紳士の雑学

ハワイは究極の旅先なのか 前編
[センスの因数分解]

2018.05.09

田中敏惠 田中敏惠

ハワイは究極の旅先なのか 前編<br>[センスの因数分解]

来春よりANAが東京~ハワイ・ホノルル線に超大型旅客機380を投入、4月25日にそのデザインが発表されました。これはANAがコンペティター(競争相手)であるJALの看板路線・ハワイ線への強化を表した形であり、いままたハワイ路線が注目されはじめています。

海外渡航自由化の1964年より、ハワイは日本ではリゾートの代名詞であり憧れの旅先でありました。そして現在でも日本人に最も愛されている海外リゾートと言って間違いないでしょう。特にワイキキは、英語が話せなくても安心な海外であり、かつてはマハラジャいまは丸亀製麺など、飲食からエンターテインメントまで日本の人気店の支店が進出していて、いわば東京24区といった気軽さを有しています。

その気軽さゆえとでも言いましょうか。快適であるし親しみやすいという魅力は大いに認めながらも、個人的にはハワイ(特にワイキキを中心にしたオアフ島)に物足りなさを感じていました。しかし、その印象は3,4年前からガラリと大きく変化したんです。いまは「ハワイ、なんと深い場所」と思っています。そう、遅ればせながらハワイの魅力に参っているのです。時を前後して、あの沢木耕太郎が、海外でベストな渡航先としてハワイを語っていたことや、ハワイの小説を書いているということも興味が深まる大きな要因となりました。日本を代表するトラベラーと言える作家が究極だと思うのがハワイだなんて……。私の興味のベクトルも、太平洋の真ん中に浮かぶ島々に、どんどん向かって行きました。

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ハワイの奥深さ。それにまず気づくきっかけとなったのが、いまから4年ほど前のハワイ島での体験です。当時編集長をしていた旅行雑誌の特集のために、間をあけずに2度かの地を訪れました。そこで3人のハワイアンに会い、取材をしたのです。ひとりはハワイ伝統医療のひとつ、ロミロミという伝統的ヒーリング術のクム(師)、もうひとりがハワイ島にある野生の花から生まれたフラワーエッセンスのレーベルを立ち上げたCEO、そして昔ながらのハワイアンのライフスタイルを実践しているナチュラリストです。彼らのホームグランドに赴き、一人ひとりに話を聞いてきました。ハワイの自然、人、それらの関わりとは何か……。テーマとした事柄のスケールの大きさから、全容をつかむまでに時間がかかりました。彼らは会って話せば非常に好印象であるけれど、肝心のところになかなか到達できなかったからです。確かに一度話を聞くだけでハワイの、ハワイアンの価値観とはなんぞやを発表するなど都合がいいとも思います。コーディネートをしてくれた人は、ハワイ島に15年以上暮らす日本人の女性ですが、彼女はこう言いました。「ハワイの人は閉鎖的ではないけれど、その本心は少しずつ少しずつ開いていく」と。

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ロミロミを通して知る「ポノ=自己、自然、社会とのバランスよい関わり」「マナ=そのよいバランスが高まっていったときに宿る魂の力」のこと。ハワイ島の自然から生まれた花と対峙するときの姿勢、受け取るメッセージ。神話の世界から続く大地とハワイアンとの関係。これらを突き詰めるとどこかに通じるものがあり、自然と人、そしてコミュニティーとのバランスがカギとなっていました。

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私は2006年よりブータン王国の取材を始め、いまではライフワークとなっていますが、ヒマラヤの小国で敬虔(けいけん)なチベット仏教徒が語ることと、ハワイアンの価値観には大いに共通することがあります。そしてその自然と人、コミュニティーとのバランスとは、ほかの地を訪れ取材をした事にもつながる、ユニバーサルかつ太古の昔から大切にされてきた事柄だったのです。年間数千人の日本人しか訪れない地に何度も赴き、トラベルマガジンの編集長を経験してやっと気づいたこと。それが、自然と人とのバランスの大切さであり、ハワイ島で出会った人たちは、それを決して聖人君子としてではなく、人間臭さを持ち合わせながら、さりげなくストレス少なく実践していたのです。

今年に入ってから、2度ハワイを訪れ、2度ともハワイ島に行きました。森を歩き、大木に触れ、火山をのぞき、溶岩の中を歩き、温泉が湧く池に浮かびながら、かつて取材をして感じたことを確信しました。ハワイを侮ってはいけない、と。それはなにも、自然と人のつながりだけの話ではないことは、多くの人がご存じのことでしょう。街として、リゾートとしてのユニークさに関しても、ハワイはやはり上手です。なんという懐の深さ。次回は、モードも含めたハワイの話をしたいと思います。

追記:この原稿を上げてアップまでの間に、ハワイ島キラウエア火山の噴火があり、多くの人が避難生活を余儀なくされるようになりました。風評被害のような形も含めてこれ以上被害が出ないように祈るばかりです。帰国してわずか、ということもあり私にも「!!!!!」ぐらいのテンションで連絡が来たりしていましたが、現地からのリアルな情報をたよりに、過度な不安を煽(あお)るような情報には惑わされないようにしたいと思っています。東北や熊本同様、日々の暮らしが奪われてしまった方々のお辛さを考えると胸が痛みます。一日も早く、健やかなる暮らしが取り戻せますように。

プロフィル
田中敏惠(たなか・としえ)
ブータン現国王からアマンリゾーツ創業者のエイドリアン・ゼッカ、メゾン・エルメスのジャン=ルイ・デュマ5代目当主、ベルルッティのオルガ・ベルルッティ現当主まで、世界中のオリジナリティーあふれるトップと会いながら「これからの豊かさ」を模索する編集者で文筆家。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』『未踏 あら輝 世界一予約の取れない鮨屋』(共著)、編著に『恋する建築』(中村拓志)、『南砺』(広川泰士)がある。
http://ttanakatoshie.com/

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