紳士の雑学

目利きは前から知っていた
空間に色気をもたらすトライバルとは?
[センスの因数分解]

2018.01.09

写真・図版 田中敏惠

写真・図版
FUCHISOのトライバルラグ。店主の解説&ディスプレイも知的好奇心をくすぐる店。

インドネシアのアマンジオで、アマンリゾーツ創設者のエイドリアン・ゼッカ氏を取材したことがある。アマンリゾーツにはその土地に根差した人たちが作る、古い手仕事のものたちがさりげなく飾られていたりギフトショップに並んでいたりするが、ゼッカ氏自身もそんな古い民藝的なモノが好きだという。世界中を旅して、世界の美しい手仕事をめで、うっとりるようなぜいたくなリゾートを生み出す……。元ジャーナリストの華麗な仕事と趣味である。

トライバルという言葉を知っていますか? 「部族の、種族の」という意味で、デザインの世界では、ある部族や種族で伝統的に使われてきたものや意匠をこう呼びます。そしてこのトライバルデザイン、世界中でブームになっているんです。

ファッションほど目まぐるしくはありませんが、インテリアにもトレンドは確かに存在していて、80年代はマレンコのソファに代表されるようなモダンイタリアンが席巻し、90年代はアジアン雑貨やミッドセンチュリーモダンがブームに、またそのころからいまでも北欧ムーブメントは続いています。現在は00年代に大きなインパクトをもって出現したAceホテルのようなファクトリーっぽい風合いや、それに通じるDIY(もしくはDIY風)の素朴なインテリアにグリーンを合わせるスタイルが人気となっているよう。そして、新しく注目されているのが、トライバルなのです。

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平和島骨董市で一目惚れしたラグ・ベニワレン。これを眺めながら、はるか遠くモロッコの羊の民に思いを馳せたり。

ブームを牽引しているのが、中東やアジアの遊牧民たちなどが織ったラグやカーペット。なかでも人気なのがベニワレンです。ベニワレンとは、モロッコのベルベル人の部族であるベニワレンの女性たちによる手織りのラグ。ひし形が連続したようなモチーフとやや長い羊の毛足が特徴です。パリを中心としたヨーロッパでまずはやり、日本でもここ1~2年、大きく注目されるようになりました。私が初めてベニワレンのラグを見たのも2年半ほど前の平和島骨董市でのこと。フサフサでつややかな毛並と洗練されたひし形柄にひと目ぼれし、長い値段交渉を経て手に入れました。それは焦げ茶ベースで黄色~グリーンの模様ですが、一般的なベニワレンはナチュラルな羊毛の色みを生かしたアイボリーベースのものが多いことや、現在パリでは大流行していることを出店していたマダムから聞いたのでした。以来気をつけてみるようになると、確かにピンタレストやインテリア洋雑誌、ウェブマガジンなどでよく見かけます。

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    外苑前にあるFUCHISOは、店主の小松綾子さんが世界を旅して手に入れた手仕事の品々が並ぶ。トライバルの種類も豊富。
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欧米から日本まで。洋の東西を問わず、トライバルものがインテリアのスパイスとして非常に効果的な役割を果たしているようですが、これらはもともとはその種族や部族の人たちのライフスタイルに根差した実用品。各地の気候風土に合った素材を用い、長い時間をかけ手仕事によってでき上がっています。このトライバルに魅せられる人がなぜ世界中に広がっているのか。それはこれらのモノたちの共通項である「時間」と「手仕事」そして「風土」への渇望から来ているのではないでしょうか。

グローバル企業の世界戦略によって、タイムラグなどまったくなしに本店と同じ服、同じ味が簡単に手に入るようになって久しいのはご存じのとおり。また世界の均一化とインターネットの普及は二人三脚で進んできました。トライバルは、そんな世界の均一化とは真逆のベクトルにある存在。ある地域に根差し営まれてきた手仕事という古くからある人間臭いものを、多くの人が無意識に欲しているように思うのです。清らかすぎる水に魚が住まないように、フラットになりすぎた事柄ばかりになるなかで素朴な温かみや人間らしいいびつさを求めているのだとしたら、それは自然な欲求に思えるのです。また、そういういびつさが、空間の情緒を育んでくれるのです。

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早稲田のon the shoreで「なかなかマニアック」と主人の谷俊介さんに言われたアフリカ・トゥアレグ族のテントの杭。ここはベニワレンのコレクションも多彩。

ちなみに建築家でデザイナーの鄭 秀和(てい・しゅうわ)さんは、自身が手がけた空間にさりげなく“私物”の骨董や盆栽を置いたりしていますが、彼もきっとそんな情緒を愛する人なんだと思います。空間がどうやって色気を漂わせていくか、その術(すべ)を知っているのではないでしょうか。

自然や時間は、どんなにお金を積んでも買えるものではありません。それと同時に、富の多少によって分配されるものでもありません。昔ながらの自然や時間とのやさしい付き合い方を教えてくれるトライバル。すでにいくつかの超大手内装装飾企業は目をつけていて、大量生産でそれっぽいものを出しています。しかし、もちろんそこには時間も風土も内包されてはいません。空間に時間や自然、そして情緒をもたらすモノたちは、そんなに短時間では生まれないのです。

FUCHISO
on the shore

プロフィル
田中敏惠(たなか・としえ)
ブータン現国王からアマンリゾーツ創業者のエイドリアン・ゼッカ、メゾン・エルメスのジャン=ルイ・デュマ5代目当主、ベルルッティのオルガ・ベルルッティ現当主まで、世界中のオリジナリティーあふれるトップと会いながら「これからの豊かさ」を模索する編集者で文筆家。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』『未踏 あら輝 世界一予約の取れない鮨屋』(共著)、編著に『恋する建築』(中村拓志)、『南砺』(広川泰士)がある。

http://ttanakatoshie.com/

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