旅と暮らし

ONE-TRACK MIND
長瀬智也、一本気な男の流儀。

2018.06.26

写真・図版
スーツ¥160,000、シャツ¥18,000/ともにランバン コレクション(ジョイックスコーポレーション 03-3486-1573)、タイ¥12,000/ユニフォーム・エクスペリメント(ソフ 03-3402-1630)、その他はスタイリスト私物。

自身の仕事に、ひいてはその生き方に真摯(しんし)に向き合う男の独自の“哲学”を浮き彫りにする本誌名物の表紙&ロングインタビュー企画。今回は、不撓不屈(ふとうふくつ)の精神で熱く闘うこの男──。

青天の霹靂(へきれき)だった。時間をかけて地道に築いてきたものが、音を立てて崩れていった……。

トラック走行中にタイヤがはずれてしまう大事故を起こした赤松運送。その若社長・赤松徳郎は、事故の原因は整備不良ではなく車両の欠陥だと確信し、製造元の大手自動車会社にたった一人で立ち向かった。

6月15日に公開された映画『空飛ぶタイヤ』で、赤松を演じた長瀬智也。そこにはどのような思いがあったのだろうか。インタビューは4月半ばに行われた。

窮地に陥った赤松が我が身のふがいなさを嘆くシーンがある。

「自分の芝居を見て『俺、こんなに絶望的な顔をしてたのか』と驚きました。赤松にはそういう顔を見せられる妻(深田恭子)がいる。僕は独り身なので、一人で抱え込んで解決するしかないから、赤松を少しうらやましいと思いましたね。ただ、僕自身は、落ち込むことがあっても、あたふたしたくない。むしろ冷静になるタイプ。『もうダメだろうな』と思ったらそれまで。いつも闘っている人間に魅力を感じるので、自分も闘っていたい。そうでないと、行動に深みが出ないと思う。何かに諦めた人が歌うのと、闘っている人が歌うのとでは、闘っている人が歌うほうが胸に来るものがあると思うし。自分が『いい』と思ったものに対して突き進む、根拠のない自信を大切にしています」

インタビュー中、長瀬は何度も「自信」という言葉を口にした。それは7歳から親しみ、プロ級の腕前を持つスケートボードで培われたものだという。

「階段を飛び降りたり手すりを滑り降りたりするとき、いつも成功することだけをイメージして向かっていくんです。失敗したら骨折するから、やっぱり恐怖はある。だからこそ失敗することは考えない。このスピリッツは歌やお芝居にもあります。スタートしたら止められない、前に行くしかない」

作品中、赤松は真実を暴くべきだという信念と、会社存続のためには早急に自動車会社と手打ちすべきだという社員との板挟みになり、組織を維持することの難しさに直面する。理想論だけでは、人はついていかない。

「僕がいる会社もどこの会社もそうだけど、すぐ隣にはまったく違う考え方の人がいる。でもそういう人たちと一緒に仕事しなければならないのだから、思いやることも、素直に意見をぶつけることもどちらも大事。ただ、最終的にはやはり他人は他人。自分の思いを押し付けることはしたくない。僕自身、誰かと同じ人間にはなりたくないですし。孤独で寂しい思いをしても、それはそれでいい」
 
20代のころは、意図的に芸能界に背を向け、バイクや音楽仲間とともに過ごしたという。共通の趣味でつながった、まったく違う仕事をしている仲間たち。彼らに学ぶことは多く、互いをリスペクトしてきた。“芸能界”に関わってみようと前向きに思うようになったのは30代。時期が遅かったせいか、いまも客観的に見ている部分があるという。

「こういうふうにテレビに映ったら人気が出るんじゃないか、と考えて行動するのは、僕の生きる世界ではないような感じがします。会社に置き換えれば、仕事をするときに上司によく見られるかどうかを気にするようなものですよね。そんなことは、僕にとってはどうでもいいんです。興行成績や視聴率は残酷だけど、そもそもそういったものには昔から恵まれていなかったし、どうやったって必ず何か言われる世界ですから。それでもこうして『一緒に仕事をしよう』と声をかけてくれる人がいて、少ないかもしれないけど、『あいつの作品が観たい』と待っていてくれる人がいる。その思いに一生懸命応えたい。すべての人に80%わかってもらおうとするよりも、わかる人に120%わかってもらえるよう努力する。結果に傷つくことがあっても、そこはある意味バカなふりをして気にしないようにしています。じゃないと、自分の心が保てないから」

「誰にも負けない」、そう思うから演じる

今年40歳になる。だんだんと肩書=アイドルは難しくなる世代でもある。

「アイドルや役者といった概念がもともと僕にはないんです。お芝居は長くさせてもらっているけど、一生役者とは名乗れない、名乗りたくない……。音楽もやるし、バラエティー番組にも出るし、いろいろなことをしてきた僕だからこそできることがきっとあるはず。それを表現することがいまの自分にとっていちばん正しいことだと思う。作品のオファーをいただいたとき、『これは俺じゃないほうがいい』と思ったら率直にそう言っています。その代わり『これを演じたら絶対に誰にも負けない!』と思うものは自信を持って演じさせてもらう。仕事をしている人はみんなそうだと思いますよ。任された仕事に最善を尽くすということです」

何事も判断の基準が、他人ではなく“自分”。だから、自分に嘘をついたり、自分が恥ずかしくなるようなことをしたりしない限り、炎は消えることはない。モノづくりにおいては、時に目上の人に意見することもあるが、それがいいものを作るために発した言葉である限り、嫌われることはないと思っているし、たとえ嫌われても構わない。逆に相手を傷つけたとしても、「申し訳ないけど仕方がない」と割り切る。

「それよりも、自分にはしなきゃいけないことがある、行かなければいけない場所がある。そこで思いがけない出会いもあるから、がんばれたり、次に行けたりするのだと思う」

──確信を握り締めた人間の足取りの強さは、誰にも負けない。長瀬は赤松の行動をそう表現した。赤松の姿は長瀬に重なる。

「苦しいとき、諦めて流れに任せることは簡単ですけど、それで将来『これでよかった』と自分で思えるかどうか。そういう意味では、これまでずっと闘ってきて、いまこれでよかったと思っています。そういうものって、作品に大きく反映されると思います」

逆風吹き荒れるなか、地を這(は)いながら進んだ赤松のように、長瀬は闘いつづける。

長瀬智也(ながせ・ともや)
1978年、神奈川県出身。94年TOKIOのメンバーとしてCDデビュー。主な出演作にドラマ『ごめん、愛してる』(17/TBS)、『フラジャイル』(16/CX)、『クロコーチ』(13/TBS)、映画『ソウル』(02/長澤雅彦監督)、『ヘブンズ・ドア』(09/マイケル・アリアス監督)、『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(16/宮藤官九郎監督)がある。

アエラスタイルマガジンVol.39ではここでは見られない写真多数掲載!
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【INFORMATION】
『 空飛ぶタイヤ』原作/池井戸 潤、監督/本木克英、出演/長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生、深田恭子、岸部一徳、笹野高史ほか。原作は累計180万部を突破した大ベストセラー。池井戸作品待望の初映画化。公開中。Ⓒ2018『空飛ぶタイヤ』製作委員会

Photograph:Masaya Takagi
Styling:Takashi Nii
Hair & Make-up:Shuji Akatsuka(MAKE-UP ROOM)
Text:Yukiko Anraku

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