紳士の雑学

ストライプインターナショナル社長 石川康晴
「過去は捨て変革を続ける、グローバル企業へ」前編

2018.07.02

ストライプインターナショナル社長 石川康晴<br>「過去は捨て変革を続ける、グローバル企業へ」前編

地元・岡山から世界へ。レディースカジュアル『アース ミュージック&エコロジー』をはじめ突出した事業戦略で躍進劇を続ける株式会社ストライプインターナショナル。来し方行く末、そして、いまを語るのは創業者で代表取締役社長兼CEOの石川康晴氏。目指すは年商1兆円のグローバル企業だ。

ストライプインターナショナルの東京本部──あくまで本部であり、本社は代表・石川康晴の地元・岡山にある──は歌舞伎座タワーの高層階に位置する。ちょうど出社時間と重なる頃合いか、社員から通りすがりにあいさつをされること十数回。企業取材は数こなせど意外にない経験だった。この後の取材で石川が語った「うちの社員、傲慢(ごうまん)だった時期があって」はもはや想像ができないし、いずれにしても過去のこと。

2年前に社名をクロスカンパニーからストライプインターナショナルに変更した。宮﨑あおいを起用したレディースカジュアル『アース ミュージック&エコロジー』のほかブランド数はグループ会社含めて30以上。近年はアパレルだけでなくコスメや飲食、ファッションECなど新規事業を手掛け、M&Aでの業界再編も進む。
「簡単に言ってしまえば、ソフトバンク、ユニクロ、ゾゾタウンの組織を足したような企業を目指しています。これらの時価総額を合わせると10兆円規模にはなりますよね」、大きく出たところで石川は笑う。「まぁ、それは期待値なので。まずは年商1兆円を目指します」

空が近く、日当たりのよい会議室で石川はうなずく。創業から24年、ライバルは名だたる大企業だ。けれど、始まりは4坪のセレクトショップだった。

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主力ブランドは生きるか死ぬかの瀬戸際で生まれた

石川が起業を志したのは中2のときだ。お年玉の全額を服に費やしていると「店員のお兄さんから『そんなに好きなら洋服屋をやりなよ』って。そのひと言がスコーンと頭に入ってきたんです。これも中二病と言うんでしょうかね(笑)」

紳士服メーカーを経て23歳で岡山にレディースのセレクトショップをオープンした。94年のことだ。
「レジは中古のものを2000円で買い、ハンガーは近くの100均で400本購入しました。取りに行ったら段ボール15個分。台車を借りて商店街を何往復もしたことを鮮明に覚えてますね」

社員は当初自分のみ。金髪にショートパンツで商談に出向いたため国内メーカーには門前払いをされた。どうしようか、ファッション誌をめくるうち、海外のアトリエの住所が目に留まった。石川は、カシオの翻訳機を片手に片っ端からファックスを送った。チャレンジはしてみるもので数社から返信があり、海外に買い付けに行くことになった。

「といっても、オープンからしばらくは一日の売上が8000円とか。お客さんが来ないから1人に2時間接客していました(笑)。それがよかったのか、信頼関係が生まれましたね。ある日、お客さんにジャケットをすすめていたら新品なのに裏地に穴が開いていた。動転している僕を見てお客さんは『定価で買います』って。その気遣いに泣きそうになりました」

お客さんに支えられながら会社は急成長した。毎年倍々ベースで売上を伸ばし3年目には6000万円の最高益を出す。「オレって天才?」、26歳の若者は当然のように天狗になる。上がった男はけれど、次の瞬間、生命保険の額を調べるまでに追い詰められた。99年のことだ。

「社員は僕を含めて14人になっていましたが、10人がほぼ同時期に退職したんです。当時、お店は4店舗。4店舗を4人で回すって……(笑)。工場の支払いも遅れ、先方からは『お前が死ぬか、俺が死ぬか』ぐらいのことも言われました。社員はいない、お金はない、お客さんも来ない、だけど、店はあるから立たなきゃいけない。もうボロボロでした」

あるとき、レジの底から手紙が出てきた。辞めた社員が友人宛に走り書きして、そのまま忘れてしまったらしい。『うちの社長がバカだから、私は会社を辞めることにしました』、ついのぞき見て、その場にへたり込みそうになる。この1、2年に石川はもっと、もっとと高額な商品ばかり仕入れてきた。結果、客は離れ、店は在庫過多に陥った。

「当時の僕は残ってくれた社員を守り抜く、その思いだけで働いていたんですけど、手紙の衝撃で逆に一からやり直す覚悟ができましたね。それまでアヴァンギャルドな服を仕入れ、高価格帯で売ってきた。これからはその逆、ベーシックでリーズナブル、仕入れではなく自分たちで服を作ってみようと思い立ったんです」

その年の9月、『アース ミュージック&エコロジー』の第1号店を岡山にオープンした。死を意識した日々からわずか半年ほど。開店30分前、店に着くとビルをぐるりと人が取り囲んでいた。数にして500人。目頭が熱くなる。ありがとう、ありがとう、ありがとう、本当にありがとう。石川はその場の全員と握手した。

後編につづく>>

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Photograph : Kentaro Kase
Text : Mariko Terashima

<プロフィル>
石川康晴(いしかわ・やすはる)
1970年、岡山県生まれ。現・ストライプインターナショナル代表取締役社長兼CEO。岡山大学卒業、京都大学大学院修了。小学生からの洋服好きが高じ、紳士服メーカーを経て94年に独立。岡山でレディースのインポートセレクトショップ『クロス』をオープン、95年に前身となるクロスカンパニーを設立した。2011年の中国進出の際は上海に駐在し、反日デモがピークの日々に自ら現地で指揮を執った。地元・岡山での活躍も知られ、10年には地域の活性化と若手支援を目的とした「オカヤマアワード」を設立。公益財団法人石川文化振興財団理事長なども務める。趣味はマラソンとアート。車椅子のアーティスト、ライアン・ガンダーの日本随一のコレクターを自認する。社内ではマラソンとテニス、料理部に所属。女子社員に手作り角煮を振る舞ったことも。

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