旅と暮らし

俳優・岸谷五朗、街を呼吸する。
第7回 神楽坂

2018.02.15

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神楽坂の「神楽」とは、神に奉納する舞と音楽を指す。命名の経緯には諸説あるが、この場所で舞踊が行われていたことは間違いないようだ。もともと宗教と踊りのつながりは深い。三大宗教では少ないが、アジアやアフリカでは神の前で踊ることから“芸能”が生まれた。

俳優・岸谷五朗にとって、ダンスは演技と同じくらい重みをもつ。地球ゴージャスのステージでは毎回キレのいいステップを踏み、若いダンサーと共に一糸乱れぬ群舞を見せる。中学時代から出入りしていたというディスコではリズム感の良さで定評があったらしいが、舞台上で必要なタップやジャズダンスは未経験。無名で貧しかった20代のころから、そのレッスンを欠かすことはなかった。

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「新宿駅の近くにスタジオがありましてね、チケット制で10枚つづりを買うと1回分サービスになるんです。バイト代をつぎ込んで、ずっと習っていました」
現在ではステージで実際に踊るダンスを練習することが主だが、長期滞在するニューヨークでは、観劇の合間を縫って本場のスタジオに通う。

「みんないい顔をしている」と若いダンサーたちが舞台で踊っている姿を見て、岸谷はそう語る。無心でありながらエモーショナル、情熱的なのに汗を感じさせない。神々しささえ感じさせるその表情は、もちろん彼自身も同じだ。

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一時期、花柳界としては下火だった神楽坂に変化があり、最近は芸者を目指す若い女性が少しずつ増えてきている。芸者小道の角にある見番で、踊りの稽古も行われているそうだ。社殿での神楽、舞台でのミュージカル、そして座敷での日本舞踊と種類は異なれど、それぞれ音と動きでエモーションを与えることには変わらない。そして厳しい鍛錬の末に生まれたものほど、回りつづけるコマの静寂にも似た静謐(せいひつ)さを感じさせる。

踊り、それはもしかしたら「祈り」に似ているのかもしれない。

<神楽坂とは?>
早稲田通りのうち大久保通り交差点から外堀通り交差点までの坂を示す。かつては江戸城下であり、多くの武家屋敷が並んでいた。いまも周辺には白銀町、細工町、払方町(はらいかたまち)、横寺町など、いにしえを偲ばせる名称が残る。大正以降は花街として発展、特に関東大震災で壊滅状態となった向島から芸者衆が移り住み、山の手の銀座と呼ばれるほどの賑わいを見せた。そうした雰囲気に魅せられてか、尾崎紅葉、泉鏡花、江戸川乱歩、横溝正史など多くの作家が移り住み、筆を競い合った。石畳の残る風流な土地柄が人気を呼び、近年は不動産価格も高騰傾向にある。

<訪れた店>
別亭 鳥茶屋
花街の面影を残す芸者小道に静かなたたずまいを見せる人気店。名物のうどんすきは、太く平べったい麺に海と山の幸、季節の野菜や地鶏から出るスープが染み込み、噛むほどに滋味を感じられる。一度食せばリピーターになること必至。神楽坂の早稲田通り沿いにある本店も、連日にぎわいを見せる。東京都新宿区神楽坂3-6 03-3260-6661 営業時間 月~金/昼:11時半~14時半(14時L.O.) 夜:17時~22時(21時半L.O.) 土/昼:11時半~15時(14時半L.O.) 夜:16時~22時半(21時半L.O.) 日・祝/昼:11時半~15時(14時半L.O.) 夜:16時~22時(21時L.O.) 年中無休(年末年始は除く)
www.torijaya.com/

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<岸谷五朗(きしたに・ごろう)>
1964年生まれ。大学時代から劇団スーパー・エキセントリック・シアターに在籍し、舞台、テレビ、映画で活躍する。特に1993年「月はどっちに出ている」では映画初主演にして多くの映画賞を受賞し、高い評価を集めた。94年に独立後、同時に退団した寺脇康文と組み、演劇ユニット地球ゴージャスを主宰。出演以外に演出・脚本も手がけ、毎公演ともソールドアウトとなる人気を集めている。次回のプロデュース公演「ZEROTOPIA」は赤坂ACTシアター(2018年4月9日~5月22日)ほか、全国5都市で公演予定。チケット発売中。
https://www.chikyu-gorgeous.jp/vol_15/

レザージャケット¥570,000、ブルゾン¥320,000、ニット¥92,000、シャツ¥78,000、パンツ¥79,000、靴¥111,000/すべてブルネロ クチネリ(ブルネロ クチネリ ジャパン 03-5276-8300)時計¥2,570,000/ブレゲ(ブレゲ ブティック銀座 03-6254-7211)

掲載した商品はすべて税抜き価格です。

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Photograph:Satoru Tada(Rooster)
Styling:Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair:AKINO@Llano Hair(3rd)
Make-up:Riku(Llano Hair)
Text:Mitsuhide Sako (KATANA)

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