カジュアルウェア
ファッション トレンド スナップ24
<Made in London 探訪記 パート1>
モダンな薫りが漂う「アルフィー・ダグラス」のバッグ
2018.05.31
一見質実剛健なのにモダンな薫りが漂う「アルフィー・ダグラス」のバッグ。ロンドンの工房には、老舗にはないエネルギーが充満していた!!
現在のイギリスのファッションブランドの多くは、生まれはイギリスでも生産拠点がイタリアに移ったり、海外の企業の傘下になっているところが多い。イギリスを代表する車のミニが、ドイツのBMWに買い取られたのと同じで、イギリスのメーカーはグローバル化の波にまともにのみ込まれてしまった。
そんな状況下にあって、頑固にイギリスで生産をしているファッションメーカーは数えるほど。今回は、そのなかでも超まれなロンドンでモノづくりをしているブランドを訪ねてみました。
なぜいまロンドンなのかと言うと、ユーロ離脱が決まる前後くらいからさまざまなトレンドを次々と生み出しているから。例えば、古い銀行の建物を改装した話題のホテル「The Ned」ができたり、おいしくないと定評だった食事でも、ビストロ パブなどと呼ばれるパリとロンドンのいいとこ取りした店などが生まれています。ロンドンは、ヨーロッパのなかでも近年まれに見るトレンディーな街と化していたのです。
というワケで今回はちょっと趣向を変え、ロンドンで新進気鋭のバッグブランドを直撃レポート。
アルフィー・ダグラスは、日本でも展開されているバッグブランド。初めてここの商品を東京のセレクトショップ「ヴァルカナイズ・ロンドン 青山」で見たときのことは忘れられない。
シンプルでモダンなデザインながら、革のチョイスや縫製はイギリスならではの伝統的な部分がちゃんとアピールされていたのです。そのうえお店のスタッフの方から、「ロンドンに工房があり、ひとつずつ手作りしています!!」と聞くと増々興味を引かれることに……。
ロンドンの中心地(パディントン駅)から地下鉄で約20分、そのショップ兼工房がある建物に到着。場所は、ロンドンの西側の話題のゾーン、東京の原宿のようなトレンディーなショーディジ地区。
出迎えていただいたのは、このブランドのオーナーでありディレクターでもあるハデンさんご夫婦とその娘さん。アルフィー・ダグラスは、いわゆる典型的な家族経営で、今回はお目にかかれなかったもうひとりの娘さんもこのブランドに参加しています。
創業は2012年。最初は、ネットを使ったオンライン販売からスタート。
すべてのバッグに貫かれているのが、シンプルでムダのないデザインに、いまのロンドンのモダンなエッセンスを若干加えてるところ。そして、イギリスのクラシックなバッグにはあまり見かけない機能性もあるのです。例えば、リュックとトートバッグのどちらでも使えるとか。そしてすべての製品が、自然由来のなめしを施されたレザーを厳選して使っている点も見逃せません。
レザーのチョイスはお父さんの役目。1点ずつ厳しく検査されています。
特に自慢は、イギリスで1000年以上前から脈々と受け継がれている伝統的ななめし方で仕上げられたブライドルレザー。使いはじめは、表面に白い粉が吹いたようになりますが、それをブラッシングして取り去りながら使い込んでいくと美しい深みのある光沢が出てきます。
昔は馬具に使われていたくらいなのでとても丈夫な革なのですが、逆に縫製が大変なので職人泣かせでした。
この工房では、随所に馬具作りと同様の手縫い手法が採り入れています(ただし、すべての商品が手縫いなのではありません……)。
デザインがシンプルな分、素材やステッチの入り方、コバの仕上げが際立って見えてくるということを、ここのスタッフよ良くわかっているのです。
最近は、世界中の販売店から取り扱いをしたいというリクエストが入ってくるようになったようですが、闇雲に販売店を増やさないとか。現在のスタンスを変えることなく自分たちの納得のいく商品を作りつづけていきたいからだそうです。
こうしたことを家賃の高いロンドン市内でやっていけるのは、家族経営で方向性にブレがないから。売れだしたからといって大量生産に変えて利益のみを追い求めていくと、創業当時の理念や製品に対する愛情は消えてしまいます。
蒸気機関を使い産業革命を起こしたイギリスは、効率の悪い伝統的な職人の技を次第に駆逐し新しいワークスタイルを世界に広めていきました。そのイギリスが、インターネットの普及によって新しい価値観が生まれ、仕事のスタイルも変わろうとしています。新しい産業革命がロンドンのこの小さな工房で起こっていたのです。ちょっと大げさでしたか?
現在アルフィー・ダグラスは、青山のヴァルカナイズ・ロンドンを中心に銀座、名古屋、心斎橋の店舗と写真上のロンドンのトレンド エリア、ショーディッジ地区にあるエディット ロンドンで現物をチェックすることができます。ぜひ手にとってハデン一家のバッグに込めたメッセージを読み取ってください!!
プロフィル
大西陽一(おおにし・よういち)
数々の雑誌や広告で活躍するスタイリスト。ピッティやミラノコレクションに通い、日本人でもまねできるリアリティーや、さりげなくセンスが光る着こなしを求めたトレンドウオッチを続ける。
Photograph & Text:Yoichi Onishi