旅と暮らし
俳優・岸谷五朗、街を呼吸する。
第9回 横浜
2018.02.27
横浜にはラブソングが似合う。
だがそれは決して初恋の歌ではない。甘さと苦さを併せ持った大人の恋愛だ。サザンオールスターズの「LOVE AFFAIR~秘密のデート」もそのひとつ。ポップな桑田サウンドながら、描かれるのは男女の不倫。大黒埠頭、マリーンルージュ、ハーバービューといった海沿いのデートスポットを背景に、道ならぬ恋に揺れる心情が描かれる。
この曲にインスパイアされ、作家の東野圭吾が書いたミステリータッチのラブストーリーが『夜明けの街で』。不倫なんてするやつは馬鹿だ――そう思っていたサラリーマンの渡部が、謎を秘めた部下の仲西秋葉に惹(ひ)かれ、良き夫・父親を演じつつ、不倫の関係にのめりこんでいく。この作品が2011年に映画化された際、岸谷五朗が渡部を演じた。
ふたりのオフィスは東京だが、秋葉(深田恭子)と逢瀬を重ねるのは横浜。
「映画でも港の近くでロケをしたので、撮影期間中は毎日この曲を聞いていました。それこそ、朝起きて最初に聞き、起きている間もかけて、夜眠る前にもまた聞くくらいでしたね」と岸谷は当時の思い出を語る。もともと大の桑田佳祐ファン。思い入れもひとしおだったろう。
エキセントリックな役が少なくない岸谷だが、この作品では平凡な男が次第に心を乱されていく様子を繊細に演じている。ネオンと石畳がふたりに寄り添い、艶とともに切なさを感じさせる。間違いなく横浜の風景こそ3人目の主役だろう。
岸谷は山より海に惹かれるという。
「どんな難しい山でも、陸の上にある限り征服できると思う。でも海はそうじゃない。僕たちの想像を超えた何かが海の底に眠っている気がしますね」
さしずめ港町は、日常という陸と未知のものを秘めた海が交わる場所。明らかに異なる真水と潮が決して分けられないように、ここでは倫理すら曖昧となる。たとえ水面が澄んでいなくとも、いや澄んでいないからこそ、そこに映える光に胸騒ぎを覚えずにはいられない。
<横浜とは?>
幕末までは100戸足らずの寒村であったが、ペリーの黒船来航をきっかけとする日米和親条約締結により、諸外国への窓口となる港町として発展を遂げた。関東大震災以後、外国人居留地に滞在していた欧米人が帰国した半面、中国人が在留を続けたことから、東アジア最大の中華街として現在に至る。高度成長期以降、港北ニュータウン竣工、横浜みなとみらい21地区整備に加え、横浜市営地下鉄、東急とみなとみらい線が直通運転となったことで開発が加速し、経済、観光双方で東京に次ぐハブ的な存在感を増している。
<訪れた店>
バーニーズ ニューヨーク 横浜店
1993年、新宿に続き日本第2号店としてオープン。店舗面積では6店舗内で最大となる。家族連れも多く、親子2代で訪れる顧客も少なくない。2013年のリニューアルで、神奈川エリアで人気イタリアンのひとつ「SALONE2007」が入店したほか、シューリペアやバーバーも併設され、よりトータルなライフスタイルショップとしてアップデートしている。開店25周年目の今年は限定商品や特別企画を予定。神奈川県横浜市中区山下町36-1 0120-137-007(バーニーズ ニューヨーク カスタマーセンター 受付11時~20時/ 1月1日を除く) 営業時間11時~20時 年中無休(1月1日を除く)
https://www.barneys.co.jp/stores/yokohama/
<岸谷五朗(きしたに・ごろう)>
1964年生まれ。大学時代から劇団スーパー・エキセントリック・シアターに在籍し、舞台、テレビ、映画で活躍する。特に1993年「月はどっちに出ている」では映画初主演にして多くの映画賞を受賞し、高い評価を集めた。94年に独立後、同時に退団した寺脇康文と組み、演劇ユニット地球ゴージャスを主宰。出演以外に演出・脚本も手がけ、毎公演ともソールドアウトとなる人気を集めている。次回のプロデュース公演「ZEROTOPIA」は赤坂ACTシアター(2018年4月9日~5月22日)ほか、全国5都市で公演予定。チケット発売中。
https://www.chikyu-gorgeous.jp/vol_15/
スーツ¥450,000/チフォネリ、シャツ¥22,000、スカーフ¥18,000/ともにバーニーズ ニューヨーク、靴¥150,000/パオロ スカーフォラ(すべてバーニーズ ニューヨーク カスタマーセンター 0120-137-007)
掲載した商品はすべて税抜き価格です。
Photograph:Satoru Tada(Rooster)
Styling:Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair:AKINO@Llano Hair(3rd)
Make-up:Riku(Llano Hair)
Text:Mitsuhide Sako (KATANA)