紳士の雑学
株式会社リブセンス 代表取締役社長
村上太一インタビュー[前編]
2018.01.12
19歳で起業し、史上最年少の25歳で上場したリブセンス村上太一社長。成功報酬型の求人サイトの出発点は「もっと便利にできるはず」。以降も、社会課題を解決するためさまざまなITメディアを運営してきた。31歳、次のステージに立つ村上に話を聞いた。
世の中の歪(ひず)みを正し
あるべき姿に最適化したい
「小学生のころから社長になりたいと思っていたんですよ」、リブセンス代表取締役社長の村上太一はニコニコと言う。大学1年生で起業し、アルバイト求人サイト「ジョブセンス(現・マッハバイト)」をスタートした。〝掲載課金型〟が主流だった求人業界で掲載料の発生は採用決定後という〝成功報酬型〟のアイデアを放ち、新たなビジネスモデルを形成。以降、求人領域のほか不動産や医療情報などをインターネットで提供し屈指のポジションを築いてきた。
「私はもともと整理整頓好きで(笑)、世の中の歪みを見つけるとあるべき姿に正したい、最適化したい衝動に駆られるんです。創業以来、『あたりまえを、発明しよう』というビジョンを掲げてやっていますがまだまだこれから。5年先、10年先の中長期計画といわず人生ずっと、という気持ちでやっていきたいですね」
目黒駅にほど近い木目調のオフィス、心和むその空間で過去と未来、そしていまを語りはじめる。
史上最年少で上場
でもその前には売却も考えた
冒頭のとおり、村上は社長になりたい小学生だった。両祖父ともが経営者という環境もさることながら「なぜ?」「どうして?」と問いつづける生来の性格も後押しした。
「人はなぜ生きるのか?とよく考えてましたね。社名の『リブセンス(生きる意味)』は実はそこから来たものなのですが、その意味を掘り下げていくと『誰もが幸せに向かって生きてるはずだ』って。当時、家族でよく釣りに出かけたんですけど、釣った魚を私がさばくと両親がすごく喜んだんですね。その姿を見て自分もうれしくなる。経営理念の『幸せから生まれる幸せ』はそうした経験がベースになっています」
魚をさばける小学生もすごいが当時の気づきが経営理念になったことにまた驚く。社名が小学生なら、ビジネスの萌芽はバイト探しに明け暮れた高校生のころに。繁華街にはバイト募集の貼り紙があふれている。けれど、ネットには同じ求人は出てこない。広告を出すだけでお金が掛かるからだ。求人を出す側、バイトを探す側、双方にとっていい方法はないのか──考えた先に成功報酬型のモデルがあった。
「起業したい、じゃあ世の中に何を提供するのか?みたいなことはずっと頭にあって。収益性どうこうより社会にとって意味のあるもの、新たな価値を作りたいという思いがありましたね」
そのアイデアが早大のビジネスコンテストで優勝。無償でオフィスを借りられることになった村上は06年2月、リブセンスを創業する。資本金は300万円。声を掛けたメンバーも全員学生。泊まり込みは当然、学校以外はずっと仕事漬けの日々が続く。
「会議をしたくても授業が……ということもありました。ただ、遅刻には厳しくて少しでも遅れるとコンビニで『お菓子買われ放題』の刑を受ける(笑)。給料は最初ゼロで少しして5万、1年後には20万円になりました。いま思えば利益に対して少ないのですが大学生にとっては大金です。忙しくてお金を使う暇もないですし、どんどん貯金も増えてすごいなと思っていました(笑)」
学生ならではの活気があった一方、初年度は苦しみの連続でもあった。「ジョブセンス」をサイト公開した最初の月は収入がわずか数千円。これはまずいと専門書を開きつつSEOの対策をし、やがてその名は検索上位にくるようになる。バイトを探す側のメリットが高まるよう、採用された際のお祝い金制度も導入。だが、その効果がすぐに表れることはなかった。営業先では学生らしいアイデアだねと、軽くいなされメンバーの士気も下がっていく。村上はこの時期、自分の取り分である5万円すら受け取らなかった。将来の見通しが立たず、恒常的な疲労が募る。そんな折、「リブセンスの事業を買いたい」という人物が現れる。
「心が傾きかけました。全員学生、ビジネスの経験もない、かついままでにない業務モデルです。勉強なら頑張れば偏差値は上がる、でも、ビジネスって頑張った先に答えがないかもしれない。先が見えないことに人ってしんどさを感じるんだなと思いました」
結局、売却はしなかった。売ったところで再び起業したいと考えるだろう。ならば、ここで頑張ってみようと決めた。「結論を出すまで、とにかく寝ました。やっぱり人は寝ないとダメですね(笑)。それまで朝4時に寝て朝7時に起きるみたいな生活でしたから」
プロフィル
村上太一(むらかみ・たいち)
1986年、東京都生まれ。05年早稲田大学政治経済学部入学。同年、早大主催の「ベンチャー起業家養成基礎講座」を受講し、同ビジネスプランコンテストで優勝。06年2月、大学1年生で株式会社リブセンスを設立する。「幸せから生まれる幸せ」を経営理念にさまざまな社会課題を解決するITメディアを運営。09年大学卒業。11年、史上最年少で東証マザーズへ株式上場した。料理、絵画、スポーツ、釣り、酒蔵めぐりと多彩な趣味をもつ。先ごろは宮崎で行われたトライアスロン大会にも出場した。なお、いい意味で経営者らしからぬ(?)人を和ませる笑顔は母親譲り。その母はビジネスプランコンテスト開催の情報を息子に伝えたり、売上が立たなかった初年度、事務所に大量の食料品を送ったりと陰の立役者でもあった。
Photograph:Kentaro Kase
Text:Mariko Terashima