調べ・見立て(見立て)
編集長の「見立て」。
メールと手書きの礼状について、ビジネスマナーを考察してみた。
2018.06.20
アエラスタイルマガジンでは、現代のビジネスマンには「スマート」な男性を目指してほしいと考えています。ここで言う「スマート」とは、「賢い」とか「バランスのいい」という意味。ファッションの知識やセンスだけにたけている男性、仕事にがむしゃらに突き進むだけの男性、いずれもいまどきの理想とは言えません。
こういった考え方から、アエラスタイルマガジンWEBの「調べ・見立て」で「ビジネスマナー世論調査」のコンテンツをアップしています。5月30日と6月11日にそれぞれアップした、「ビジネスシーンで手書きの礼状を書いたことがありますか?」「取引先からのビジネスメールにどのように対応しますか?」という2つの質問に対する読者の皆さんの回答をチェックしてみましょう。
昨今では、ビジネスのさまざまなやり取りにメールが活用されています。ただ、メールの文面や頻度は、業種や会社、そして人によってまちまちです。何が常識で何がマナー違反なのかは、日々様子が変わっているように思います。
私が仕事をしている相手に、どんなメールにも5分を待たずして返信してくる営業マンのK氏がいます。あまりのスピードに驚いてコツを尋ねてみたところ、「スマホから目を離すことができない性格なので」と謙遜してはぐらかされました。
しかし、彼が返信のスピードを仕事の心掛けにしていることは明らかです。メールを確認したことを伝える→すぐに答えられる範囲で回答する→詳細は何日までにと回答期限の目安を述べる。完璧でなくとも、そのときの状況をすぐに返すのが、彼の流儀です。目からうろこでした。私自身、2000年代の初めに外資系の出版社に勤めたとき、その会社には「メールの返信は24時間以内」というルールがありました。海外からでも時差に関係なく届くメールに、24時間以内に完璧な返信をしようとして、苦労したものでした。そのころにK氏の手法を知っていればと、いま思うのです。
アエラスタイルマガジンWEBに掲載した「取引先からのビジネスメールにどのように対応しますか?」という質問に、「まずは、メール着信直後に返信する」と回答した人は38%にも上っています(6月18日現在)。その他の回答は、「その日のうちに返信する/32%」「回答内容が整ってから返信する/23%」「とくに決めていない/7%」。どうやら、「着信直後に返信」もしくは「その日のうちに返信」がもはや常識になっているようです。スピード感がクオリティーを凌駕する場合もある、現代のビジネス状況を反映した結果と言えるでしょう。
一方で、「ビジネスシーンで手書きの礼状を書いたことがありますか」に「ある」と回答した人は59%となっています(6月18日現在)。仕事ができる人には、筆まめが多いと言われています。メールにとどまらずラインでも仕事のやり取りをするようになったいまでも、いや、そういった時代だからこそ、仕事相手から「直筆のお礼状」をいただいたときの喜びは格段に大きいものです。接待の会食のあと、季節の贈り物をいただいたとき。そんな折にさっと一筆したためる労をいとわない人からは、仕事への真摯(しんし)な姿勢が感じられます。
じつは、この「さっと一筆」というところがポイント。すぐに書く、送るというタイミングを逸すると、礼状は意味を成しません。その意味では、「仕事ができる人には筆まめが多い」のではなく、「筆まめの人は仕事ができる」と言ったほうが正しいのかもしれません。
手紙の文字が達筆であれば、なおよし。もしもあなたが、字がへたであるという自覚があるならば、万年筆で書いてみるといいでしょう。インクでスルスルと書かれた文字は、ボールペンで書かれた文字よりも何倍も上手に見えるものです。そして、さっと礼状を書くときに使えるレターセットをデスクに忍ばせておくのも有効です。季節の挨拶を冒頭に書かずとも、相手との具体的なエピソードや正直な気持ちを書けば伝わります。
「メール着信直後に返信」。「折に触れて、手書きの礼状」。現代のビジネスマナーとして定着の兆しのあるこの習慣、あなたも心掛けてみてはどうでしょうか。
プロフィル
山本晃弘(やまもと・てるひろ)
AERA STYLE MAGAZINE編集長
「MEN’S CLUB」「GQ JAPAN」などを経て、2008年に朝日新聞出版の設立に参加。同年、編集長として「アエラスタイルマガジン」をスタートさせる。新聞やWEBなどでファッションとライフスタイルに関するコラムを執筆する傍ら、幅広いブランドのカタログや動画コンテンツの制作を行う。トークイベントで、ビジネスマンや就活生にスーツの着こなしを指南するアドバイザーとしても活動中。初の執筆書籍「仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。」を、3月16日に刊行。
Photograph: Hiroyuki Matsuzaki (INTO THE LIGHT)
Styling: Tomohiro Saitoh(GLOVE)
Hair Make: Ryo (COME HAIR)