カジュアルウェア
ファッション トレンド スナップ16
帽子紳士がヨーロッパで増殖中? カジュアルスタイルにハットがカギ!
2018.01.05
日本では女性を中心に帽子をかぶることが一般化してきているようです。さらに東京の青山や原宿でウオッチしているとニットキャップ、ベースボールキャップ、ボルサリーノタイプのソフトハットなどなど、女性のみならず男性も負けじと帽子をかぶって歩く姿をよく目にします。
こうした状況は、ファッションの街ミラノやパリを上回る勢い。ミラノの中心地でボルサリーノをかぶっている人を見つけるのはいまや大変なことなのです。目撃したとしてもそれは年配の紳士だけ……。
歴史に残る紳士の帽子を生み出したジェントルマンの街ロンドンに至っても、秋冬に地下鉄の中や街中でぼつぼつ見かけることがあるくらいです。
個人的な見解ですが、帽子密度は東京がNo.1ではないでしょうか!?
とはいえ、メンズファッションの国際展示会のなかでダントツにおしゃれな人が集まることで知られているフィレンツェのピッティでは、帽子紳士がここぞとばかりに会場内を闊歩(かっぽ)しています。
でも、こうしたピッティの状況は昔から続いてたわけではなく、ここ1〜2年くらいから急に増えてきた「帽子がトレンド」的なとらえ方での盛り上がりなのです。そんな前置きは、ほどほどにして本題に行きましょう。
この御仁のように、カジュアルなスタイルにハットを合わせるのがピッティ流。ライトブラウンのハットとベージュのコートの組み合わせが絶妙です。
帽子のかぶり方もこの御仁ならではのポイントがあります。このカジュアル感&ヌケ感があるのは、帽子のつばを水平(若干先が反り返っています)にしているところ。
昔の映画やイタリアの年配の方の場合なら帽子のつばの先は軽く下に向けるのが定石。映画『ボルサリーノ』のアラン・ドロンも『カサブランカ』のハンフリー・ボガートもつばの先は下向きでした。でも、この御仁は、あえて水平することでカジュアルな感じを出しています。
実は帽子のつば先は意外と重要なポイントなのです。これからハットにトライする方は、お店でつばを上げたり下げたり水平にしたりしてください。そのうちに「これなら似合う」という形が見つかるはず。そうすれば、難なく帽子デビューできますよ。
足元は、普通なら茶のブーツを合わせるところをグリーンのブーツにして、パンツの裾をロールアップするとは。かなり難度が高いコーディネートです。靴ひもを鮮やかなグリーンにしているなど、この御仁は若いのにこだわりが半端ないですね。
この御仁は、ミラノで出会ったモード系帽子紳士。全身ブラックですが、どこか可愛い感じがしませんか?
そう、帽子の形がユニークなのです。よ~く見るとつばの周りにリボンテープが一周巻かれています。どこかの有名デザイナーのデザイン?かと思う方も多いと思いますが、実はこの帽子の形は、ロンドン生まれの由緒あるデザインなのです。
このデザインの帽子は、イギリスではボーラーハットと呼ばれていているもので、ルーツは1850年にまでさかのぼります。ロンドンの帽子店ジェームス・ロックが発売したものでした。
それまでの紳士の頭を必ず飾っていたトップハットと呼ばれる帽子は、煙突のように高く、その頭頂部は平らで短いつばがついていました。シャーロック・ホームズがかぶっていた帽子といえばわかりますかね?―ちなみにあの時代(ヴィクトリア朝)のロンドンは、帽子なしで男性が外室するのはタブーだったとか。
そうした時代にある紳士から「領地で働く狩猟番人のために頑丈で、枝などがひっかかりにくい帽子を」というオーダーに応えたのがこの頭頂部が丸くなったボーラーハットだったのです。そんな由緒正しい歴史ある帽子も、いまのロンドンでかぶっている人を見ることはまずありません。それが、ファッションの街ミラノで、このようにモードなスタイリングで蘇ることに! この柔軟な発想こそがイタリア人の真骨頂。
こちらのマダム(カメラマン)は黒ワンピースにブラウンの帽子。髪の毛がブロンドなので違和感なく合っています。ワンピースのボタンがゴールドなのも効いています。話はそれますが、なんとなくフランス大統領の奥さまブリジットさん風なイメージがしませんか? 黒にゴールド(キャメル)という組み合わせがパリ的なのかもしれませんね。
講釈を述べましたが、本音は重い料理の後のデザート的にこのカットをピックアップしました……。
さて今回は、ボルサリーノタイプのソフトハットを取り上げましたが、次回はそれ以外の帽子を取り上げる予定です。
参考文献 「ビクトリア朝百科事典」著者 谷田博幸
プロフィル
大西陽一(おおにし・よういち)
数々の雑誌や広告で活躍するスタイリスト。ピッティやミラノコレクションに通い、日本人でもまねできるリアリティーや、さりげなくセンスが光る着こなしを求めたトレンドウオッチを続ける。
Photograph & Text:Yoichi Onishi