カジュアルウェア
ファッション トレンド スナップ22
ビジネスシーンで実践可能なスーツの着こなし。ピッティで最新トレンドを解明
2018.04.26
「スーツのトレンドなんて知らなくても、仕事には影響ないから、いつも同じもので平気」「ファッション雑誌から抜け出たようなおしゃれすぎるのは嫌だけど、さりげなくおしゃれをする方法は知りたい……」
仕事で着るスーツに関しては、いろんなご意見やお悩みがあると思います。
たかがスーツされどスーツと言われるように「いつもとちょっと違うスーツを試着してみたら着心地がまったく違っていた」とか「トレンドの色と言われたスーツを着たら、ちょっとだけ気分が上がった」という声があるのも事実。
そこで、今回は日本のビジネスシーンで実践可能なスーツのトレンドを、イタリアのファッション見本市(ピッティとミカム)のスナップからピックアップしてみました。
パソコンや携帯と同じで、スーツもバージョンンアップが必要ですよ!
トップバッターはこの御仁。ライトグレーの大柄チェックのグレースーツは、昨年から継続しているトレンドのひとつである「英国調スタイル」を採り入れた典型的なもの。
柄スーツは「会社に着ていけない!」という人は、この色めのスーツにトライしてみてはいかがでしょうか。最近は、百貨店やセレクトショップに行くとネイビーのスーツばかり目立って、グレーは隅っこにちょこっとある少数派。でも実は昭和を代表するスーツの色で、ライトグレー、ミディアムグレー、チャコールグレーと幅広く、季節によって使い分けられる万能カラーだったのです。そしてこの色は、靴の色が黒でも茶色でも合わせられるという優等生。
アメリカの50〜60年代の映画やその当時のニューヨークの広告業界を再現したテレビドラマ「マッドメン」を見るとグレースーツが当時は主流だったことがわかります。
話がそれてしまいましたね。
スーツとそのコーディネートに戻りましょう。
サングラスを取るとなかなかの好青年ですね。日本では、ビジネスでサングラスが使用できる業種は限られますが、欧米では目の保護のためと昔からの慣例で、日差しの強い季節にはサングラスでの出勤&営業は一般的。
またまた脱線。話をスーツに戻しましょう。
柄と色もトレンドですが、細かく見るとそのほかにもトレンドが潜んでいます。まずは、上着の襟幅がかなり大きくなっています。確実に8.5cm以上はありますね。これはイタリアのクラシックな手縫いスーツによく見られるディテール。古典的なデザインですが、いまの20~40歳くらいの人には新鮮に映えるのでしょう。スーツの温故知新です。
パンツは、ベルトをしないサスペンダー(ベルトレス)仕様。このベルトをしないデザインは、スーツのパンツに限らずカジュアルなコットンパンツなどにも広まってます。そして、タック入りの右腰には小さなフラップ(隠しポケットのふた)がついています。
こうしたデザインのものは、日本ではセレクトショップや一部の百貨店でしか見かけられませんので、日本で大流行するかはやや疑問……。
スタイリングに関して見ると、ネクタイの選び方にご注目を。
遠目には水玉模様に見えていましたが、よくよく見ると升形で中央が空いています。そして柄と柄の感覚が一般的な小紋タイに比べて離れています。実はこれもネクタイのトレンドのひとつなのですが、あまりにマニアックすぎましたね。
しかし、こうしたミリ単位の違いを出すことで、クラシックなネクタイにトレンドが注入されるのです。こうしたデザインが生まれるのは、イタリアのメーカーの柔軟な生産体制と日本のセレクトショップの担当バイヤーの情熱とがうまく噛み合っているからなのです。
余談ですが、このスーツの生地は一般的な格子柄(ウィンドペン)かと思っていたら、変則チェックのウインドーペーンという超絶生地でした。
ネクタイの結び方にもこの御仁のこだわりが。
大剣(ネクタイの太い側)と小剣(ネクタイの細い側)を、結び目から下を若干ずらしているのです。これは、イタリアのナポリのファッション業界人(普通の人はしてません)がよく使うテクニック。この御仁は、どう見てもナポリの人ではありませんが、そうした技を採り入れるところを見ると、ただ者ではありませんね。
次はモード系のダークグレースーツをシックに着こなしたこの御仁。スリムで上着の着丈も短めの典型的なモードスーツですが、ここにも見逃せないキーワード「英国調スタイル」が潜んでいます。どこが英国調なのでしょうか?
その答えは、右の腰ポケットの上に小さなポケットが付いていること。
これはチェンジポケット、それから傾斜がついていることからスラントポケットとも呼ばれるもので、英国のクラシックなスーツに見られる仕様なのです。そしてとどめは、エリが先の尖ったピークドラペルなのです。この襟型は、イギリスの昼間のフォーマルな上着によく見られるデザインなのです。
同じ英国調のトレンドを採り入れていてもこのおふたりの見かけは、まったく違っています。でも、おのおのの解釈で英国スタイルを採り入れています。
こうしたトレンドをちょっとだけ頭の角に入れておけば、今季新しいスーツを購入するときの参考になるかもしれませんね。
最後に気分転換を。イタリアのフィレンツェで開催されているピティ ウオモというメンズファッション見本市でのスナップなのですが、このような女性を会場でちらほら見かけらるのがこの見本市の面白いところです。このご婦人もトレンドの英国調の生地のスーツでした!
プロフィル
大西陽一(おおにし・よういち)
数々の雑誌や広告で活躍するスタイリスト。ピッティやミラノコレクションに通い、日本人でもまねできるリアリティーや、さりげなくセンスが光る着こなしを求めたトレンドウオッチを続ける。
Photograph & Text:Yoichi Onishi