショルダーと呼ばれる伝統的な仕立て服に見られる肩のラインです。
若い世代の人がこのようなコートを見るとモードな服に見えると思いますが、実はそうではないのです。肩山を強調するデザインは、古くは軍隊の指揮官などが着る軍服の肩にある房の飾り(江戸時代の黒船来航で有名なペリーが着ていたような)などに見るように、肩を張るの姿は威厳を誇示すためのものであり、男らしさをアピールするもので、昔からあったものです。話が少しそれましたね……。
このジェントルマンも茶系のスーツにコートですが靴は黒。日本のおしゃれに一家言もっている人なら、「ここは茶の靴のほうがエレガント!!」とアドバスを入れるところですね。
でも、あえてロンドンのジェントルマンは黒。このジェントルマンの靴はモンクストラップです。ジェントルマンのルールでは、シティー(ロンドン市内)では靴は絶対に黒。それは、シティー=女王陛下が暮らしているフォーマルな場所では、黒靴というのががジェントルマンの暗黙のルールなのです。
紳士が茶の靴を履くのは休日着のときやリラックスしたい場所(カントリー)に限られたのです。もちろん、そうしたルールは現代のロンドンにおいては誰もが守っているわけではありませんが……。
最後のを飾るのは、この御仁。この方はフィレンツェのピッティ会場でお会いしたイタリアン・ダンディー。少し大きめで着丈は膝が隠れる長さで英国調の生地感といい、往年のイタリア映画の監督を思い出させるような着こなしですね。さぞや長年着込んだコートかとおもって、近づいてコートをよくよく見てみると!?
生地は今年トレンドの太いヘリンボーン編みで茶。ブリティシュテイスト満載ですが、ボタンを見るとメタルボタン、ウエストに巻いたベルトもイタリアのコートメーカーが、今年打ち出している留め金具のないガウンタイプのベルトです。
どうやら、このコートは今季の新作コートかも?
どちらにしても、この貫禄はただ者ではありませんね。この御仁のように、白髪になっても染めようと考えず、白髪のままブラウンコートをさっそうと着こなしてみたいと思うのは私だけではないはず。
ここが、ネイビーや黒だとシックすぎて枯れた感が強く出てしまうので、年齢を重ねた男性はこの御仁のように進んで茶コートを着るべきですね。
それにしても、この貫禄は……。例によってお名前入聞き忘れてしまいました。来年のピッティで再会できたらお名前を聞いておきます!!
プロフィル
大西陽一(おおにし・よういち)
数々の雑誌や広告で活躍するスタイリスト。ピッティやミラノコレクションに通い、日本人でもまねできるリアリティーや、さりげなくセンスが光る着こなしを求めたトレンドウオッチを続ける。
Photograph & Text:Yoichi Onishi